書評 佐々木紀彦著「5年後、メディアは稼げるか」

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2017年11月20日

新聞・雑誌の生き残る道はどこに
野洲 修(西東京市在住)

 著者は、日本を代表する経済誌のウェブ版編集長。紙媒体の職場からウェブに転じ、多くの読者を獲得してきた実績を持つ。その経験を基に、紙媒体中心のメディアがウェブで稼ぐ道筋を考えたのが本書だ。

 紙媒体の代表格と言えば新聞社。新聞は92年前にラジオ放送、そして64年前にテレビ放送が始まった時、速報性に劣るゆえ近々消えると予測された。だが今なお、重要なメディアの1つであり続けている。

 新聞社が生き残った理由は、いくつか挙げられよう。たとえば、一定水準以上の取材力を身に着けた記者が大勢おり、国内外の出来事を速やかに発信できる点。正確で新しい情報は質の良いコンテンツであり、新聞社の大きな持ち味だ。テレビやラジオ(特に民放)にも報道記者はいるが、新聞社に比べるとはるかに少ない。現に、テレビもラジオも、情報番組ではしばしば新聞社や通信社の記事を引用している。

 だがインターネットの急速な普及は、新聞・雑誌を荒波の中へ巻き込みそうだ。著者は「(新聞や雑誌が)今後の危機を乗り越えるには、いいコンテンツだけでは不十分」と言い切る。そのうえで、紙媒体の新聞・雑誌がウェブ版で稼ぐ方法を考察する。

 紙優先からウェブ優先に経営方針を改め、「一定数までの記事の閲覧は無料、それ以上は有料」という方式で有料会員を多数獲得した米国の経済紙など、先行する海外の具体例が示される。このやり方を続けていけば将来は安泰、という解決策こそ見つかっていないが、日本の新聞・雑誌にとって今後の参考になるヒントが詰まっている。

 本書が刊行されたのは2013年。つまりタイトルの「5年後」は来年に迫る。もっともらしいウソを織り交ぜ、人々を混乱させるフェイクニュースが話題に上る今日、信頼性の高い情報を発信する媒体が生き残れるかどうかは、あらゆる人の関心事だろう。メディアで働きたいと考えている若い世代にも一読を勧めたい。

 

【書誌情報】
書名 5年後、メディアは稼げるか
著者 佐々木 紀彦
出版社 東洋経済新報社
定価 1,296円(税込)円
ISBN 9784492762127

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