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【書評】川合伸幸著「怒りを鎮める うまく謝る」

By in 書評 on 2017年12月26日

◎怒りのメカニズムから赦し効果までも明らかに 

 石川慶子(広報コンサルタント)
 

 本著は、怒りや謝罪について科学的にアプローチした意欲的な内容で、個人の怒りを鎮める方法や効果的な謝罪とはどのようなものか、ということを実験調査による研究に基づいて解説している。

 著者によると恐怖については心理学研究、科学的メカニズムの研究はされており、海外でも多くの類書があるものの、怒りの研究が少ないという。研究に偏りがあるのは意外なことであるが、アンガーマネジメントという訓練に22万人が受講している(日本アンガーマネジメント協会発表2017年12月)事実からすると、怒りを鎮めることへの関心は高まっているといえる。

 6つの章立てとなっており、怒りのメカニズム、関係の修復、効果的な謝罪、怒りの抑え方、仕返しと罰、赦し、から構成されている。私が着目したのは、怒りの抑制方法と効果的な謝罪、そして赦しの考え方の3つである。怒ると心拍数、皮膚表面温度が上昇するといった循環器系の活動が高まる。怒る自分を傍観者にすると怒りは抑えられるという研究結果から、筆者はある実験をした。侮辱されたときに感情を書きだすという実験だ。その結果、侮辱された時に自分の気持ちを書きだすと心臓の血流は平時とほとんど変化しないのに比べて、侮辱された後自分の気持ちと向き合わなかった場合は血流量は顕著に多くなるというのだ。つまり、自分の気持ちを書くだけで心理的にも身体的にも怒りが抑えられる。抱いた感情を抑えたり放置したりせず、その感情に向き合って表現する行為が感情をコントロールする要になるということだ。これは職場や家庭で活用できる手法ではないだろうか。

 効果的な謝罪についてはスタンフォード大学シューマンの研究を紹介(2014)、中心になるのは3つの要素、1.悔恨、2.責任、3.補償。付加的要素は5つあり、1.経緯の説明、2.改善の誓い、3.被害者への労り、4.不適切な行為の認識、5.容赦の懇願。反対に悪い謝罪の要素は、1.正当化(そのつもりはなかった)、2.逆ギレ、3.弁解(急いでいたから)、4.矮小化(冗談のつもりで)。これはその通りだが、実験データがないのは残念。

 最後の章は「赦し」について。ハーバード大学のランドらの実験結果で仕返しや罰が有効ではないことを解説。公共財ゲームでプレイヤーが非協力的な人を罰するか、協力的な人に報いるか、を比べたところ、罰ではなく報酬を報いた方が全体として集まる共有のお金が増えたという。ふるさと納税を考えるとわかりやすい。

 ここまでは普通に納得。「赦す対象は行為ではなく、人である」。この言葉は考え深い。ルワンダの大虐殺、アパルトヘイト、パレスチナ問題、ビン・ラディン。「あいつを赦さない」ではなく「あの行為を赦さない」というメッセージを出すことで私たちは恩讐を超えることができるのではないだろうか。データ解説本と思ったが、世界の悲劇から見た赦しという意外な終章で考えを深めることができた。

 

 

【書籍情報】
書名  怒りを鎮める うまく謝る
著者  川合伸幸
出版社 講談社
定価   821円(税込)
出版年  2017年9月
ISBN  978-4062884440
新書  講談社現代新書 184ページ

 

 

【筆者略歴】
石川慶子(いしかわ・けいこ)
 広報コンサルタント。東京都生まれ。東京女子大卒。参議院事務局、映画製作、広報PR会社を経て2003年独立。平時・緊急時の戦略的広報の立案やメディアトレーニングなどを提供。講演活動やマスメディアでのコメント多数。有限会社シン取締役社長、日本リスクマネジャー&コンサルタント協会理事、日本広報学会理事、公共コミュニケーション学会理事。著書は「マスコミ対応緊急マニュアル―広報活動のプロフェッショナル」(ダイヤモンド社)など。

 

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