小さな公園の大きな可能性 野菜市で地元産品の市民イベント

投稿者: カテゴリー: 暮らし環境・災害 オン 2018年6月7日

野菜市は行列ができるほど!

 西東京市の公園は大小合わせて約270カ所。半数は300㎡未満の小さな公園です。ほとんど利用されない小公園に賑わいを呼び寄せようと、地元の農家や商店、大学などが連携する市民有志のプロジェクトが始まりました。その中心となって活動する若尾健太郎さんの報告です。(編集部)

 西東京市の住吉町第三公園で6月3日、「小さな公園の野菜市」と「西東京野菜大好きコンクール」が開催された。この公園は約340㎡。西武池袋線ひばりヶ丘駅から線路沿いに10分ほど歩いた住宅街の一角にある。こぢんまりした会場には、農家が店頭に立つ新鮮野菜の直売があり、地元商店の人気商品紹介ブースが並んだ。野菜をテーマにした作品コンクールも実施された。大学の研究室が空間を演出し、普段は静かな公園が、近隣の人々で賑わった。小さな公園を活用して住みやすいまちづくりを目指す市民有志チーム「ひばり日和。」が、昨年11月に次いで手掛ける2回目のイベントだった。

 この市民活動は、西東京市が2016年から17年にかけて、公園配置計画策定のために開いたワークショップが切っ掛けとなった。参加した市民は数多い小規模公園の維持管理や活性化が課題だと知り、市民が主役となって何ができるかアイデアを出し合った。その過程で「食や農」をテーマに活動しようと「ひばり日和。」が生まれた。

 

 メンバーは全員が西東京市在住者。筆者以外の4人は、市外の組織や企業で働いている。企業の社会貢献活動・情報発信担当のデザイン専門家、行政とのコーディネートに長けている地方公務員、公園を核としたまちづくりのコンサルタント、プロジェクトの進行管理を得意とする大手建設会社員。わが町をよくしようとそれぞれ積極的に活動している。仕事で得た知識・経験を生かし、仕事以外で社会貢献する活動は「プロボノ」と呼ばれる。「プロボノ」はラテン語で「公共善」を意味するという。「ひばり日和。」はこういう専門家集団プロボノチームとして生まれた。

 イベントのメーンとなった野菜市は、近隣の若手農家「レイモンドファーム」の岩崎亮介さんが出店した。岩崎さんのブースには、見た目も綺麗な新鮮野菜の数々が並び、早くも収穫されたとうもろこしが来場者の目を引いていた。岩崎さんも「予想以上の売れ行き」と言うほどだった。そのため、野菜を後から追加したものの、開始から2時間で完売となってしまった。

 

売れ行き好調だった野菜市。右端が筆者

 

 新鮮な野菜が買えると聞いて訪れた人も多く、「最近引っ越してきたが、農家さんがどこで、どのように作っているか知りたかった。こういう機会に地域のことを知り、嬉しい」という声があった。野菜市の他にも、「ひばり日和。」オリジナルのTシャツや缶バッジを販売し、地元の商店の人気商品を紹介するコーナーも設けた。

 初の試みとして野菜コンクールを実施した。西東京市の魅力の一つとして「農業」を知ってもらうこと、地元の農家と消費者の接点をつくること、地域の人が公園に滞在して交流することが目的だった。

 コンクールには、近隣に住む子どもたちが参加した。保育園でコンクールの存在を知ったという親子は、2歳の女の子の手足に絵の具をつけて野菜を描いた作品をエントリーした。11歳と7歳の兄妹は、「克服したい野菜」と「好きな野菜」の絵をそれぞれ即興で描いた。その他、旬の野菜を形どった粘土の作品、レシピなども出品された。来場者は公園内に飾られた作品の質の高さに感心しながら見て回った。最優秀賞と優秀賞は審査委員長の岩崎さんによって決定され、2歳の保育園児と小学生の兄妹が受賞した。

 

体の一部で描いた2歳児の野菜の絵

 

 イベントは、この公園を管理する「西東京の公園・西武パートナーズ」が共催、西東京市みどり公園課が協力して開かれた。

 前回から全面的に協力しているのが武蔵野大学伊藤泰彦研究室だ。今回は、凹凸(おうとつ)のある帯状のシートを設え、公園の空間を華やかに演出した。シートは3つの「サイズ」をテーマとしている。1つめは、3つの小さな公園が連なって構成されている住吉第三公園の「公園のサイズ」感を表している。2つめは、寝転ぶ・凹凸を感じることなどで人の「身体のサイズ」を表している。3つめは、虫眼鏡で見ることができる小さな文字や文章をシートに織り込むことで「虫になったような世界観」を表している。そのうえで、シート上では、コンクール作品を配置したり、来場者が寝転んだり、印刷された文字を読んだりすることができるようにした。伊藤ゼミの空間演出によって、日常の公園が非日常に変わり、来場者は思い思いにその世界観を楽しんでいた。

 

シートの上に寝転がったり、スープを飲んだり、クイズを楽しんだり

 

 イベントのクライマックスでは、野菜スープが来場者に振る舞われた。野菜市で出された朝採れ野菜をふんだんに使い、少量の塩とコンソメのみで味付けしたスープは、子どももお代わりをせがむほど大好評だった。「こんなに野菜に旨味があるなんて知らなかった。普段どれだけ調味料に頼っていたか」と話す来場者もいた。

 昼前にはコンクールの授賞式を行い、このイベントを締めくくった。来場者からは「普段来ている公園が使われて嬉しい」「子ども向けの取り組みも行ってほしい」「自分がやっているワークショップとコラボレーションしたい」などの声を聞くことができた。

 事前準備として、公園の草取りや遊具のペンキ塗りといった作業を私たちのチームが行った。そのため指定管理者からは「小さな公園を活用するだけではなく、維持管理にかかるコストを削減できるのは大きい」と言っていただいた。

 イベントを終え、チームからは次回に向けて「地域の人々と一緒にペンキ塗りなどのワークショップを行おう」「地域の商品を認定・紹介し地元商店に貢献しよう」などの企画案が既に出てきている。

 

ペンキ塗り作業後のメンバーと近隣住民。前列右が筆者

 イベントを一過性のものとして終わらせないためには、「プロボノ」の力を最大限に生かして、チームの組織基盤の強化と活動の戦略を練っていく必要がある。これらの課題を乗り越え、公園や地域の魅力を活かした活動を行っていくことで、住民が主役の地域活性化を目指したい。
(若尾健太郎)(写真は筆者提供)

 

【筆者略歴】
若尾健太郎(わかお・けんたろう)
 西東京市在住、在勤。地域振興コンサルタントを行うまちづくり会社「ユニココ」を2012年に設立。地方自治体やNPOの地域活性化に関する計画作成やプロジェクト運営を支援する。西東京市では、任意団体「ノウマチ」(岩崎智之会長)を設立し、農とまちづくりをコンセプトとするコミュニティー農園「みんなの畑」を運営。

 

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