世界一の福祉都市へ?

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2015年4月16日

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第3回

師岡武男 (評論家)
 
 

  2015年度に入った。国民の生活にとって、アベノミクスの行方は大きな関心事の一つだが、もっと直接的に医療、介護などの社会保障の悪化の心配がある。国民全体に、安心・安全への不安感が広くただよっているのではないか。しかもその悪化のしわよせが自治体に押しつけられそうである。

 政府による「国民生活に関する世論調査」(14年6月)での「政府に対する要望」は「医療・年金等の社会保障の整備」が68.6%でトップ、「高齢化社会対策」が54.9%で3位、(2位は「景気対策」58.7%)だった。整備とか対策とかの言葉にこめた民意は、大部分が「充実」を求めているだろう。

 政府は社会保障政策については「改革」とか「見直し」の言葉は使うが「充実」とは決して言わない。民間(新聞など)もそれに従うものが大部分だ。しかし改革も見直しも、真意は「効率化」「重点化」「コストダウン」であり、つまりは「抑制」なのだが、「霞が関用語」でごまかそうとしているのだ。世論調査で使った「整備」は、まだしも民意に沿った用語と言えよう。

 さて、社会保障充実は、どの政党も口をそろえて言う「安心・安全」の国づくりの基本である。そういう国の形は「福祉国家」と呼ばれ、学問用語にもなっている。ヨーロッパには現実にたくさんあるが、日本はそれには該当しない。日本の憲法は明らかにそれを目指しているが、自民党中心の政治が妨げてきた。代わりに使われたのが「日本型福祉社会」である。「中福祉中負担」などとも言う。政府としては、福祉国家と呼ばれたくもないし、作りたくもないのだ。

 ならば民意はどうなるのか。民主主義社会なら、民意は当然実現されなければならない。国家がやろうとしないなら、先ず自治体から作りあげてゆくことを目指すしかないだろう。国家が抵抗勢力ではしんどいことだが、やるしかない。統一地方選挙ではそういう意気込みの政治家が勝ちあがってくれることを祈りたい。

 幸い全国の自治体には「福祉都市」とか「福祉健康都市」「健康福祉都市」などを宣言しているところが、かなりある。西東京市は「健康都市宣言」をしている。最近目立ったのは、舛添東京都知事が「東京を世界一の福祉都市にする」と公約したことだ。昨年、当選後間もなくの記者会見で、三大政策の一つに挙げた(他の二つは、「東京を災害に強い都市に」「東京オリンピックの成功」)。「世界一」とはまた大風呂敷だが、「棒ほど願って針ほどかなう」のが世のならいだから、意気を壮として歓迎しよう。

 先日(3月23日〉西東京市民会館で開かれたシンポジウム「年金・医療・介護は今後どうなるか」に出てみた。人数は多くはなかったが、草の根から福祉都市を作りあげてゆかねば、という運動の一つだ。さまざまな形で声を挙げて、社会保障抑制に抵抗する動きを騒然と高めてゆきたいものだ。それが福祉国家づくりへの道を踏み固めることになると思う。(了)

 

 

 

師岡 武男
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