「憲法改正」を争点にしたいが―

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2016年3月7日

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第13回

師岡武男 (評論家)
 
 

◆世界中の政治、経済、社会が荒れ模様の中で、私たちの日本はどうなるか、どうすべきか、という不安感が国民の間に広がっているのではないだろうか。世界の中の日本ではあるが、日本が自主的にやれることはやるべきではないか、と考えたい。

◆生活者としての人々が、なにより大事だと思うのは安全と安心の確保だろう。逆に不安の最たるものとして、貧乏、病気、戦争、天災を挙げて、異論はあるまい。旧いことわざでは、地震、カミナリ、火事、親父という天災・人災が代表だったが。

◆これらの不安を未然に、あるいは事後に防ぎ、手当するのが、政治と経済政策の大きな役割である。そう思って今の日本の安倍政権の政治、経済を見ると、大変心配になることが多いと言わざるを得ない。「積極的平和のためには戦争も辞さない」と言う憲法改正(または解釈)、貧困と格差拡大の新自由主義競争経済、の二大政策が問題の中心である。

◆安倍政権のやり方は、最近まで、まず経済でデフレ克服、成長実現で人気と得票を確保して、その勢いで憲法改正を強行する作戦のように見えた。しかし経済で圧勝するというもくろみは、成功が覚束ない情勢になっている。景気対策を総動員する構えではあるが、肝心の財政出動をどこまで決断できるかが、これからの焦点だ。消費税増税再延期はその要である。しかし野党側が先手を打って消費税凍結方針を出しているので、決め手にはなるまい。

◆野党側は安保法廃止を最大の争点として参院選に臨むので、安倍政権も「争点隠し」はできず、これに正面から答えなければならない。当然その必要性を強調するだろう。

◆しかし安倍首相は最近、安保法の弁護だけでなく、憲法改正を自分の在任中に実現したい、と表明した。国際情勢の荒れ模様に乗じて、という思惑もあるかもしれない。

◆もしこれを参院選の争点にするとしたら、まさに次元の違う政治的挑戦である。その場合は、改正案の具体的内容もある程度示さなければなるまい。とてもそこまではできないだろうが、在任中にやるという公約を掲げるだけでも、大きな争点になる。参院選は、憲法改正をめぐる「決戦」の様相になるかもしれない。

◆国民も、憲法改正の政府を信任するかどうかの選択を迫られる。小泉内閣の「郵政民営化、是か非か」とはケタの違う選択である。

◆いつかその決戦の時が来るかもしれないが、しかし今、国民が切実に求めているのは、はそんな大きな選択肢ではないだろう。争点になったら、結果として、自民党に有利になるとも思えない。

◆当面の争点は、「アメリカの戦争」に巻き込まれる恐れのある安保法の是非、貧困と格差対策の社会保障の在り方などでの、安全・安心政策の選択ではないか。それらの課題で、参院選の攻防が盛り上がることを望みたい。(2016.3.5.)

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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