アベノミクスの何が争点か

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2016年6月7日

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第15回

師岡武男 (評論家)
 
 

◆国民生活の安全・安心確保の立場から参院選挙の争点を考えると、身近な生活については経済をどうするか、やや長期的な大問題として安保関連法、平和憲法、沖縄基地のあり方をどうするかなどの政治課題、の二つに括れるのではないか。

◆与党の自民、公明両党は前者に絞り、後者で争いたくはないようだ。一方、一人区に統一候補を立てた野党は、後者を重点にしたことになる。しかし経済問題でも戦わなければ、勝負になるまい。双方とも経済問題での争点をどう設定するかが、知恵の出しどころである。

◆そうなると、どうしても「アベノミクス」に触れないわけにはいかない。なにしろ安倍首相が「アベノミクスを加速するか後戻りするかが最大の争点」と言っているのだから。それに対して野党側は「消費税増税の再延期でアベノミクスの失敗は明らかになった。安倍首相は責任をとるべきだ」と、早くも、決めゼリフの投げ合いだ。

◆しかしこの決めゼリフ、まだどちらも中身が分かりにくい。各党とも、アベノミクスの3年余の実績をどう評価し、今後の経済政策はどうするという公約を具体的に示してもらわないと、有権者は「どちらともいえない」と回答するしかないだろう。

◆そこで、端的に私の見方を書いてみる。アベノミクスの要は「デフレからの脱却」だ。これは従来の経済用語でいえば「景気回復」「成長回復」である。そのための政策として、異次元の金融緩和、機動的な財政出動、民間投資拡大の3本の矢を放つことにした。消費拡大のための賃上げも追加した。しかし結果はまだ出ていないことは、数字でも世論調査でも明らかだ。失敗あるいは不成功と言うしかない。

◆問題は、その原因は何か、である。最大の原因は、財政政策の誤りではないか。機動的出動どころか、緊縮的な「財政再建」路線の堅持であり、極め付けは消費税増税であった。それは安倍首相の望むところではなかったかもしれないが、財務省の圧力に屈したのだろう。景気回復の不成功は明らかになったが、消費税再延期には「リーマンショック級不況」の縛りまでかかっていた。今回、ようやくその圧力を一部分押し返した。

◆消費税2年半再延期で、安倍政権中には消費税増税がないことになった。これは、事実上の「凍結」である。次の政権でどうするかなど、論じても意味はない。従ってアベノミクスの今後の焦点は、財政のエンジンをどう「ふかす」かである。やり方次第で成功は可能だ。

◆では、野党はどうするのか。そもそもアベノミクス批判の基本的理由は何かを、改めて考えてみるべきだ。まさか景気回復(デフレ克服)の必要なしとすることはできまい。さりとて、景気対策で争うこともできまい。恐らく批判の焦点は、新自由主義経済下での格差拡大と貧困者の増加、社会保障の後退による生活不安の拡大に絞られるだろう。そのための政策手段はどうするのか。答えは、積極的財政と社会的規制の強化しかないだろう。

◆つまるところ、経済政策での争点は、積極的財政政策のあり方が中心なのである。それには、与野党とも、財政の危機、財源難、再建、規律、国際信用などの「脅し文句」を否定あるいは棚上げにして、国民生活本位に出直すことがまず必要だと私は考える。決めゼリフも、分かりやすく作りなおしてもらいたい

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

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