青嵐中2年生が避難所ゲーム 生きる力を育むワークショップ
西東京市立青嵐中学校(東山信彦校長)で7月9日、2年生約150人を対象に、「避難所ゲーム」が実施された。同校は災害が起きたときの避難所。避難する地域住民は家族の構成も異なり、被災状況も千差万別。その運営をゲーム形式で疑似体験する試みだ。直面する困難と混乱を中学生はどう受け止め、運営体験を通じて何を感じ取ったのか-。
これは「西東京市NPO等企画提案事業」に採択された「中学生の生きる力を育むワークショップ」。「自分の住むまちを、住んでいる自分の手で、良くしていきたい」と願う市民団体「田無スマイル大学」(富沢このみ代表)の企画だった。「避難所運営ゲーム」は頭文字を取って「HUG」とも呼ばれる。静岡県が阪神淡路大震災を受けて開発した。スマイル大学が西東京市版をアレンジ、今回は中学生向けに工夫した。
このゲームの想定は「7月26日(火)午後1時、関東地方に熊本地震と同規模の震度7の地震が発生。天気は小雨」。進行役はスマイル大学の藤江亮介さん。「電車もバスも全面ストップ。電気、ガス、水道も止まった。みなさんは学校の避難所を運営する責任ある立場なので、すぐに駆けつけて午後2時から夜7時までの5時間、避難所を運営します。住民の被災状況が書かれているカードを配って、体育館や教室などに入ってもらい、居場所を決めてください」。
会場となった同校1階大ホールに2年生約150人が6~7人ずつ20数組に分かれて座る。グループの真ん中に体育館を想定した大きな模造紙があり、教室になる小さめの紙もある。カードの配り手が状況を読み上げると、グループが相談しながら次々に配置を決めていく。ホールは生徒たちの声で騒然となった。
やがて藤江さんが「着替えできる場所を作ってください」とマイクで知らせると、生徒らの声は一段と高くなる。「トイレの水が出ません。プールの水をバケツリレーで汲む人を出してください」「トイレの水が流せなくなった。プールは消火用に使ってしまったので対策を考えてください」「市役所から避難者の人数を知らせてほしいと連絡がありました」…。3~4分ごとに新しい「事件」が知らされる。
生徒たちは知恵を絞って事態を切り抜けようと話し合っていた。「ペットを連れた人が来た。どうしよう」「お年寄り同士、一緒のスペースにしたら」「保健師やヘルパーさんには、病気の人の部屋に行ってもらおう」「外国人はひとかたまりに」…。災害ボランティア団体「西東京レスキューバード」(荘雄一郎代表)のメンバー12人が助言役になって生徒たちのグループを回っていた。
避難住民の割り振りが一段落したあと、近隣グループのやり方を見学。最後に各自が「振り返りシート」に反省と感想を記した。2時間の予定はあっという間に過ぎた。
生徒の「振り返り」はさまざま。「トイレが使えなったので、砂場を使って乗り切った」「病気や障害の人がいて、どこにいてもらうか悩んだ」などの気付きと悩みを述べるケースがあり、「病気の人を優先する。助け合いの出来る優しい心を身につけたい」「家族で避難のル-ルを話し合う」など、これからに備える頼もしい言葉もあった。
「このワークショップは、『総合的な学習の時間』を当てました。この年間テーマが『社会体験』なので、ピッタリだと思いました」。こう話す東山校長は避難所ゲームを何度か体験し、正解のない事態に対処する生徒の自覚に期待していた。「変化の激しい社会に対応して、自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てる」という「総合的な学習の時間」の狙いにピッタリだった。
ワークショップを実施した田無スマイル大学代表の富沢さんは、生徒の振り返りシート計148枚を読んだあと「中学2年生はやんちゃな年ごろなのに、全員がゲームにきちんと取り組んだことが分かりました」と指摘。「いろんな状況の人たちの配置に悩んだり、他グループのやり方が自分たちと違っているので驚いたり感心したり。いろんな気付き、発見が見られました。この新鮮な気持ちが生徒の日常に根付いてもらいたいと思います」とまとめていた。
(北嶋孝)
【関連リンク】
・西東京市立青嵐中学校 >>
・総合的な学習の時間(文部科学省)
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・西東京レスキューバード >>
・避難所HUG(静岡県地震防災センター)
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