西東京市長選投票率の余滴 当日有権者の3分の2余りが棄権

投稿者: カテゴリー: 市政・選挙 オン 2017年2月7日

掲示板のポスターは市民の関心を集めたのだろうか(ひばりヶ丘駅北側)

 西東京市長選挙が2月5日に投開票され、現職の丸山浩一氏(無所属)が、団体役員の新人杉山昭吉氏(無所属)を破って再選された。投票率は32.90%。当日有権者の3分の1に達しなかった。取り上げるのは投票率。数字を集めたりひっくり返したりして、あちこちから光を当ててみよう。

 

32.90%の反対側

 同市選挙管理委員会の記録によると、今回の投票率は、旧保谷市と旧田無市が2001年に合併して以来の西東京市長選挙で最低となった。これまで最低だった前回20013年2月の市長選挙36.93%を4.03ポイントも下回った(注1)

 

第26投票区投票所のひばりが丘北児童センター(2月5日午後1時)

 

 選挙前から丸山氏は投票率に注目していた。1月19日の会見で、ある記者の質問に対し「投票率が低いのは気になる。38-39%はほしい」と述べていた。しかし、その希望は叶わなかった。

 再選が決まった2月5日夜、支持者らに囲まれた挨拶で「得票数は3万3486票。前回より約3000票増えたが、投票率は32.90%だった」と述べるにとどまった。取り分は増えたが、全体のパイは縮小したことになる。しかも獲得票数は、当日有権者16万4,271人の20.38%だった。有権者の2割の票で当選したことを踏まえたのだろうか、冷静で控えめな発言だった。

 

勝利を喜ぶ丸山浩一氏(中央)と支持者たち

 

 とは言っても、丸山氏の3万3486票は決して少なくない。2005年の坂口光治氏の4万0,771票に次いで2番目。得票率では丸山氏が今回61.96%を占め、坂口氏の60.06%を押さえて歴代トップだった(注2)

 投票率を実人数に遡り、逆の視点から数字を見てみよう。
 投票率32.90%とは、棄権した人の割合が67.10%に上ることでもある。当日有権者16万4,271人のうち、11万0,229人の市民が棄権した。この数字は、投票した5万4,042人の2.04倍に当たる。投票者の倍以上が棄権したのだ。

 ひところ「世界がもし100人の村だったら」という寓話風の話がインターネットを通じて広まった。この枠組みを借りて、「西東京市が100人からなるまち」だと仮定してみよう。今回の市長選挙で投票した市民は33人、棄権は67人だった。その結果、20票を獲得した候補が当選した。住人の5分の1の賛成で、まちの「トップの座」が決まったのだ。

(注1)平成29年2月5日執行西東京市長選挙投開票結果(西東京市Web
(注2)西東京市長選挙候補者別得票数(西東京市Web

 

長期低落の末に

 今回が最低の投票率とは言っても、今回だけ急に落ち込んだわけでなはない。2001年の第1回西東京市長選の投票率は49.64%を記録した。以後第2回(2005年)45.69%、第3回(2009年)37.19%、前回第4回(2013年)は36.93%、今回が32.90%。低落傾向に歯止めが掛からなかったのだ(前掲注2)

 比較のため、近隣の区市長選はどうか調べてみた。直近の投票率は練馬区を除いてすべて今回の西東京市の投票率より高い。

西東京市隣接の市区長選挙投票率 *

区市 投票率 選挙執行年月日
練馬区 31.68%   2014年4月20日**
西東京市 32.90% 2017年2月5日
東久留米市 34.55%  2014年1月19日
小平市 37.28%  2013年4月7日
小金井市 41.42%  2015年12月13日
武蔵野市 41.29%  2013年10月6日
三鷹市 46.83%  2015年4月26日
東村山市 48.64%  2015年4月26日
清瀬市 51.40%  2015年4月26日

*各市区Webサイトの選挙管理委員会ページから
**練馬区の前回(2011年4月24日)は45.33%

 

 多摩地区で人口の多い市はどうだろうか。意外に知られていないが、西東京市は多摩地区で5番目に人口の多い市だ。驚いた人がいるかもしれない。多いとみえる立川市は18万1,399人(2月1日現在)、武蔵野市は14万4,003人(同)、国立市はわずか7万5,452人(1月1日現在)だ。西東京市は人口から見ると「雄藩」ならぬ「雄市」といってよいだろう。先年の国勢調査で20万人超を記録しているのだから。

 

多摩地区の人口上位5市長選挙の投票率
投票率 執行年月日 人口
八王子市 32.60% 2016年1月24 日 562,795人
町田市 41.33% 2016年1月24 日 428,572人
府中市 32.79% 2016年1月31日 229,886人
調布市 37.12% 2014年7月6日 225,849人
西東京市 32.90% 2017年2月5日 199,774人
各市Webサイトから。住民基本台帳の今年1月1日現在。八王子市は昨年12月1日、西東京市は2月1日

 

 20万人以上の市のうち、40%台だったのは町田市だけ。投票率が低いのは西東京市だけではなかった。

 地方自治体の首長選挙の投票率はもとから低かったわけではない。東京都の区市町村長選挙投票率(統一分)一覧をみると、1947年から63年まではほぼ70%~80%を推移。以後60%台、50%台と階段状に低落し、1991年からは40%台を低迷している(注3)。統一地方選挙なので高めになることを考慮しても、全体の傾向は十分掴めるのではないだろうか。

 ほかの選挙はどうか。昨年7月の東京都知事選の西東京市の投票率は61.77%(注4)、その直前の参院選の西東京市の投票率は60.06%で、東京都の62区市町村のなかで19番目だった(注5)。都政や国政選挙への関心が低くなったとは言えないのに、区市長選挙は押し並べて投票率が低い。正確には、低くなってきた。

 その現象をもたらす要因はさまざま指摘されてきた。関心の高い争点の有無、候補者の知名度などのほか、当日の天候なども投票率に関係するとの指摘は多い。中央と地方の制度的な問題、財政や権限の中央偏重などの指摘にもこと欠かない。

 社会の変化も外せない。職住分離による労働と生活の乖離、いわゆるベッドタウン化の進展だろう。地域コミュニティーの希薄化や崩壊、趣味や娯楽の多様化、交通網の発達による空間の縮小などの影響も叫ばれてきた。住民の生活は、行政の枠組みにあまり縛られない時代になってしまった。

 それでも、関係者が手をこまねいていたわけではない。投票時間の延長、期日前投票の充実、選挙啓発事業など、さまざまな手だてが講じられてきた。しかし薬石効なく、低投票率の症状は重くなってきた。

(注3)区市町村長選挙投票率(統一分)(東京都選挙管理委員会
(注4)東京都知事選挙(平成28年7月31日執行)投開票結果(東京都選挙管理委員会、PDF
(注5)参議院議員選挙(平成28年7月10日執行) 投開票結果(東京都選挙管理委員会、PDF

 

「市民参加」の発展系を

 市議会を傍聴していると、「行政と議会は市政の両輪」という主張が頻繁に聞こえてくる。市民にとってもっと身近な「市政」を目指すなら、行政だけでなく、議会の役割と行動にも目が注がれるだろう。行政が政策を立案し、実施に移す。議会が議案を討論し、多数決で決めていく。行政と議会の両輪が粛々と進めてきた従来のやり方を踏襲して、地域や市政に対する市民の関心を呼び覚ませるだろうか。低投票率が両者に問いかける要請と期待は決して小さくない。

 今回の選挙で丸山・杉山両候補とも「市民参加」を公約に掲げた。特に丸山氏は「市民参加、市民協働の取組について見直しを図ります」と一歩、前に踏み出す方針を明らかにしていた。取り分だけでなく、投票のパイ全体が大きくなるためにも、市民とともに進む道、市政への関心を呼び覚ます市民参加の発展系が期待されているのではないだろうか。
(北嶋孝)

 

北嶋孝
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西東京市長選投票率の余滴 当日有権者の3分の2余りが棄権」への2件のフィードバック

  1. 1

    鋭い分析、解説・論説で、なかなか読みごたえがありました。ただ、当初の予想どおりだったように想われます。
    市民・住民である有権者も、それなりに学習をし、その結果かも知れません。市長の市政への影響力は限定的だと。
    また、行政組織はピラミッドだと言われるが、その実態は逆ピラミッドの構図では。権限等で。
    国→都道府県→基礎自治体という三層構造は、企業の本社→支社→営業所と言う構造組織に相当し、市長は営業所長。
    ただ、選挙で選ばれるというシステム。
    今後とも、北嶋さんらしい地域報道に期待しております。

    • 2

      過分なお言葉、恐れ入ります。市町村長だけでなく議員も含めて、自治体選挙の投票率が30%台になったことは随分前から気になっていました。法律上は投票率が低くても選挙を無効、再選挙にする条文はありません。そのためでしょうか、勝ち負けだけにこだわる見方が横行している風潮に違和感を持たざるを得ませんでした。有権者の3分の2以上が棄権する選挙の現状は何とかしなければならないはずです。行政も議会も、おそらく市民住民も、具体策をともに考えるようにと、低投票率は切に願っていると思います。

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