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第7回 物忘れには寛容に


 三輪隆子(みわ内科クリニック)


 

 前回、物忘れ外来に受診される患者さんとご家族の様子を述べました。物忘れが進んできて家族が心配して受診を勧めても、本人が受診を嫌がることが多いという話でした。このように、物忘れ外来はご家族などほかの人に勧められて受診される方が多いのですが、一方で、ご本人が物忘れを気にされて認知症ではないかと心配になり受診されることもあります。このような場合、診察の結果、認知症の初期と診断されることもありますが、年齢相応の物忘れのことや、認知症ではないが記憶力が低下している軽度認知機能障害であることがほとんどです。

 

“治す薬” はあるか

 

 認知症が心配で自分から受診される方の多くは、「早いうちに、薬を飲んだら物忘れが良くなる」「認知症になるのを遅らせる薬がある」のではないかと思っておられます。残念ながら、現在そのような薬はありません。それでは、年齢相応の物忘れや軽度認知機能障害の場合には何もすることはないのでしょうか? そんなことはありません。軽度認知機能障害の人はかなりの確率で認知症になると言われています。現在問題ない方でも、年齢が進めば認知症になる危険は増えていきます。そこで、認知症を予防のための取り組みをお勧めします。

 認知症予防のために何をしたらいいのか?
 繰り返しになりますが、認知症にならないようにするための薬はありません。認知症に効果があると言われている食品やサプリメントも科学的に効果を実証されたものはありません。それでは、認知症予防のために何を勧めているかというと-

1.  高血圧や糖尿病など生活習慣病にならないようにすること。現在治療している人はきちんと治療を継続する。今かかっていない人は、食生活や運動、禁煙など生活習慣を見直して、健診で異常があればきちんと治療を受けること。
2.  適度な運動をすること。特に楽しんで運動することが大切です。
3.  脳を刺激すること。仕事・家事・趣味など今していることはできるだけ継続すること。新しいことにも挑戦すること。
4.  人と交わること
5.  脳によくないことを避けること。喫煙・アルコール・睡眠剤などの薬はできるだけ避けること。

 特別なことではありません。ただ年高齢になるとできなくなってくることがあります。皆で声を掛け合って取り組んでいくことが大切ですね。

 

私も物忘れが…

 

 さて、認知症というと高齢の方の問題と思われますが、時に40-50代の中高年のかたが物忘れ外来を受診されます。この年代の方が発症する、いわゆる若年性認知症もあります。しかし、圧倒的に多いのが「オーバーワーク」です。すなわち、仕事や家事、介護、人間関係などで負担が大きくなり、通常できることがこなせなくなっている状態で物忘れがめだつようになります。中にはうつ病が疑われる方もいます。

 加齢により記憶力は衰えていきます。このことは高齢になれば仕方ないと皆さん思うのでしょうが、実は40歳ごろから物忘れはめだってきます。それを認めて仕事のやり方など対処法を変えていかなければならないのですが、自分ではまだまだできると思いがちです。

 さらに、仕事の内容が変わったり、責任が重くなったり、家庭で育児や介護の負担が増えたりする時期でもあります。負担が多くなればさらに覚えられる量も減ってきます。今までは一度にいくつものことができていたのに、一つのことをするとうっかりミスが多くなる、なんてことはありませんか?

 私事ですが、若い頃は記憶力に非常に長けていました。そんな私ですが、いつの頃からか忘れっぽいと感じるようになりました。診療以外にも雑多な用事がありますので、診察室のカレンダーにも予定を書き込んでいます。恥ずかしながら、きちんと書いていないので、1週間予定を間違えたり、カレンダーに書いてあるのにすっかり忘れてしまったり。予定をすっぽかしたこともあります。

 当院では、認知症の対応に事務職員が大活躍とお話ししましたが、実は私の物忘れ対策にも大活躍してくれています。カレンダーに印を書いてあるのを見て、『今日はお出かけですよね』とさりげなく声をかけてくれる。診療後、会議や講演会に出かけるときには、『お忘れ物はありませんか?』と声をかけてくれます。その声で、忘れ物に気づくこともあれば、そもそも会場はどこだっけ? と再確認することもあります。

 

忘れっぽくても大丈夫

 

 皆さん、私が認知症なのか? と心配しないでくださいね。大丈夫と、少なくとも今は思っています。それでも、年齢が重なって来れば、一度に処理できることは減ってきます。若い頃記憶力に自信がある人ほどやり方を変えなければならないのです。忘れっぽくなることは決して恥ずかしいことではありません。それを自覚して、きちんと対応して、人にも助けてもらいながら自分にしかできないことをしていくことが大切だと思っています。

 このことは、認知症がある方でも同じです。忘れっぽくなることにもっと寛容になって、「忘れっぽくても大丈夫。みんなで助けるから」という社会になれば、認知症の方も家庭でも社会でも生きやすくなると思います。

 

©ks_skylark

 

【筆者略歴】
 三輪隆子(みわ・たかこ)
 認定内科医、神経内科専門医、身体障害指定医(肢体不自由、音声言語、平衡機能障害)。西東京市医師会理事。
 静岡県清水市(現静岡市清水区)出身。信州大学卒業後、信州大学第3内科入局。佐久総合病院で地域医療を研修後、東京都立神経病院、狭山神経内科病院で神経疾患、難病の診療に従事。1995年(平成7年)国立身体障害者リハビリテーション病院神経内科医長。リハビリテーションのほか社会復帰、療養・介護など福祉的な問題にも取り組む。2007年(平成19年)1月「みわ内科クリニック」院長。2013年(平成25年)6月医療法人社団エキップ理事長兼務。2017年(平成29年)4月から理事長。

 

 

 

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