第2回 公営住宅、マンションの今


東由美子(建築家)


 

 今から25年前、「都営住宅谷戸町三丁目団地」の計画と設計に参加したことがあります。現在の都営田無谷戸町三丁目アパートです。当時まだはしりだった高齢者向け共同住宅=シルバーハウジング・プロジェクト事業の一つでした。

 シルバーハウジング・プロジェクトでは低層階であってもエレベーターを設け、各住戸の間取りや段差の解消、高齢者が使い易い水回りなどの設計がされています。玄関脇の外廊下側にベンチを造りつける工夫もしました。

 その他にもライフ・サポート・アドバイザー(LSA)と呼ばれる管理人が常駐し、居住者の日常をサポートすることになっています。各住戸には緊急通報システムが設置され、孤独死を防ぐためにトイレの扉が一定期間動かないない場合にはLSAに通報が届く監視装置も設けられました。しかし、この設備費や管理人配置の人件費は多大です。その上LSAは24時間気をぬくことのできない大変な仕事をまかせられることになりました。

 高齢人口はある時期まで増え続けるので、限られた公営住宅のみで対応するには限界があります。もっと普通の共同住宅や戸建て住宅でも安心して暮らせる物理的なバリアフリーや助け合いの仕組みが求められているはずです。シルバーハウジング・プロジェクトで採用されているような大げさなしくみに頼らなくても、もっとゆるやかな助け合いの仕組みができないものでしょうか? これが当時からの私の疑問でした。

 そんなことを考えながら全国的にも有名な「団地」の一つUR都市機構(建設当時は日本住宅公団)のひばりが丘団地と西武柳沢駅近くの都営柳沢六丁目アパートを訪れてみました。

 

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ひばりが丘パークヒルズ(撮影=ひばりタイムス©)

 

 ひばりが丘団地は、現在は建て替えられ「ひばりが丘パークヒルズ」となっています。モデル的団地だっただけに敷地に余裕もあり、また建設当時実験的に建てられた星形のスターハウスが管理棟として保存され、歴史を感じさせます。エレベーターは各住棟に設置されていますし、道路からエレベーターホールまでのアプローチもスロープで段差解消されています。

 都営柳沢六丁目アパートも、高齢者や障害者の利用にも配慮したハートビル法や東京都福祉のまちづくり条例のマニュアルに従って、住戸までの経路の1つは車いすの利用が可能になっています。

 しかし、最低限の指針を守ればそれでいいのでしょうか? 例えば都営柳沢六丁目アパートでは住棟の主な入口に行くには階段だけでなく、もちろんスロープでもアプローチできるようになっていますが、道路に面している自転車置き場から住棟の入口へ行くには、かなりの段差があるのに階段でしか行けません。自転車で重い荷物を運んできた人はぐるっと建物を回り遠回りしてエレベーターまで行くことになります。敷地に余裕があり、スロープをつけても費用がそれほどかかるわけではないのですから、遠回りしなくても自転車置き場からエレベーターまでスロープで行けるようにするのがバリアフリーというものです。

 

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 【都営柳沢六丁目アパートの自転車置き場(上)と ひばりが丘パークヒルズのスロープ(下)写真は筆者提供】

【都営柳沢六丁目アパートの自転車置き場(上)と ひばりが丘パークヒルズのスロープ(下)
写真は筆者提供】

 

 スロープを使うのは特殊な人だけだという考え方は他のところにも見られます。ひばりが丘パークヒルズでも階段とスロープがある場合、スロープは陰の方に配置されている例があり残念に思いました。

 冬の寒さのためか、日中、人影を見かけませんでした。新たな人のつながりを促すようなしつらえが必要なのだと思います。例えば団地の各階のエレベーター前にガラスばりのフリースペースを設け、そこを階の居住者たちの図書室にするとか。ベンチを置いておしゃべりや雨の日の子供の遊び場にするとか。特に公的な共同住宅では、機械だけにたよらないで、人と人の間のバリアをとりはらう工夫を是非実践してもらいたいと感じています。
 

【筆者略歴】
 東由美子(ひがし・ゆみこ)
 1948年生まれ。建築家。東設計工房主宰。住宅、障害者、高齢者のグループホームの設計などに携わる。女性建築技術者の会会員(1986-1990代表)。趣味は国際交流、太極拳。著書『もっと頭のいい収納―「かたづけ上手」のスッキリ生活術』のほか、共著『すまいのカルテット―春夏秋冬』、『いきいきさわやかーダイニング&キッチン』(女性建築技術者の会)『アルバムの家』(同)など。

 

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