第3回 福祉施設のバリアフリー


東由美子(建築家)


 

 西東京市にある福祉施設3つを訪ねてみました。住吉会館「ルピナス」、田無総合福祉センター、障害者総合支援センター「フレンドリー」です。どの施設も市の案内では「地域のみなさんにも活用していただける」ことをうたっています。

 住吉会館「ルピナス」は西武線の駅からは徒歩圏内にはない住吉町6丁目に位置しています。バスを利用する必要があり、道路からも少し奥まったところにあるのでアクセスの面では利用しづらい面があります。しかし敷地に余裕があり、建物の前面に子ども用の公園もあり楽しく、近づきやすい雰囲気です。

 

600_01住吉会館ルピナスの外観

600_02ガランとした1階交流スペース

住吉会館ルピナスの外観(上)と、ガランとした1階交流スペース(下)。写真は筆者提供©

 

 この施設には子ども総合支援センターと住吉老人福祉センター、男女平等推進センターがはいっています。1階に男女平等推進センターが、1-2階に子ども総合支援センター、3-4階に老人福祉センターが位置しています。1階と3階には交流スペースもあります。このような複合施設は世代や男女の差、障がいのあるなしによるバリアをとり除く意味で意義あるものだと思います。

 しかし、その利点を充分に活かしきれていないような印象をうけました。1階の交流スペースは訪れた時には展示もなくガランとしていました。

 また、3階にも飲物の自動販売機がおかれた交流スペースがあり、そこでは福祉作業所に通所する人たちが菓子パンなどを販売する売店もあります。

 1階に交流スペースがあるのですからどうしてそこで売店をひらけないのでしょうか? 障がいのある人たちが目障りなのでしょうか? せっかくいろいろな住民が交流するチャンスなのですから、もっと人が行き来する場所に障がいのある人たちが出ていくべきではないでしょうか。

 2番目に訪れたのは田無総合福祉センターです。田無駅から徒歩圏内です。ここは「暮らしの便利帳」では「市民の福祉と健康増進、保健および医療との連携を図るための施設」とされています。ボランティアの活動センター、西東京市歯科医師会、老人福祉センター、田無町地域包括支援センターなど様々な機能がはいっています。

 

600_03田無総合福祉センターの外観

600_04人の気配がない入口ホール

田無総合福祉センターの外観(上)と、人の気配がない入口ホール(下)。写真は筆者提供©

 

 外観は立派です。でも1階ホールに入ると人の気配がありません。広いけれどなにか寒々とした空間です。案内を請おうと人を探すと、陰のほうに事務室がありました。「ここはどういう施設なのかパンフレットかなにかありますか?」と聞くと「ありません」との答え。何をしにきたのかきこうともしません。

 視覚障がい者が初めてここを訪れたら、多分どこへ行ったらいいか途方に暮れてしまうと思います。床の誘導ブロックも入口からエレベーターまでを誘導しているだけで事務室までの誘導はないからです。市民のための施設、特に福祉施設がこんなことでいいはずがありません。

 最後に障害者総合支援センター「フレンドリー」を訪れました。3施設の中では、この施設に一番福祉施設らしい温かみを感じました。ここも田無駅から徒歩圏内にあります。外観は他の2施設ほど立派ではありません。1階の道路側にカフェが入っていてちょっと見も福祉施設だとはわかりません。

 

600_05フレンドリーの外観

600_06フレンドリーのカフェにある子どもコーナー

フレンドリーの外観(上)と、カフェにある子どもコーナー(下)。写真は筆者提供©

 

 1階に相談支援センターとカフェ、2階に精神障がい者の支援センター、3-4階に知的障がい者の生活介護事業所が入っています。何よりいいのはカフェの存在です。このカフェは就職を希望する障がいのある人が、就労移行支援の訓練を受ける場として共に働いています。私が行った時にも中年の男性がぎこちないながら一生懸命ウェイターを務めていました。

 また、子どもからお年寄りまで利用できることをうたっていて、その時も子ども連れのお母さんたちが3組、初老の女性4人のグループが1組、打ち合せに使っていました。子どもが自由に遊べるコーナーもしつらえてあり、これがとても楽しい雰囲気を作っています。ここなら特に用事がなくても寄ってみようかなと思わせてくれます。

 障がいのある人や高齢者はどうしても地域から隔絶されがちです。特に精神や知的な障がいを持つ人たちは、怖い人、気持ちが悪い人として避けられ、差別されことが少なくないようです。日常的にもっと目にふれるところに出てくれば、どんな人たちで、どうつきあえばいいのか分かってくるはずなのですが。

 福祉作業所などももっと一般の人の目にふれるところに設けてもよいのではと思います。作業所内での虐待などを防ぐ意味でも、差別をなくすためにも。施設が精神的なバリアをとりはらうためにもっと役立つといいなと思います。

 

 【筆者略歴】
 東由美子(ひがし・ゆみこ)
 1948年生まれ。建築家。東設計工房主宰。住宅、障害者、高齢者のグループホームの設計などに携わる。女性建築技術者の会会員(1986-1990代表)。趣味は国際交流、太極拳。著書『もっと頭のいい収納―「かたづけ上手」のスッキリ生活術』のほか、共著『すまいのカルテット―春夏秋冬』、『いきいきさわやかーダイニング&キッチン』(女性建築技術者の会)『アルバムの家』(同)など。

 

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