第4回 まちの課題解決を通して官民が成長

「本気」の公民連携

 公民連携、市民参加、市民協働……などなど、「公共」部門を行政だけでなく、企業や市民等と協力して行うという言葉は、良く使われるし、条例にしている自治体も多い。しかしながら、行政と民間が対等の立場に立ち、共通の認識を持って企画段階から一緒に事業に取り組むケースは、実はなかなかないと言ってよいだろう。オガールプロジェクトは、本気で公民連携に取り組んだところが凄い。

紫波町新庁舎

紫波町新庁舎

 

 岡崎さんによれば、行政と仕事をするうえでは、二つの大きなリスクがある。その一つは、縦割り行政と行政マンの異動だ。もし、公民連携をするなら、「公民連携室」を作り、窓口を一本にし、かつその窓口の人が定年まで異動しないこと。もう一つのリスクは、町長が変わると、施策がガラリと変わることがままあること(政治的リスク)だ。この体制を整えてくれなければ、公民連携はやらないと言ったという。

 前町長は、それを受けて、公民連携室を作り、当時の室長と2007年から東洋大学への教育派遣を命じた鎌田千市さん(現室長)に、「異動は考えるだけ無駄だ」と話したという。また、「公民連携基本計画」を策定し、議会に掛けて通した。

 鎌田さんは、公民連携の計画策定にあたって、各地域の住民の意見を聞くために、各地区に4回ずつ、計100回ほど回ったという。

 施設整備にあたっては、ファシリテーターも入れて、緑の大通り担い手づくりワークショップ(以下WS)、図書館をつくろう委員会、子育て応援WS、食育WS、紫波マルシェ生産者連絡会など市民参加の手法も取り入れた。

 行政は、これまで、委員会方式などにより、一部の住民の意見を聞く傾向にあったが、市民参加により、サイレントマジョリティの声を聴く必要性を感じたという(注5)。たとえば、オガール広場に採用された細く交差し「あやとり道」と呼ばれる小路は、ワークショップで出された住民のアイデアを練った結果生まれたものだ。市民の意見が少しずつ計画に反映されるにつれ、市民のオガールへの愛着も育っていった。

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「デザインガイドライン」の表紙

 また「デザイン会議」を設け、ロゴや建物、全体の景観などについて「オガール地区デザインガイドライン」(注6)を策定した。

 紫波町の人口は、わずか3万人強だが、半径30㎞圏内には、60万人が住む。この人たちに幾度も足を運んでもらい、エリアの価値を高めるために、全体を統一のとれた気持ち良い空間にすることを目指したのだ。デザイン会議には、岡崎さんが東洋大学大学院で出会った建築・都市・地域再生プロデューサー清水義次さんの人脈で、建築家やグラフィックデザイナー、ランドスケープアーキテクトなど一流のアドバイザーを招いた。

 

 

(注5) 紫波町では、2008年に市民参加条例を制定、条例整備にあたってコーディネーター養成講座を開き、そこで育った人材をオガールプロジェクトでも起用した。
(注6) デザインガイドライン:https://goo.gl/QUdKrW

 

民間がリスクを負う

 オガールプロジェクトでは、事業のリスクを負っているのは、民間企業である。官民複合施設であるオガールプラザ(注7)を例にとると(図参照)、オガールプラザ㈱は、

 1. 土地は、町から定期借地契約で賃貸する。
 2. 入ってもらうテナント(小売店、飲食店、クリニックなど)を設計前に見つけ、その人達が支払える家賃を決める(「絶対家賃」と言っている)。
 3. 図書館を含む公共施設部分は、紫波町に売却する。
 4. 資金調達を自らのリスクで行う。民間都市開発推進機構(MINTO機構)が出資をし、東北銀行が融資をした。MINTO機構は、10年以内に配当するように、東北銀行からは、10年間で返済を完了するという条件が出された。
 5. 以上のような条件のもとで、建物の規模や建設費用を算出した。二段階プロポーザルの結果、東京のゼネコンではなく、地元の建設業者が採用され、地元産の木造にした。木造にしたのは、デザインや環境配慮というよりも、コストが安く償却期間も圧縮できるからで、10年以内に配当を出すにはこれ以外になかったという。

(出所)鎌田千市紫波町企画課公民連携室長の講演資料「日欧政策セミナー」2015年2月24日より

(出所)鎌田千市紫波町企画課公民連携室長の講演資料「日欧政策セミナー」2015年2月24日より

(注7) オガールプラザは、官民複合施設で、公共施設部分は、紫波町に売却した。バレーボール専用体育館や宿泊施設などのあるオガールベースは、民間複合施設。12月オープン予定のオガールセンターは、民間資金で建設され、公共施設部分(教育支援施設)については、紫波町が家賃を支払う。
(注8) オガールプロジェクト実施にあたっては、まず、町が100%出資してオガール紫波㈱を設立(その後、農協・銀行等民間からの出資を得て、現在町の持ち株は39%)、ここが町から業務委託され、プロジェクトを推進してきた。岡崎さんは、当初、ここの事業部長。現在は、オガールプラザ㈱、オガールベース㈱、オガールセンター㈱の代表取締役になっている。
(注9) 国交省からの補助金は、図書館を含む公共施設部分の購入資金に活用したまちづくり交付金(現在の社会資本整備総合交付金)。

 一般に、図書館などの公共的な施設は、非採算で建設費と維持費が高い。財政の厳しいなか、行政的な考え方では、コストを削減する方法しか考えつかない。しかし、民間が入ることにより、そこに、「儲ける」という考え方を入れることができる。紫波町には、オガールプラザから土地の賃貸料と固定資産税が入る。これにより、図書館を含む公共施設部分の運営費の一部を賄うことが可能になる。

 一方、オガールプラザは、テナントからの敷金・保証金・賃料で運営しながら、土地の賃貸料を支払い、出資に対し配当したり、融資を返済したりするリスクを負っている。オガール地区全体を魅力的にすることや、さまざまなイベントを企画・実施して集客し、テナントが儲かる仕掛けを工夫し続けなければならない。

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