「田無ツツジ」を追いかけて 散り始めの花を惜しむ

投稿者: カテゴリー: 環境・災害 オン 2017年5月1日

 

赤色鮮やかな田無ツツジ(4月29日午後5時40分撮影)

 桜の季節が終われば、ツツジの時へ。ツツジは西東京市の「市の花」でもある。紹介するなら地元産の「田無ツツジ」を取り上げたい。そう思って4月末に動き出した。ところがカラ振りが続き、思惑から外れる展開が待っていた…。

 

 手掛かりを求めて

 まずは小手調べ。最寄りの西武池袋線ひばりヶ丘駅南口の花屋さんに声を掛けた。ところが…。
 「田無ツツジって、田無にしかないんですか」。いや、そうじゃなくて、最近は埼玉にもあるらしいよ。「贈り物ですか」。それもちょっと違うって。「扱ったことないです」。はいはい。フラワーショップ大手店員との遣り取りは微妙にチグハグだった。

 南口がダメなら北口へ。行きつけだった花屋は、店主の急死で昨年閉店した。うろ覚えだった別の店を探した。ところが北口は駅前開発工事の真っ最中。記憶と現場が食い違って見つからない。

 

 駅前探索はカラ振りに終わった。帰宅して、めげずに市のWebサイトにアクセスする。「市の花」「ツツジ」で検索するといくつかページは出てくるが、ドンピシャの「田無ツツジ」はマッチしない。

 市のみどり公園課に電話した。花情報に詳しいはずの担当者が不在。しばらく後に再度電話した。「(田無ツツジを)まとまって見られる公園はない」「農家で植えていると思うけれども、個人情報はちょっと…」との返事だった。

 市内のオープンガーデンはどうかと粘ってみた。ほかの課員に聞いているらしい。しばらく間があって「バラを手掛けているガーデンなどが多く、田無ツツジを見せているお宅は把握していません」と電話口から申し訳なさそうな声が聞こえた。

 気を取り直して民間情報を調べた。ネット上に、田無ツツジの説明と写真が載っている。

 

(クリックで拡大)

 「田無ツツジは東京都田無市(現在の西東京市)周辺で広く植えられていたことから、その名が付いたとも言われております。出荷期間も短く3月上旬から、4月中旬頃まで。」(田無ツツジの生花[akaibara’s diary]

 「関東周辺で普段稽古に使われる躑躅(ツツジ)は「田無(タナシ)」という品種が主流だ。戦前までは東京郊外は花卉の生産地だったようで、田無躑躅もその名の通り東京近郊の田無で品種改良がなされそこで生産されたようだ。戦後は埼玉あたりが主力生産地になっているようだ。躑躅は折れやすい花材だが、「田無躑躅」は例外的にねばりがあって、躑躅の仲間では形を作り易い花材でもある。」(古流かたばみ会

 「今回は“田無(たなし)ツツジ”という東京/田無市(現西東京市)の名前がついているツツジを使いました(ノ´▽`)ノ ツツジはかなりの種類がありますがこの“田無”というのは初めて見ますね(@_@) 大抵は“平戸”や“霧島”とかはよく見聞きしますが珍しい花材だと思います∑ヾ( ̄0 ̄;ノ」(『吉田造園』ブログ「田無ツツジの投入れとアレンジメント」

 

 田無ツツジ、発見!

 蘊蓄や周辺情報をいくら積み上げても記事はまとまらない。次々に画面を見ていると、西東京市在住の方がアップした田無ツツジの写真が見つかった。自宅の塀から赤いツツジがこぼれるように花びらを見せているではないか。

 

野口文弘さん宅の田無ツツジ(4月18日野口さん撮影、提供)

 

 すぐに電話した。
 「その写真は4月18日に撮ったから、もう終わりですよ。ちょっと待って。見てくるから」。しばらく待っていると「やっぱり花はしぼんでますね」。見ごろから10日以上も過ぎていたのだ。「昔は農家だったので生け垣代わりに植えてました。農地を売るときに自宅の庭に1本植えたんです」。

 声の主は、柳沢3丁目の野口文弘さん(64)。クリスマスローズを専門に育種するかたわら、直売店「ふみ屋」を開いている。「これから出かける途中に確か、田無ツツジがあったと思う。まだ咲いていたら連絡しますよ」。

 

 ありがたい。しかし少し驚いた。冷視、軽視、無視…。折々つれない対応に遭っても、こういう温かい申し出は珍しい。一瞬、お礼の言葉が遅れた。もちろんすぐに「ありがとうございます!」。ぼくの声はきっと弾んでいたに違いない。

 やがて電話のベルが鳴る。本当に掛かってきた。「ありましたよ。新青梅街道沿いの畑に田無ツツジを見ました」。野口さんは淡々と教えてくれた。謝意を述べ、間もなく自宅を出た。4月29日夕暮れ間近の午後4時半すぎ。日が落ちる前に写真に収められるだろうか。

 自転車で20分余り走った。教わった畑に、群生するツツジが見えた。防風用の生け垣なのだろうか。枝葉が繁り、赤い花がたっぷり咲いている。根元辺りに赤い花びらが帯を描いて落ちている。明らかに散り始めの光景だった。それでもフィンダーをのぞいて、夢中でシャッターを押した。散り始めの花を惜しみながら。

 

畑のなかの田無ツツジ(西原2丁目)(クリックで拡大)

 

 消滅のおそれあり?

 遠くの畑に人影が見えた。声は届きそうもない。急いで広い畑をぐるっと回り、脇道から近づいた。畑の持ち主、西原2丁目の並木善衛さん(75)だった。

 「4、5日来るのが早ければ、満開のツツジが見られたんだけどね。ほら、いまは花が散ってるでしょう。風が強いし、今日は辛うじて見られるけど、明日は花がしぼんで落ちてるかな」。慰めの言葉が続いた。

 

 並木さんによると、風よけにお茶の木を植える農家が多いけれども、田無一帯は明治以前にツツジを植えた。山ツツジを品種改良したと言われているという。そのせいか田無ツツジは丈が伸びる。確かに背丈よりも高い。「4年に1回は幹を切るんです。花がちゃんと咲くまで3年掛かかりますよ」。なるほど、30センチぐらいの若木が足元で緑の枝を伸ばしているが、花はつけていない。手が掛かるわけだ。

 「昔は春になると埼玉から花屋さんが来て、枝を切って集め、市場に出していた。しかしこの4、5年は来なくなった。生け花に使うけど、習う人が少なくなったのかもしれないね」「この辺の農家は田無ツツジを植えてましたよ。でも農地は少なくなったからね。いまは私のところが一番ツツジが多いかな。でもトラクターを畑に入れるようになって、これでも随分切ったんだよ」。並木さんの話は尽きなかった。

 

彼方に田無タワーが見える(西原2丁目)(クリックで拡大)

 

 地元の花屋さんは田無ツツジを扱っているのだろうか。田無駅近辺の数店に電話したが、連休に入ったせいか軒並み留守。泉町の中村生花店は営業していた。中村利治さん(51)は「切り花を入れてます。田無ツツジは生け花用の需要があるんです」。仕入れ先は地元農家ではなく、世田谷区砧にある世田谷市場と言う。

 国内最大の花卉市場を運営する「株式会社太田花き」のWebサイトにこんな記事が載っていた。

 「埼玉県赤山地区よりご出荷頂いております、品質の良い田無ツツジの出荷が先週より始まりました。田無ツツジは、一年であまり成長しないため切った後、次回切れるようになるまで4~5年かかり、温室に入れて、綺麗な花を咲かせるまで一ヶ月半かかります。このように手間と時間がかかるため年々生産量は減少しております」(太田花きHP [今日の市場] 2017年03月08日)。

 

 需要はそれなりにあるけれど、いまは他の産地から市場に出回るようになった。地元の田無ツツジは次第に姿を消している。せっかく地元の名前が付いたツツジなのに、惜しい。絶滅危惧種の「紫草」を育てようと今年初め、西東京に「友の会」ができた。「田無ツツジ友の会」が生まれても不思議ではない。それとも既に活動しているのだろうか。
(北嶋孝)

 市に問い合わせたあと市内探索を一時あきらめ、実は4月29日の午前中、お隣練馬区の平成つつじ公園を訪ねた。西武池袋線練馬駅北口前、徒歩1分。約8800平方メートルの公園に、久留米ツツジを中心に植えられた約600品種、1万株のツツジを見ることが出来る。開園を記念した新品種「練馬の鏡」など、色鮮やかなツツジがよりどりみどり。華やかな公園だった。残念ながら、田無ツツジは見かけなかった。

 園内は商店会の出店が並び、若い親子連れから高齢夫婦、若い人たちのグループ、写生に夢中の小学生らで大にぎわいだった。写真でツツジの饗宴をご覧ください。

 

 

北嶋孝
(Visited 3,586 times, 3 visits today)

「田無ツツジ」を追いかけて 散り始めの花を惜しむ」への7件のフィードバック

  1. 中川航一
    1

    土地っ子を自称しながら知りませんでした。
    練馬のつつじ園にもあったでしょうか?
    たぶん改良、交配種もあるのでしょうね。
    今年は間に合わないけど、来年は見てみたい。
    代わって皐月がそろそろ見ごろになりますね。

    • 2

      練馬区の平成つつじ公園で田無ツツジは見かけませんでした。ざっと回っただけなので見落としがあるかもしれませんが、ほとんどが久留米ツツジの系統でした。来年はぜひ、満開時に田無ツツジを見たいですね。

  2. 蝋山哲夫
    3

    大規模庭園のような「ツツジ園」でなくともいい。世界の品種を一堂に集めた「バラ専門庭園」でもなく、西東京市内に散在する身近な公園の一郭に5株程度のみにコロニーをつくっららどうだろうか。道路際に植えてある久留米ツツジや平戸ツツジは、ナガミヒナゲシのインベーダに土中の栄養を奪われ、散歩犬のオトシモノに泣かされている。こんな可哀想な道路行政式ではなく、土地は市が許諾提供し、西東京花の会と緑のアカデミーのコラボ管理で育てるのがいいなあ。さりげなく記念樹とするのが一番。花期は一年に一回でも、人の世話による栽培管理は通年であるけれども、「市の花」なんだかんね。

  3. 有賀達郎
    4

    スカイタワー西東京の入り口に少しあると思います。でも、新青梅街道消防署の辺りから見られる並木さんのツツジが数が多いし防風の役目がよくわかる場所にありますね。
    一言、田無ツツジを探すのに、ひばりヶ丘からスタートでは…

    • 5

      旧田無市に住んでいて、田無ツツジを知らない人が意外に多いと分かりました。増してひばりが丘在住では…。いま産地になっている埼玉辺りからスタートしたら、かえってよかったかも(^_^)。

  4. ノリスケ
    6

    田無ツツジの面白い話を母親にきいたことがあります。母親の何代か前のユニークなご先祖ぞ様が、秩父の方から持ち帰ってそれを田無に広めた。って、そのご先祖様は他にも新種の魚を見つけて、図鑑にも名前がついているらしい。我が家の庭にも田無ツツジ咲いてますよ

    • 7

      > 我が家の庭にも田無ツツジ咲いてますよ
      それは朗報ですね。来年の咲き始めにひと声掛けてください。何軒か、田無ツツジが自宅にある方がいたら、まとめてお話を聞きたいと思います。(北嶋)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA