「なんでもあり」「まずはやってみよう」 やぎさわマーケット賑わいのヒミツ

投稿者: カテゴリー: 暮らし オン 2018年10月11日

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 西東京市の柳沢周辺でこのところ、地域や商店街のイベントが目立っています。その先駆けとなった「やぎさわマーケット」が今年も9月末に開かれました。西武柳沢駅前で、駄菓子屋「ヤギサワベース」を開いている中村晋也さんに、マーケットが賑わうヒミツを解いてもらいました。(編集部)

 

 「柳沢がんばってるよね」。最近そんな言葉をよく聞くようになった。
 言われてみれば、北口の商店街だけでもこの1年で、新しくオープンしたお店は移転を含めると8店舗。近くにいすぎて今ひとつ実感は無かったが、確かにがんばっている。商店街の奮闘はもちろんのこと、もう一つ、そんな流れの一助になっているかもしれないイベントがある。それが「やぎさわマーケット」だ。

 

せせらぎ公園で行われた第2回やぎさわマーケット(写真:廣田亜希子)

第5回やぎさわマーケット。約1,900人が訪れた(写真:田中宏明)

 

 やぎさわマーケットをひと言で表現すると「なんでもありのフリーマーケット」。地元商店街とも協力し、キッチンカーや個人で出店のクラフト作家・ハンドメイド作家・地域コミュニティなどが駅近くの公園に出店。ステージでは柳沢周辺で活動する音楽グループやパフォーマー達が熱演し、普段は人の来ない公園が、その時だけはたくさんの人で溢れかえる。どんなに派手にやろうとしても、派手になりきらない、実に柳沢らしいイベントだ。

 そんなイベントを民間が主体になって、年に2回も開催している。このイベントがどのような場所で、どのように興っていったのかを、実行委員長の”隣”の目線で書いてみたいと思う。

 

「西武柳沢」ってこんなところ

 2017年度の1日平均乗降客は1万6,543人。西武新宿線の29駅の中でワースト2位。駅を降りると目に付くのは八百屋さん。コンビニ以外の大手チェーン店はほとんどない。駅前徒歩2分には図書館と公民館があってとても便利。住みたい街ランキング上位の街、吉祥寺までバスで25分、自転車でも移動可能だ。

 それが西武柳沢駅。なんでこんなに私鉄ローカル臭漂う駅名かというと、群馬県に柳沢駅があり、同じ駅名をつけてはいけないというルールから「西武柳沢」になったそうだ。

 その西武柳沢駅の北口、富士街道沿いに柳盛会柳沢北口商店街がある。

板橋実行委員長

 30年ほど前は、夕方になると、自転車で通行することがでできないほどの賑わいのある商店街だったという。今ではその面影はなく、商店街のなかにはシャッターを下ろしたままのお店も目立つ。そんな現状を考慮してか、西東京商工会は市内の商業便利度向上事業をNPO「tnc中小企業支援センター」に委嘱した。西武柳沢地区の担当が、同センターに所属し、地元在住の中小企業診断士である板橋昭寿さんだった。御年76歳。年齢だけみるとご高齢だが、見た目もハートもずいぶんと若い。

 この調査によって、西武柳沢駅近辺に暮らす人の多くは駅前で買い物していない、とわかった。商店街の衰退の様子から、調査以前からその結果は想定されていたが、数字でそれが分かるとそれはもう決定的。
「なんとかしなきゃいかん!」
 中小企業診断士という立場から商店店主にアドバイスするものの、「言うだけで気楽でいいね」なんて言われちゃったりしてご立腹。「じゃあ、やってやろうじゃないか!」。

 といわうわけで、柳沢地域を盛り上げようと始まったのが「やぎさわマーケット」である。動機は意外に感情的。メンバーは「商業便利度向上事業の柳沢地区報告会」に参加した市民や商店店主たちだった。

 

駅の南北で交互開催、地域の事業者と住民中心に

 第1回やぎさわマーケットは2016年10月に、柳沢駅北口の小さな公園でスタートした。参加31ブース、ステージ出演5団体。約1200名が来場した。第2回のやぎさわマーケットは2017年4月、南口に会場を移して開催した。来場者は約2000人だった。第3回は雨天中止。第4回は2018年4月に南口で開催し、来場者は約1700人。第5回は北口の開催で、来場者は約1900人。西武柳沢駅の乗降客数を考えると、約1割がマーケットに訪れている計算になるわけで、なかなかの健闘ぶりだと思う。

 やぎさわマーケットの目的ははっきりしている。
 ❶ 西武柳沢駅周辺の事業者の認知度をあげ、活性化させる
 ❷ 南北で隔たれた商圏をひとつにする
 ❸ 消費者に柳沢を好きになってもらう
の3点だ。

 実行委員もそれぞれ様々な想いをもって参加している。そのため、これだけで納まるものではないが、共通項はこんな感じだ。出店はできる限り近隣事業者を中心に声をかけ、出店者の7割以上は近隣事業者。市民祭をはじめ、市内近郊ではたくさんのお祭りが開催されているが、ここまで地域事業者・地域住民を中心として行われる催しは珍しい。この地元出店者の割合の多さが、このイベントのフレンドリーな空気感を醸し出している理由なのだと思う。

 

ご当地ソングを歌う永井サクさんと妖精たちによるステージ(写真:山田正信)

大賑わいのスタンプラリー抽選会。後方のキャラクターはご当地ヒーロー・ヤギマー(写真:田中宏明)

 

 西東京市内には高架の駅がないため、南北で商圏が分断されていることが多い。当イベントでは北口開催と南口開催をバランス良く循環させることでその解決を図ろうとしている。

 

無償の善意が支えに

 やぎさわマーケットに限らず地域のイベントの多くは、関わる人たちの無償の善意で支えられている。利益が出たとしても雀の涙で、関わった時間を考えると、ここは最低時給がウナギ登りの東京都。近場のバイトを探した方がよっぽど効率的である。第5回やぎさわマーケットにかかった費用総額は約30万円。テントを借りるのにも近隣の値段の安い自治体に直接借りに行き運送コストをなくし、チラシに広告をつけて予算に充てたり、チラシ配り(近隣7000枚配布)も実行委員自ら行ったりする。

 入場者数のカウント(各入口にカウントする人間を配置)、ポスティングの効果測定のためのマーキング(どの地域の人間がマーケットに来たかを測定する仕組み)、スタンプラリー参加店で実際にスタンプを押したお店のカウントなどのデータも測定し、柳沢というエリアのポテンシャルを数値化している。この数字は反省会で委員会メンバーに開示され、次回に活かされることになる。

 

会場外での出店の様子

 

 それでも、イベントが雨で中止になったりもすれば、出店予定者からはクレームを受けたり、「一過性のお祭りなんてやっても意味が無いよ」なんてことを言われたりもする。正直「しんどい」と思うこともある。しかし「ありがとう!」の声が圧倒的に上回っている以上は、がんばろうと思えるわけである。

 

やってみることが大切

 「こういったイベントの委員っていうのはいろんな立場の人間がいるだろ。だからこそ関わったことに比例して発言権が増すって考えてんだ」

 これは実行委員長の言葉。なるほど、だから彼は委員長なのである。その言葉どおりに、実行委員の中で一番働いているのが板橋さんだ。

 「失敗するのは良いと思ってんだ。なにかをすれば必ず失敗するんだ、そこを責めたって仕方ない。失敗をなくす一番簡単なことは、なにもしないことだ。でもそれじゃあ、つまんないだろ」

 こんなことを、笑顔で話されたら堪らない。ただ未来や理想を語るだけの人間は多い中、「やってみる」ことの大切さをやぎさわマーケットは体現しているのではないか。

 次回、第6回やぎさわマーケットは2019年3月の予定。実行委員も募集中。来たれ若人!「まずはやってみよう!」
(中村晋也)

 

【関連リンク】
・やぎさわマーケット(facebook
・ヤギサワベース(HP)(facebook

 

【筆者略歴】
 中村晋也(なかむら・しんや)
 ヤギサワベース代表、グラフィックデザイナー。子どもの居場所である「駄菓子屋」を継続的に運営できる仕組みを模索し、デザイン事務所併設型駄菓子屋「ヤギサワベース」を設立。西武柳沢駅を中心としたまち作りに地元商店街の一員として参加。「やぎさわマーケット実行委員会」副委員長。本業はグラフィックデザイナー。西東京市内で開催されるイベントの企画・デザインにも多く関わっている。

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