おカネの造り方について

投稿者: カテゴリー: 連載・特集・企画 オン 2020年11月30日

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第23回

師岡武男 (評論家)
 
 

 おカネは漢字では貨幣とか通貨と言い、法律でも使い分けているが、英語ではどちらもマネーだ。おカネについて世間では、「経済活動の血液」「命の次に大事なもの」「カネは天下の回りもの」などさまざまに言いはやされている。貨幣経済の社会では、それだけ重要なものである。ここではおカネの造り方、回り方の仕組みを調べておこう。

 

 カネは、天下に回る前にまず造り出されなければならない。買い物の支払い手段としては、現金貨幣のほかにも、銀行預金(預金通貨という)、カード、商品券などがあり、時には借用証(つけ買い)までいろいろあるが、主役はお札と硬貨である。

 

 政府と日銀は、国内で強制通用する貨幣の発行権限を独占している。これが最も根本的な仕組みであり、どちらも法律で定められている。お札は日銀券、硬貨は政府と手分けし発行しているが、どちらも基本的に国家権力の通貨発行権(英語でセイニョリッジと言う)に基づくものだ。。日銀は、資本金1億円の株式会社だが、55%の株式を政府が持っていて、事実上の政府機関である。日銀の収益は、政府の「税外収入」として納入されるから、日銀はいわば政府の「子会社」と言ってよいだろう。これも根本的な仕組みである。

 

 まず、日銀券はどうやって発行されるか。
 日銀は民間企業または政府の持ち込んだ借金証文(手形、有価証券、国債など)を担保(資産)として銀行に対して「日銀当座預金」という負債勘定の口座を設定する。これは日銀にとっては借金なのである。預けた銀行は、この口座から現金(日銀券)を引き出したり、他の銀行の口座への支払いに使う。日銀券はこうして銀行の窓口から市中に出回ることになるが、この仕組みで分かるように、お札は日銀発行の借金証文に相当する。ただしこの借金証文を日銀に持ち込んで物的な返済を求めることはできない(過去には金貨に変換できたが)。それが日銀券というものである。日銀当座預金は、日銀の判断次第でいくらでも計上できる。しかし、金融緩和でそれが多量にあっても、多量に使われるとは限らない。民間企業の資金需要が少なければ、当座預金が空しく積み上がるだけだ。現在がそれである。

 

 日銀が銀行から買い取った資産のうちの国債の利子は、日銀の収益の一部になって政府に納入されるから、事実上無利子の借金だ。いくら積み上がっても政府の負担にはならない。いま国債は日銀が直接買い取ることはできないが、銀行から買い入れても直接引き受けても経済効果は同じだ。ただし銀行としては企業への貸出先がないと、国債を持って利息を稼がなければならない立場だ。日銀の直接引き受けも、いずれあるのではないか。

 

 一方、政府発行の硬貨は、政府が自由に鋳造し、通貨発行益の収入として、支払いに使う。日銀券のような裏付けの担保はないが、やはり強制通用力を持つ。実質的な裏付けは、国家権力と言えるだろう。これは、国家にとっては一種の借金証文に当たるのではないか。

 

 さて、このようにしてカネが造られるとすると、カネというものはいくらでも創り出せるものだとわかるだろう。政府、日銀(中央銀行)の貨幣発行権を基礎として、銀行も企業への貸し出しとセットにして負債勘定に預金口座を設定すれば、「預金通貨」を造れるのだ。ということは、国も銀行も、カネが必要と考えるところには、いつでもカネを造って供給することができるのだ。

 

 問題は、どこへどれだけの供給が必要か、また通貨発行額に限界はないのかということだ。それは国民経済の状況によるのである。

 

 通貨発行の限界に関して重要なことは、カネはいくらでも造れるが、それで買うモノの生産量(GDP)は、生産能力と需要量で決まってしまうということだ。生産能力の上限が生産量の上限になるが、需要がそれを上回ればインフレギャップが生まれて物価が上がるだけだ。逆に需要が生産能力を下回ると、デフレギャップが生まれて不況、物価下落となる。インフレ化の場合は、適度の物価高ならば景気が良くなり、設備投資も行われて、生産力はさらに高まる。しかしデフレの場合は、ほっておけば生産者は設備も雇用も減らして生産力の低下、雇用・賃金低下と、需要の低下の悪循環に陥ることになる。現在の日本経済はそれに近い。

 

 従って、デフレギャップは解消しなければならないのだが、対策としてはただカネを造れば済むということにはならない。カネとともに需要を増やす必要があるのだ。それには、カネを増やすための金融緩和だけでなく、需要拡大に役立つところへカネを配らなければならない。しかし、カネはいくらでも造れることが理解できたら、デフレ対策はぐんとやりやすくなる。

 

 そのように、多くのカネを動かして、必要な需要と生産を増やすには、どうしても「大きな政府」が必要なのである。多くのカネを動かす際の問題は大きなインフレを防ぐことだが、財政破綻の心配はない。

 

 

【筆者略歴】
師岡武男(もろおか・たけお)
 1926年、千葉県生まれ。評論家。東大法学部卒。共同通信社入社後、社会部、経済部を経て編集委員、論説委員を歴任。元新聞労連書記長。主な著書に『証言構成戦後労働運動史』(共著)などがある。

 

 

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