投票結果から見える地域の1年 「記憶に残る」記事トップ10を考える 市民ライターがオンライン座談会

投稿者: カテゴリー: メディア・報道 オン 2020年12月29日

 「読者が選ぶ『記憶に残る』記事トップ10―ひばりタイムスの2020年」の投票結果が12月28日、発表された。「確かにこれは面白い記事だった」「なぜこれが入ったの?」「上位の記事には共通点があるのでは」。ひばりタイムスの市民ライター6人が投票結果のラインナップを見ながら、オンラインで語り合った。2020年にひばりタイムスが伝えた記事を通して、この1年間を振り返った座談会の様子を報告する。

 

記事のメッセージに応えた数字

 

片岡:まず投票者が延べ154人もいたことにびっくりしました。目を通すだけでも大変ですよ。読むだけで挫折してもおかしくない(笑)。当初、誰も投票してくれないんじゃないかと心配もしましたが、よくぞ154人も応えてくれたと心強く思いました。その中で目を引くのは、1位、2位の「津田塾大の『学びの危機』」を伝えた記事。突出して多いですからね。プロジェクトのスタッフが学生や関係者にひばりタイムスの企画を伝えて投票を呼びかけた成果でしょうね。

 

川地:いわゆる組織票だけど、そうした形で若い世代にひばりタイムスが認知されていくというのは面白い流れだし、大切だと思いますね。

 

片岡:確かに「よく投票してくれたな」と思います。そして「もっとこの記事をみんなに読んでほしい」という思いが、この数字に出ていますね。

 

「第2回学びの危機カンファレンス」のZoom画像。(「津田塾大の研究会が初の実態調査」から)

 

北嶋:でも、票の推移を見ていると、必ずしもすべてが呼びかけに応えただけではないように思えます。最初は20票ほどドッと出ましたが、あとはジリジリ伸びたんです。研究会が「学びの危機」というメッセージを出した5月は、コロナの第1波で緊急事態宣言が出て、街中が閉塞感に包まれた時期です。中小企業や非正規雇用の人々の生活が困っているという声が前面に出てきて、障害のある子どもたちの状況にまで視線が十分に届いていないませんでした。どういう状態にあるかという実情は表に出にくかった。そこにこうした形で事実を伝える記事が出てきたことも選ばれた理由にあるんじゃないでしょうか。ひばりタイムスが障がい者関連の問題を取り上げる機会はそんなに多くないんですが、読者が記事のメッセージを受け止めて、きちんと応えてくれた結果がこの数字に表れていると思います。

 

片岡:この記事のテーマは障がい児であると同時にコロナ禍でもあるんですよね。そう考えると、3位の「写真展」も4位の「リアル救出ゲーム」も、実はコロナ禍が背景にある。ひばりタイムスのアクセス数ランキングを見ると、圧倒的にコロナ尽くしでしたが、やっぱりこの1年は「コロナの年」だったことがあらためてわかります。

 

みんなで考えても四苦八苦(文理台公園)(「校外学習はリアル救出ゲーム」から)

 

北嶋:ひばりタイムス開始以来、アクセス数が最も多かったのが、7月1日の「練馬区の小学校教員が新型コロナウイルス感染」です。サーバーが不安定になったくらいアクセスが殺到しました。でもコロナ感染の情報源は公的機関の発表が圧倒的に多いんです。すると極めて制限された情報だけで記事を書くことになります。一方で病院での感染者発生は行政からの発表はほとんどないので、市内の病院を定期的にネット巡回して、取材先に嫌がられながらも、できる限りの情報を得ようと工夫はしています。でもやっぱり限界はありますね。
 もちろん、入手した情報を全部書いていいのか、知る必要があるのかという議論は別にあるけれど、どこの施設でどんな人がどんな症状なのか、具体像が結ばないような記事を読み手がどういうふうに受け止めているか、読者の率直な意見を聞いてみたいですね。

 

身近な情報を正確に伝える

 

片岡:集計結果でちょっと意外だったのは、私たち常連の執筆メンバーの身辺を点描した特集「外出自粛の周辺」(3月30日)が10位に入っていることです。同じく「お正月の写真点描」も割と上位に入っています。へーっ、こういう記事って「記憶に残る」のか、と。

 

三毛のお母さんに、いつもくっついて寝る2匹(「外出自粛の周辺」から)

 

渡邉:意外です(笑)。どうしてでしょうね。

 

北嶋:投票ページの感想・意見欄に「コロナ禍で人と会えない日々が続き、途方に暮れた春、『外出自粛の周辺』はとくに心に強く残りました。自宅のベランダで市民ライターの皆さんの記事を読み、一人ひとり、それそれぞれの「外出自粛」に思いを馳せた春でした」との感想が寄せられていました。自宅生活を余儀なくされて、他の人はどうしているか生活や暮らしぶりが分かってホッとした、共感したということでしょうかね。

 

川地:でも「外出自粛の周辺」は今読み返してみても、けっこう面白いですよ(笑)。毎日不安な日々の中で身近に住む人がいろんなことを考えているんだ、こういう楽しみも見出しているんだ、ということがうかがい知れる。地域の中でこうした身近な情報が正確に伝わることは大切な役割を果たしているんだな、日々の暮らしの中でぽっと明るいものに人は心を寄せるんだな、ということをあらためて感じました。私自身、7月に「ミニチュアワールド」の記事(5位)に接して温かい気持ちになりました。「Photo歳時記」の折々の写真も、どこかで記憶に残っています。自宅の井戸を再生する「リアル井戸端会議」(8月25日、14位)なんか、ちょっと見てみたくなった。訪問したいですね(笑)。

 

入店も距離を保って(「ミニチュアワールドにようこそ!」から)

 

卯野:この記事は私も書こうかなと思って現地に行ったら「既にひばりタイムスさんから原稿執筆の依頼を受けています」(笑)。記事を書いた菊池さんとは保育園や小学校のPTAでご一緒しました。放課後カフェの活動でお世話になった方もそこにいて、びっくりしちゃった。

 

川地:10位の「東久留米七福神巡り」は、来年は中止です。その後も状況次第になります。やっぱりちゃんと記録しておくことは、七福神巡りをしている人たちにとっても大切です。

 

 

道下:七福神巡りの記事を書くにあたり、実際に参加させていただきました。運営する市民の方々の気持ちが感じられる、楽しい時間でした。記事にすることで、東久留米市らしさの一端が記録できていればと思います。

 

片岡:記事はだいたい一過性で消えていくものですが、こういう企画であらためて取り上げられると、書き手としてもうれしいし、記事で取り上げられた方もうれしいと思います。読者にとっても「こんな面白い記事があったんだ」と新しい発見があったんじゃないでしょうか。

 

渡邉:3位の「写真展」を開いた学生たちを私もよく知っているんですが、ランクインしたことを本人たちが知ったら、すごく喜ぶと思います。コロナでいろいろ傷ついたみたいだったので、最高のお知らせになるんじゃないかなと思います。

 

写真展のちらし(「学生2人が初の写真展」から)

 

片岡:この記事の見出しは「『世界が少し明るくなる』ように」。今のみんなの気分を表していますよね。

 

ごちゃまぜの魅力

 

川地:挙げられた記事を見ていると、ひばりタイムスの記事はごちゃまぜだなぁとあらためて感じました。ストレートニュースあり、話題記事あり、議会記事あり。ごちゃまぜ自体が紙面に広がりを与えています。地域も西東京だけじゃなくて小平、東久留米……私自身、東大和の記事を書いたこともあります。生活圏の広がりが紙面に反映しているんじゃないかなと思いました。7位の「サンセバスチャン国際映画祭」なんて地域から世界につながっています。

 

映画「海辺の彼女たち」から(©2020 E.x.N K.K.)

 

渡邉:確かに普段、掲載されている記事も多彩ですけど、選ばれた記事も多種多様ですよね。そこが魅力かなと思います。実際、日常の役に立つ記事もあって、そんな実用的な目的で読んでいる方と、読み物として楽しく読んでいる方がいるとわかります。

 

卯野:サイトの「ひばりタイムスとは」をあらためて読んでみたら、「住民の生活と経験を大切に、マスメディアの網からこぼれ落ちがちな暮らしのニュースを伝えます。住民が互いに交流し支え合って暮らす、これからの地域作りに欠かせない要素だと考えるからです」とあります。本当にそのとおり。硬軟、長短取りまぜて、いろんな人がいろんな角度から楽しめる記事が掲載されていますよね。

 

北嶋:今回、154人の方が投票に参加して、選んだ記事は全部で133本で31位以下はすべて1ケタ。つまり票はどこかにまとまらず、バラけているんですよ。それだけ掲載記事がバラエティーに富んでいると同時に、154人の関心も多様だったんじゃないかと思います。僕らが考えていた暮らしや生活の幅よりも、個々の人たちが活動している幅ははるかに広いということを、当然のことだけど実感しました。

 

人の顔が見える記事

 

道下:その中でも共通点として感じることがあって、単に事実や情報を伝えるものよりも、人の顔がわかる記事が選ばれている傾向にあるのかなと思います。3位の「写真展」の学生2人、4位の「リアル救出ゲーム」の校長先生、6位の「カフェ&サロンHALUM」や7位の「comma,coffee」の店主の方々とか、その人なりの考え方とか生き方が伝わってくるような記事です。それも華やかな活躍というより、不安や葛藤を感じながらも地域や周りの人のことを考えて初めて挑戦したとか、勇気を振り絞って一歩踏み出している。そんな方々の生き方に触れることで元気をもらっているように感じました。

 

植物のオブジェが空間の主役(「comma,coffeeの新しい日常」から)

 

片岡:それは私も感じました。本当にそうですね。しかも「地元飲食店を支援しよう」「子どもたちの試行錯誤を応援する」「吹奏楽部員、がんばれ」といった、誰かを励ますような記事が多く選ばれているように思いますね。

 

道下:僕自身、自宅と職場を往復する中、地域で面白いことをしている方がいるという気配だけは感じているんです。その活動の内容自体にももちろん興味はありますが、どんな人がどういう思いでやっているのかに興味があって、それがランキングにも反映されているように思います。リスクを取っても生徒の立場を考えて「リアル救出ゲーム」をする先生方がいるんだと思うと、それだけで地域に対する信頼感が高まる、勇気を与えられるんですよ。

 

北嶋:ひばりタイムスへのアクセスのほとんどは、情報系のストレートニュースです。じっくり記事を読むというより、例えば通勤の行き帰りにスマホで情報を得る。普段のそういう情報の接し方とちょっと違った切り口で記事に接近してもらいたい、というのがこの企画を立てた理由の一つでした。ここに上がった記事を見ると、そうしたこちらの思いにきちんと応えていただいたと感じます。ここで上位にランクインした記事は、アクセス数では上位には来ないけれども、ちゃんと読む人には届いているということですね。

 

子どもを通して地域とつながる

 

北嶋:それから全体から受ける印象としては、子どもや子育て、教育関係の記事が多いということです。1位から4位までの記事も子どもや学生に関係しているでしょう。

 

片岡:確かに。どうしてでしょうね。ひばりタイムスの読者の7、8割がスマホユーザーということですが、若い世代が読んでいるということと関係があるんでしょうか。

 

道下:私は都心に勤めているんですが、地域との接点は子どもを通して持つことが一番多いんですよ。地域への依存度が大きい自分の生活を考えると、やっぱり関心は教育なんです。子どもは学校を含めて地域に助けてもらっている部分が大きいので、地域が持つ子どもへの影響力や能力に対する関心は自然に高くなるんだと思います。

 

 

 

西東京に妖怪「アマビエ」降臨!」から(駄菓子屋ヤギサワベースの店頭)

 

卯野:同感ですね。子どもが幼い頃、私は自宅と会社と保育所の間をぐるぐるするような生活で、地域とまったく関わってこれなかったんです。地域の人たちに子どもを育ててもらったという思いがあって、それで今、地域ともっと関わりたい、関わって恩返しができればと思っています。
 それからこの辺りに住んでいる方は教育に関心が高い方が多いように思います。以前都心に住んでいた経験からすると、都心にも教育熱心な方が多いかもしれないけど、地域に愛着がある、地域のために活動したいと思っている人たちは、この周辺のほうが多い気がします。そういう方々が地域で活躍されている姿を目の当たりにして、「みなさん、すごいな」というのが実感です。

 

渡邉:ひばりが丘団地の辺りだと、エリア内で引っ越して新しいマンションに入っている方もいるけれど、まるで縁のないところから来ている方も相当数いる感じがします。そうすると、地域のことを知りたい時、お子さんがいると学校を中心としたネットワークでつながれるんですけど、そうでない方が地域のことを知りたくて、ひばりタイムスを読んでいるという話は聞きますね。ひばりが丘団地には子どもが多いので、子育て情報はみんな欲しているし、ママ友の間ですぐに情報が共有される感じです。

 

新たな書き手を

 

川地:そうすると、例えば子どもがつくる記事、子どもの投稿もあってもいいのかな、と思いますね。ほら、自粛の時に子どもが学校に行けなかった時期があったでしょう。やっと行けた時、喜んでいいのか悪いのかわからない感じで、帰ってきた顔を見ると、やっぱり楽しかったみたいでした。そういうふうに時代の動きに巻き込まれている子どもたちの意見も聞きたい気がします。

 

卯野:そうですね。若い人で書きたい人っているんじゃないでしょうか。「多種多様」という言葉が出ましたが、ここにいる市民ライターの人たちはそれぞれの経験を生かして、それぞれの視点で素材を見つけて、記事を書いていますよね。そういう部分をもっと広げていくことが大事かな、と。来年は自分が書くよりも、記事を書く人やイラストを描ける人をリクルートしてこようかしら。そういうこともやれたらと思います。来年の抱負です(笑)。

 

北嶋:来年、書き手とその他のいろいろな作業をしてくれる方を公募しようと思っています。書き手が増えてくると、ひばりタイムスも別の展開ができるかもしれません。新年、楽しみですね。

【参加者】(50音順):卯野右子、片岡義博、川地素睿、北嶋孝、道下良司、渡邉篤子

 

【参考情報】
・読者が選ぶ「記憶に残る」記事トップ10-ひばりタイムスの2020年(ひばりタイムス

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