吉高美帆さん

コミュニティの力で「よき避難者」を増やす 「まちにわ防災講座」の取り組み

投稿者: カテゴリー: 環境・災害 オン 2021年7月28日

 「普段は楽しく、いざという時に助け合えるコミュニティ作り」を目標に活動するまちにわひばりが丘(一般社団法人)が7月11日、専門家を講師に迎えて防災講座を開いた。ひばりが丘団地エリア以外からも数名が参加。地域をつなげ、分け隔てのない防災について講義とワークショップが行われた。参加者が熱心に語り合い、閉会してもなかなか席を立たないほどだった。(写真は、講師の吉高美帆さん)

 

行政区、マンション、戸建て、わけ隔てのない防災対策とは

 

 一般社団法人まちにわ ひばりが丘は、東日本大震災から10年目となった今年、防災への意識を高める取り組みを活発にしている。

 

 3月に西東京市消防署に協力して防災訓練を実施。5月に発行した機関紙「AERU」は防災特集とした。今年度の活動の軸となる「まちにわ講座」の第1回目を「まちにわ防災講座」とし、住民主体で動き出している地域の防災を共に考える機会を企画した。

 

 広報を始めたのが6月23日。その日から申込みがあった。「楽しい企画というわけではないので、参加者が集まるか」という事務局の心配を覆し、ほぼ定員いっぱいの19人が申し込んだ。

 

 講座は対面とオンラインを併用する「ハイブリッド型」で行われた。
 当日「ひばりテラス118」には10人の参加者が来場した。すでに防災委員会を立ち上げ、活動をしているマンションの人もいたが、最近引っ越してきた人や、ひばりが丘1丁目、2丁目、URひばりが丘パークヒルズの人もいた。オンラインのメンバーは8人。開始時刻には画面いっぱいにおなじみの顔や初めての顔が映し出された。

 

 講師を務めたのは吉高美帆さん。2016年、17年に行ったマンション住民向けの防災講座でも話をした。久々の来訪だ。過去の防災講座がきっかけとなり、マンションで「防災座談会」が開催されたり、「防災かわら版」が発行されたり、住民が活動を始めた。2つのマンションでは「防災委員会」が立ち上がり、他のマンションでもこれに続く動きが起きている。吉高さんの講座に参加した人は防災の意識を高め、それぞれが必要と思う行動をとっている、という声を聞いている。

 

吉高美保さん

マスクをしていても想いが伝わる

 

 「なぜ、『防災』って必要なんでしょう。それを考えるために背景からお話しします」と東日本大震災の現実を伝えるところから講義は始まった。宮城県を中心に東北の被災者からヒアリングしたことを時系列でまとめた「東日本大震災のリアル」。発災直後から、刻々と変化していく現実が語られる。時々、オンライン参加者のためにパソコンに顔を向け話しかける。画面で大きくうなづいたり、手で丸を作る動作が見える。テンポ良く、はっきりと話が熱を帯びて進んでいく。

 

 想定を大きく超える災害に見舞われ、マニュアルでは対応できなかったこと。雰囲気の良い避難所とそうでないところの違いは避難者のスタンスの違いであったこと。だからこそ、自ら考えて動ける「よき避難者」であることが大切だということ。そのために何を準備したら良いのか、という問いかけからワークショップが始まった。

 

それぞれの悩み

 

 ワークシートに「現在していること」を書き込む受講者。シンとした時間が少したった後、隣の人、グループの人と話し合う姿が見られた。グループのリーダーがファシリテーターとして話を進めると、現在進行形のそれぞれの思いや、悩み、参加の動機が語られた。オンラインメンバーも二つのグループに別れ、少人数での話し合いが行われた。

 

防災講座

サラサラと鉛筆を走らせる音が重なる

 

 まだ引越して3カ月。マンションに暮らすことも初めてだと言う参加者が、知り合いもなく不安だが、「やってもらう」ではなく、自分でできることから始めようと思う、と語る。

 

 マンションの管理組合の組織として作られた防災委員会のメンバーは、組合員に正しいことを伝える難しさを感じていると言う。

 

防災講座

長年の経験に耳を傾ける

 

 長年、団地で防災の活動をしてきた人が経験を語る。「配管のことなど、自治体の責任者も答えてくれないんだよ。自分なりに調べて結論を出してはいるけど」と同様の苦労が明かされた。

 

自活力を高めるコツはなんだろう?

 

 再び講義の時間。東日本大震災の避難生活の実態が報告される。指定避難所ではキャパシティーが足りない。組織的に助け合う体制ができていなかった。行政も被災し機能しない。それらの被災地の声を聴き、それならばどんなことが大切か?どうしていけば良いか?と問いかけがあった。

 

 自問自答し、グループ内で話し合うワークショップへと続く。
 活発に発言があり、熱心にメモをとる。ワークシートがどんどん埋まっていく。

 

防災講座

ぎっしり書き留められた気づき、思い

 

 オンラインのグループも含め、4つのグループの代表が感想を含め、話し合いの内容を発表した。

 「コミュニティをどう作っていくか、そこに難しさを感じる」
 「ひばりが丘地域外の人も避難してくること、ボランティアが入ることなど、さまざまな場面を想定することが大切だと思う」
 「生きたマニュアルにしなければならないと思う。発災後の道筋に気づきがあった」
 「知識を共有することが必要と思った」

 会場でもオンラインでもコミュニティの力が災害の際の鍵であることが共有された。

 

 吉高さんは「私たちは防災のために生きているわけではないです。防災はくらしの延長。生きたコミュニティを作ることが防災につながります。ぜひ周りの人を巻き込んで地域全体の力を底上げしてください」と話があった。

 

 事務局長から散会の挨拶があった後も、グループで話を聞き合っていた。連絡先を教え合う姿や次の集まりを相談する姿もあった。

 

 受講者が答えたアンケートでは「防災に興味をもつ仲間がいることがこんなにいることがわかった」「多くの気づきがあった」と仲間と学んだ成果が書かれていた。また、「ひばりが丘にフォーカスしたさらに踏み込んだ内容も聞きたかった」「導入編の続編を期待する」と言う声もあった。

 

防災講座

講座が終わった開放感からさらに盛り上がる!

 

 ワークショップの際、あるグループで「私たちは今がコロナ禍で被災している状況。誰もが自分で考え、動けるようにしたいと思う」と発言があった。それぞれに異なる状況ではあるが、命が脅かされる危険と向き合いながら、「どうすれば良いか」を考え、動き続けたこの一年半に想いが至った。マニュアルに無い想定外のことに直面し、正しい情報がないと疑心暗鬼になり冷静さを失いがちだ。不安に駆られる、憤る、批判に終始する、そんな風潮に疲れた歳月だった。

 

 自分で考え、自ら動き、助け合う「よき避難者」になるのは「今」なのだと考えさせられた講座だった。
(渡邉篤子)

 

 ▽講師:吉高美帆 COMMUNITY CROSSING JAPAN(まちやマンションに共助をつくる防災減災プロジェクト)研修ファシリテーター。防災士。都市のマンション防災を中心に担当。
 ▽写真撮影:平田武 まちにわ ひばりが丘ボランティアチーム「まちにわ師」

 

 

渡邉篤子
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