有安諒平

OBのパラリンピアンが講演 自由学園「地球市民教育フォーラム」

投稿者: カテゴリー: 文化 オン 2021年10月7日

 自由学園(東久留米市学園町)OBの有安 諒平ありやす りょうへいさん(34)が、9月25日にオンラインで行われた同学園学生・生徒向けの第17回地球市民教育フォーラムで、「多様性社会の実現を目指して」と題して講演を行った。有安さんは視覚障害を持ちながら理学療法士として活躍する一方、ボート競技で先の東京パラリンピックにも出場。講演では学園時代の思い出やパラリンピックの舞台裏も明かし、「相手のことをどれだけ理解できるかが多様性社会には必要」などと訴えた。(講演の模様はYouTubeの自由学園チャンネルで公開中)。有安さんは講演後、ひばりタイムスのインタビューに応じ、「自由学園で得たものは大きかった。(学園の地元)ひばりが丘は今でも行くとやすらぐ街」などと話した。(写真は、母校の学生らに向けてオンライン講演する有安諒平さん=自由学園提供)

 

高1で視覚障害、理学療法士に

 

 有安さんは1999年、男子部65回生として自由学園中等科に入り、8年間在籍した。この間、高等科一年の時、視野の真ん中が抜けて周りがぼやけて見える視覚障害「黄斑ジストロフィー」と判明。最高学部(大学)2年終了後、筑波技術大学に移り、病気やけがで運動機能に障害がある人の治療やリハビリテーションをサポートする理学療法士に。また、杏林大学大学院生、研究者として医学研究に携わるほか、視覚障害者柔道を皮切りにパラスポーツに目覚め、2016年からボート競技、2018年からクロスカントリースキーの選手として活躍。先の東京パラリンピックではボートPR3クラスに出場(12位)も果たした。

 さらに来年の北京パラリンピックでクロスカントリースキーの日本代表を目指して、東京パラリンピック終了翌々日からトレーニング開始、講演会は合宿先の青森からオンラインで行われた。

 

学園時代の有安さん

自由学園時代、授業は一番前の席で。得意な物理の授業ではアシスタント(左)(自由学園提供)

 

 講演では有安さんの自己紹介や、当時の写真も交えて「(視力が悪くなり)教室ではいつも一番前の席だったので、先生の授業の手伝いもよくしました」などと学園生活の思い出なども披露。講演テーマの「多様性社会」については、イギリスの保育士・ライター、ブレイディみかこさんの著書で日本でベストセラーになった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を例に言及。同書は人種や経済格差、置かれた環境など、いろいろな人がいるということが書かれたエッセイだが、有安さんは本で強調されているシンパシー(sympathy)とエンパシー(empathy)の概念に注目する。

 

シンパシーとエンパシー

 

 「共感を意味するシンパシーは受動的な感情であるのに対し、エンパシーは相手の立ち場を想像して、相手のことを理解する能動的な能力。エンパシーの能力が多様性の理解には重要だと本の中に出てきます」としたうえで、「相手に自分と同じ前提を見つけたときに感じるのがシンパシー。エンパシーは皆前提が違うんだというもの。前提が違うからこそ相手の立場になって考えることで新たな発見や、感情の共有ができたり、本当の意味での共感がそこから生まれるんじゃないか。相手のことをどれだけ理解できるかが多様性社会には大事なことだと思う」。また「人には得意不得意、能力のでこぼこがある。そうしたでこぼこを生かすためには環境の配慮も必要。たとえば車いすの人は段差や階段が苦手で、そういう環境設定が整っていないと、その人の秀でた能力を享受できなくなる」と多様性を生かすための環境の意義もアピールした。

 また、東京パラリンピックで出場したボート競技は5人乗りのPR3というクラスで、かじ取り1人と視覚障害や肢体不自由など10~40代の男女各2人の選手で構成された「多様性のチーム編成」で挑んだ。パラリンピックも「多様性のるつぼのような空間」で、それを象徴するような選手村での各国選手らとの交流の様子なども紹介された。

 

有安さん

ボートのトレーニングに励む有安諒平さん(©S.AKAGI)

 そして、障害者や出身地といった「レッテル」について、「多様性というところでどんどん混ざり合って、そばでふれあい、見てもらえば、レッテルの意味のなさも体験できると思う。レッテルでなく、その人個人にどんな能力、価値があるか。互いを理解してほしい」と呼び掛けた。

 講演中、学生から「視覚障害などで心が折れそうなときにモチベーションを高める方法」を聞かれると、コンビニエンスストアのおにぎりの具材を例に、「字が見えないと具材は選べないが、(選べると好きな)ツナマヨに縛られて、もっとおいしい具材との新たな出会いや経験ができない。見えないことで世界を広げることができる。視覚障害は不自由ではなく、むしろ自由でプラスの能力だと。こうした思考の転換が次のことに挑戦するモチベーションにつながる」などと話した。

 講演を聞いた学生からは、「有安さんの学園時代のお話も伺って、私のこれからの人生に何が起こるかとても楽しみになりました.不安なことも多いのですが,有安さんのように『とりあえずやってみる精神』を持って,楽しみながらチャレンジしていく人生でありたいと思いました」(最高学部1年)などの感想が寄せられた。

 

ひばりタイムスのインタビュー一問一答

 

 講演後行ったひばりタイムスとの単独インタビュー一問一答は以下の通り。

――講演の感想を
「ここ数年、最高学部の授業でお話ししたことはありますが、講演は初めて。楽しくやらせていただきました」

――テーマの多様性について
「今、多様性社会が実現していく過渡期。障害や病気、いろいろな状況に苦しんでいる人たちが等しく楽しく過ごせる社会に向けて、自分もそれに貢献できることがあればやっていきたい。講演やスポーツ、研究もそう。パラリンピックやSDGs(持続可能な開発目標)でも多様性が入ってきて社会的関心が高まっているので、話しやすくなっていますね」

――自由学園について
「自由学園で学んだこと、基本的な生活のスキル、考え方が人生に生きていることは多いですね。視覚障碍者で過保護にされて、本来できるはずのことができなくなる状況の人たちを見ると、自由学園に行ってよかった、得たものは大きかったと思います」

――後輩にエールを
「自由学園にいたころは、まさかこういう感じ(パラリンピアン)になるとは思ってもいなかった。目の前のことを一生懸命やっていれば自分の真価を発揮する機会は必ず来ると言いたい」

――学園周辺地域への思いは
「(最寄り駅がある)ひばりが丘(西東京市)にはノスタルジー、懐かしさを一番感じます。成長期のころ、8年いたので、友達との思い出もあって、駅や街の建物が変わると、驚きや寂しさも。今も年に数回は行きますが、やすらぐというか、気持ちの落ち着く街ですね」
(倉野武)

 

【関連情報】
・【録画公開】パラリンピック2020 ボート競技日本代表選手・自由学園男子部卒業生の有安諒平氏の講演「多様性社会の実現を目指して」(自由学園
・地球市民教育フォーラム(自由学園

 

倉野武
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