東京高裁

西東京市長選挙無効の訴えを東京高裁が棄却 市選管の管理執行手続きに「違法なし」 配布ビラは「違法」だが

投稿者: カテゴリー: 市政・選挙 オン 2021年11月12日

 今年2月に実施された西東京市長選挙の無効と東京都選挙管理委員会の裁決取り消しを求めた裁判で、東京高等裁判所(鹿子木康裁判長)は11月11日、配布された法定ビラは特定候補を想起できるけれども、「選挙人全般が自由な判断による投票が妨げられるような特段の事態が生じたとは認められない」として、原告の西東京市民39人の請求を棄却した。原告側は記者会見で最高裁へ上告する方針を明らかにした。(写真は、東京高裁などの合同庁舎)

 西東京市長選は無所属新人の3人が立候補。今年2月7日に投開票が行われ、前副市長の池澤隆史候補が3万4299票を獲得して当選。次点の前逗子市長、平井竜一候補は3万2785票となり、池澤候補とは1514票、得票率で2.15ポイントの僅差だった。

1号法定ビラ

1号ビラを掲げる山口さん(10月14日の会見)(クリックで拡大)

 問題になったのは池澤候補の確認団体「明日の西東京を創る会」(指田純会長)が市選管に提出、受理された2種類の法定ビラだった。ビラは投票日直前、新聞折り込みやポスティングなどによって市内で広範に配布された。

 判決は、2種類の法定ビラにある「前副市長」が池澤隆史候補を容易に想起させ、「逗子市長」は平井竜一候補を意味すると認めたうえで、これは公職選挙法(201条の9第2項)が禁じている「氏名類推事項」に当たると判断した。しかしこのことは確認団体の取締規定や罰則規定違反の行為であり、「選挙地域内の選挙人全般が自由な判断による投票を妨げられたような特段の事態が生じたとは言えない」として、選挙無効の要件となる「選挙の規定に違反する」ことには当たらないとした。

山口あずささん

2号ビラを手にする山口あずささん(11月11日の会見)(クリックで拡大)

 「逗子での失敗のリベンジは逗子市でやってください。ここは西東京市です」「共産・左翼に市政を渡すな!!』などのスローガンが書かれた法定2号ビラは、裏面に新聞記事などの引用と抜粋で「逗子市政批判」を展開していた。しかし「記載された個々の事実自体が虚偽とは認められない」「客観的にみて選挙民の公正な判断を誤らせる程度に、全体として、真実といえない事実を表現したとはいえない」とも述べ、「事実を歪めて公にし」「虚偽事実を公表した」とする原告の主張を退けた。

 また市選管は、ビラが公選法に違反する旨、確認団体に伝える義務があるとの原告側の主張に対し、公選法にそういう明文の規定はなく、自治省(当時)からビラの審査権はない、内容によって受け付けを拒否することは出来ない旨の見解が示されていたことなどからすれば、「市選管の手続きに違法があったということはできない」と擁護した。

 判決後に開かれた原告側の記者会見では、判決の論理矛盾の指摘、今後の選挙運動に及ぼす影響への強い懸念が相次いだ。

 

記者会見

記者会見を開く原告ら。右から森輝雄さん、矢澤曻治さん、山口あずささん、星出卓也さん、藤井一男さん(東京・霞が関の司法記者クラブ)

 原告代理人の矢澤曻治しょうじ弁護士は「これまでの経緯から選挙無効の判決を期待したのに、市長選を正当化する驚くべき内容だった」と切り出した。禁止された「氏名類推事項」が法定ビラに記載され、公選法に抵触すると判断しながら、その選挙が無効にならないとする見解は「論理矛盾。破綻している」と怒る。この判決がどういう状況をもたらすか。矢澤弁護士は「これからは法定ビラに、たとえ法で禁止されたことを書いても、選挙の効力に影響を及ぼさない、選管も責任をとらない。これでは、なんでもありの事態になる」と懸念を隠さなかった。

 原告総代の山口あずささんはまず「このビラを見てどう思いますか」と、会見に臨んだ記者らに問い掛けた。かざしたビラには「逗子での失敗のリベンジは逗子市でやってください。ここは西東京市です」と書かれ、「よそ者排除」などの批判を受けたスローガンだった。「悪口であり、いじめではないですか。これがいいなら、いじめをしてはいけないなどと、子どもに言えないでしょう。そんなことが、西東京市でまかり通ってほしくない、恥ずかしい。法律的なことを言う前に、フェアに、素直にビラを見てほしい。そこを判断できない裁判官は情けない」と話した。

 原告で西東京市議の森輝雄さんも「今回の判決は、法律に違反したビラ発行の責任は確認団体だけにあり、選管は違反を見逃していい、責任はないと言っているに等しい。間違っている」と語気を強めた。

 同じく原告の藤井一男さんは「ビラの違法を認めながら(選挙)結果に影響を及ぼさないという判決に大変驚きました。暗い日本になるのではないかと思い、憤りを思えます」。牧師の星出卓也さんも「選挙管理委員会は、公平公正な選挙にする社会的な役割があるはず。提出されたビラの形式的な事項をチェックするだけならAIでもできる。極端に言うと、卑猥な映像を載せてもいいのだろうか。これでは何でもありになってしまう」と選管の存在意義を問い返した。

 判決によると、公選法は「その違反者を処罰することによってこれら規定事項の遵守を期待しているのであって、その違法行為のために選挙を無効として再選挙を行うことを趣旨とするものではない」という。では、公選法に抵触したビラの発行関係者をだれが「処罰」するのか。

 山口さんらは6月23日、確認団体「明日の西東京を創る会」の指田会長、池澤市長らを公職選挙法の虚偽事項公表の疑いで東京地検に告発状を提出した。矢澤弁護士らによると、その後地検から連絡があり、警視庁の窓口を紹介されたという。警視庁は地元の田無警察署を勧め、山口さんらは8月13日、田無署に告発状を提出し直した。「その後の動きは連絡がない」と山口さんは話している。
(北嶋孝)

 

【関連情報】
・東京高裁 判決全文(PDF 4.61MB

 

北嶋孝
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西東京市長選挙無効の訴えを東京高裁が棄却 市選管の管理執行手続きに「違法なし」 配布ビラは「違法」だが」への1件のフィードバック

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    本文に記者会見の発言を追加し、写真を入れ替え、関連情報として判決全文を掲載しました。(北嶋)

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