第4回 受付スタッフが大活躍


 三輪隆子(みわ内科クリニック)


 

 前回は認知症カフェのオレンジカフェ保谷駅前を紹介しました。ここでは、認知症サポーターであるボランティアの皆さんが大活躍しています。専門家がサポートし、認知症の方々にきちんと対応できるボランティアが増えれば 、認知症があっても地域社会で暮らしやすくなっていくことにつながっていくと考えています。
 今回は、認知症診療の場である私のクリニックのスタッフについて紹介します。

 

スタッフは総勢10人

 

 総勢10名の小さなクリニックで、医師2名、看護師3名、事務職員5名です。認知症の診療の中心は医師や看護師です。しかし当院では、医療職ではない受付担当職員が大活躍しています。大きな病院でも小さなクリニックでも、患者さんが医療機関で最初にアクセスするのは受付です。受付スタッフは笑顔でわかりやすい対応を心がけていますが、認知症の方にはさらにひと工夫の対応が必要になります。

保谷駅北口前のみわ内科クリニック

総勢10人のスタッフ

 

 認知症では物忘れが最初の徴候になる場合が多いようです。 症状が軽いうちは、いつも通りの生活でも特に困った問題は起きません。高血圧など生活習慣病で長年通院している高齢の患者さんに物忘れが始まっていても、診察室でいつものように診療して薬を出している限り、認知症の方を多く診ている医師でも異変に気づかないことがほとんどです。

 通院患者さんの物忘れになどの変化に気づきやすいのは受付スタッフです。病状の変わらない方でも、毎年保険証が新しくなり、保険の負担割合が変わることもあります。そういうときはその都度、保険証の確認が必要です。

 「こちらは古い保険証です。新しい保険証が届いていると思うのですが…」
 「どうだったかしら。それしかないと思うけど」

 今までは更新時に特に問題なく対応できていたのに、ちょっとおかしいなと受付担当が感じるときがあります。このような場合は、医師や看護師を含めてスタッフ全員で話し合います。診察室のいろいろな場面で注意していくと同時に、ご本人にも生活で困ったことはないか詳しく伺っていきます。このような場合、医師に対してよりも看護師に、看護師よりも受付の職員に、気軽に話す傾向があります。

 

細やかな配慮が必要

 

 認知症と診断されて通っている方への対応はさらに細やかな配慮が必要になります。認知症でも一人暮らしの方は、中等度ぐらいなら一人で通院している方も多いのです。当院は予約なしでも診療できるので、このような方にはできるだけ予約を取っていただきます。その理由は、患者さんの受診日をこちらで把握することができるからです。

 当日の予約リストに載っているのに来院されない場合には、受付職員が電話で確認します。受診日をお忘れになっていた場合には、声掛けをすることで受診につなげることができます。予約を忘れることが多くなった場合は、一人での受診は困難になったと判断しなくてはいけません。一方、電話した時に薬がまだたくさん余っているから受診しなくてもいいと思った、という方もいます。その場合には薬の飲み忘れが多くなったと分かります。薬の管理が一人では難しくなっている可能性もありますから、御家族などに内服しているかどうか確認を依頼します。

 また、予約日よりも早めに受診されたり、予約を早めてくれとお電話くださったりする場合もあります。そのときは、受付が理由をお聞きしています。予約日よりも早く薬がなくなってしまったという場合には、薬を飲み過ぎたか、どこかで無くした恐れもあります。このような場合にまず看護師が状況をお聞きします。さらにご家族やケアマネージャーさんに、ご家庭の状況を確認していただくようにしています。薬の飲み忘れも心配ですが、飲み過ぎは健康被害を起こす危険もあるのでより一層注意する必要があります。

 

全員で話し合う

 

 認知症の方に対応するとき、ごく普通に話しても通じにくい場合があります。例えば、「少々お待ちください」「そちらにおかけください」など良く使いますよね。これが通じにくいのです。「順番は次です」「あと10分お待ちください」「この椅子におかけください」などと具体的な説明が必要な方もいます。

 このように対応しても、待っていることが苦手な方もいます。じっとしていられない、つい声を出してしまう方も少なくありません。付添いがいるときには工夫してくれますが、お一人でいらした時は、他の患者さんにお願いして順番を先にさせていただきます。受付スタッフが、その場でさりげなく周りの皆様にお願いしてご協力いただくよう配慮しております。

 最初に述べたように、受付事務は医療専門職ではありませんので、特別な研修を受けているわけではありません。仕事で毎日認知症の方に接し 、どのようにしたら良いかを学びます。 問題が起きた時は、スタッフ全員で対応を話し合っています。こういう積み重ねのおかげで、現在のような対応ができるようになりました。当院の認知症診療には受付スタッフの存在が欠かせません。

 高齢の患者さんが増え、認知症の方も増えていきます。どこの医療機関でも、このような対応ができるようになっていただけるといいなと思っています。
(了)

 

©ks_skylark

 

 

【筆者略歴】
 三輪隆子(みわ・たかこ)
 認定内科医、神経内科専門医、身体障害指定医(肢体不自由、音声言語、平衡機能障害)。西東京市医師会理事。
 静岡県清水市(現静岡市清水区)出身。信州大学卒業後、信州大学第3内科入局。佐久総合病院で地域医療を研修後、東京都立神経病院、狭山神経内科病院で神経疾患、難病の診療に従事。1995年(平成7年)国立身体障害者リハビリテーション病院神経内科医長。リハビリテーションのほか社会復帰、療養・介護など福祉的な問題にも取り組む。2007年(平成19年)1月「みわ内科クリニック」院長。2013年(平成25年)6月医療法人社団エキップ理事長兼務。2017年(平成29年)4月から理事長。

 

 

 

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