第12回 「夢」を形にするシェアオフィス、シェアキッチン、シェア工房


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 ‘share’という英語は、マーケットシェアのように、市場の「一部を占有する」という意味で使われるが、最近では、「共有する」というニュアンスで使われることが多い。シェアハウス、シェアオフィス、カーシェアリング、シェアキッチン、シェア工房などなど。

 住宅や車、事務所等をシェアするというと、「価格が高いから」、「普段余り利用しないから」といった合理的な行動と捉えられる面があるが、単にそれだけではなく、シェアを通してコミュニケーションの増加や共創空間づくり、コミュニティの再生を目指している面もある。さらに、事務所や店舗、キッチンや工房をシェアすることで、一人では叶えられない夢を実現しやすくする効果がある。

 

1.多摩地域に増えているシェアオフィス

 シェアオフィスは、目新しい業態ではないが、これまでは地価が高いことや利便性が良いことなどから、都心が中心であった。しかし、最近では、多摩地区にもシェアオフィスが増え始めている。

 

多摩地区の主なシェアオフィス一覧

 

 もっとも、三鷹市は、1990年代後半から「SOHO CITY三鷹」(注1)を標榜し、1998年にはSOHOパイロットオフィスをオープンさせ、その後も複数の多様なシェアオフィスを展開してきており、先進的な試みをしてきた。
(注1)SOHOとは、Small Office Home Officeの略称で、シェアオフィスと同義だが、ネットの普及で会社に行かなくても済む働き方というような意味合いが強い。一方、シェアオフィスは、むしろオフィスをシェアする者同士が、適度な距離感を保ちつつも交流・共働しあう意味合いが強い。
・SOHOCITYみたか ポータルサイト:http://sohocity.jp/

 最近では、小金井市の「KO-TO(コート)」(2014年)、八王子市の「コワーキングスペース8Beat」(2014年)、立川市の「TXT(テクスト)」(2014年)、「KODACHI(コダチ)」(2016年)、日野市「Plan T(プラント)」(2015年)、東大和市の「BusiNest(ビジネスト)」(2015年)、国分寺の「Coco Color Office(ココカラオフィス)」(2015年)などが次々にオープンしている。

 日野市や小金井市のように、行政が施設を作って、運営を民間に委託しているものもあるが、八王子の8Beat、立川のTXTやKODACHI、国分寺のCoco Color Officeなどは、民間が設立したものだ。

 

 ●暮らしの現場で仕事をつくる「KO-TO」

 都心や、八王子のように都心から1時間かかるうえに、企業や大学が集積しているエリアでシェアオフィスのニーズがあるのは、分かるような気がするが、都心から30分くらいの通勤圏で、周りに住宅しかないようなところで、シェアオフィスのニーズがあるのだろうかと思い、東小金井駅の中央線高架下に出来た東小金井事業創造センター「KO-TO」を訪ねてみた。
・KO-TOのHP:http://ko-to.info/

 

KO-TO入口

 KO-TOは、小金井市の公共施設で、(株)タウンキッチン(代表:北池智一郎)が指定管理者となっている。施設としては、個室6、ブース6、シェアスペース約30席。現在、約50人・社が利用しており、個室・ブースは、空き待ち状態が続いているとのことだ。

 利用者の業種は、非常にさまざまだ。HPによると、個室では、脚本家、自然エネルギー、出張理美容、介護者支援、機械工具輸入販売。ブースでは、医療保険者向けコンサル、人事/メンタルヘルス、靴下輸入販売、コンテンツ制作/配信、イラスト/グラフィックデザイン。

 シェアスペースでは、翻訳、訪問マッサージ、フィナンシャル・プランナー、リノベーション、フードバンク、ディベート研修、フォトグラファー、WEB制作、ネットショップ、環境汚染浄化、電子ブック出版、コンテンツツーリズム、デザイナー、地域情報発信、デジタルマーケティング、建築設計、ヘアメイクなどなど。中には、いろいろなスキルを持っているが、これからやることを絞っていきたいという人もいる。

 (株)タウンキッチンは、立川シェアオフィス(TXT、KODACHI)の運営も請け負っており、HPによると、こちらの利用者は、公認会計士/税理士、社会保険労務士、商店街事務局代行、システム開発、WEB制作、ネット広告、企業コンサルなど、近年、商業やビジネスの集積が進む立川という立地を反映している。

 KO-TOのコンセプトの一つに「暮らしの現場で仕事をつくる」と書かれているが、上記の業種を見ると、まさにそんな感じだ。女性の利用も多く、自転車で子どもを保育園に預けてから来るといった人もいるとのこと。地域の課題を解決する人、子どもの手が離れたので前からやりたかったことを始めた人、定年退職しそれまでの人脈やスキルを活かして新たな挑戦を始めようとしている人などなど。

 

KO-TOのシェアスペース

 

 シェアオフィスを利用する人の動機としては、もちろんネット環境や商談室などが整った場所を相対的に安く得られることや登記が出来ることがあるものの、創業に必要な人脈やノウハウなどを得られる交流会やセミナーが開かれることが大きいようだ。ネットショップを運営している利用者が他の利用者の商品を販売したり、デザイナーの利用者に名刺を作成してもらったりなど、利用者同士がコラボすることも多いという。

 なお、KO-TOの東隣には、「PO-TO(ポート)」というシェア施設が開設されたばかり。(株)JR中央ラインモールと(株)タウンキッチンが事業協定を結んで開設したもので、店舗、工房、ショールームや事務所として利用でき、現在、入居者募集中だ。

 

2.多様な働き方を可能にするシェアキッチン

 

 ●三重県四日市で生まれた「ワンデイシェフ・システム」

故・海山裕之さん(2011年4月筆者撮影)

 保健所の許可を得た業務用キッチンを複数人でシェアするという方式は、2001年に三重県四日市で実験的にはじめた「こらぼ屋」(代表:海山裕之)が最初ではないかと思う。「ワンデイシェフ・システム」と名付けられ、主婦たちが日替わりでランチを提供するシステムだ。海山さんは、ワンデイシェフ・レストランを使って、コミュニティの再生を図ることを意図していた。このシステムを導入した店は、2010年末には全国に20店舗となった。なかには、ワンディシェフを卒業し、自ら店を構える人も出てきた。また、海山さんの講演を聞いたりマスコミ等で記事を見たりして、加盟店ではないものの、同様な方式を取り入れるところも増えている(注2)。残念ながら海山さんは、数年前に癌で亡くなられたが、それぞれのワンデイシェフ・レストランは、今でも、業態を拡張するなどして活動しているようだ。
(注2)海山さんは、権利を主張せず、こうした方式が広がることを良しとしていた。

 

 ●一橋学園駅商店街の「学園坂タウンキッチン」

 ワンデイシェフ・レストランは、地方に多かったのだが、このところ、多摩地域にシェアキッチンが相次いで誕生している。

 前述の(株)タウンキッチンが最初に手掛けたのが小平市の「学園坂タウンキッチン」で、一橋学園駅北口にある商店街の空き物件をリノベーションし、2010年にオープンした。地域の主婦たちによる惣菜販売などを経て、2014年からシェアキッチンとして運営している。

 当初は、惣菜を作っている主婦たちが店の前で立ち話をするなど、コミュニティ再生につながって欲しいと考えていたのだが、実際には、作るのに手一杯、あるいは料理は作りたいが話をしたい訳ではないなど、思惑通りにはならなかった。

 一方で、趣味でパンづくりをしているが本格的に店を持ちたい、子どもの手が離れたので何か仕事をしたいなどと思っている人がたくさんいることに気付いた。しかし、実際に一人で始めるとなると、物件を探して、営業許可を取って、設備を購入しなければならず、それには資金が必要であるなど、ハードルが高くてなかなか夢にたどり着けないことも分かってきた。そこで、「食の小商い」と銘打って、シェアキッチンとして再スタートすることとし、現在に至っている。

 月会員と一日会員の仕組みがある。現在8人の方が使用しており、空きを待っている状態であるという。それぞれ自分の屋号を持つことができる。毎週火曜日と決めて使う人もいれば、1日だけの人もおり、予約表にオンラインで予約を入れる(先着順)仕組みだ。運営者である(株)タウンキッチンは、利用者同士の交流会を実施したり、商いをするうえでのさまざまな相談に乗ったりしている。また、利用者同士が、商品の味や包装のデザイン、POP、値段などについてアドバイスし合うことも多く、同志的な感じになっている。

 これまでに3名ほどが自らの店舗を持つに至ったが(注3)、必ずしも店を持つことがゴールではなく、子育てをしながら合間に小商いをするというゴールもある。それぞれがそれぞれの生き方に応じた「夢」を実現する場所になっている。
(注3)前回の柳沢で紹介したベーグルのM’s Ovenは、学園坂タウンキッチンの卒業生で、詳細は、(株)タウンキッチンが発行しているWEB雑誌『リンジン』に詳しく掲載されている。
・学園坂タウンキッチンのHP:http://koakinai.wixsite.com/home/concept

 

 ●武蔵境駅南側に出来た「8K」

 (株)タウンキッチンは、2017年に武蔵野市の創業サポート施設開設支援事業として、武蔵境駅南口から徒歩10分のところに、「8K(ハチケー)」というシェアキッチンを開設した。飲食店営業と菓子製造業の許可を取得できる業務用設備をメンバーで共有し、自分の店として使うことができる。野口ストアという生鮮食品のお店が並ぶ一角にある。

 こちらは、学園坂タウンキッチンと異なり、一人で作りながら接客できるようにと、中で飲食できるスペースはなく、窓越しで販売するスタイルになっている、4月に募集を開始し、6月には定員が埋まってしまい、現在空き待ちの状況とのこと。

 

OGU Kitchenの小倉梓さん(上)と看板(下)

 

 私が訪問した水曜日には、おにぎりとお惣菜を扱う「OGU Kitchen」(代表:小倉梓)の日だった。将来的には、お店を持ちたいと話してくれた。汗だくで辿り着いた筆者に、「お暑いところ、わざわざ訪ねて下さって」と労いの言葉をかけてくれたので、思わず焼たらこと自家製鶏そぼろを買ってしまった。
・8KのHP:http://8k-sharekitchen.com/

 

 ●武蔵野市緑町に出来た「MIDOLINO_」

 「MIDOLINO_」(代表:舟木公一郎)は、「みどりの」と読むが、英語表記の最後に「下ハイフン」が付いている。「みどりのの〇〇」とそれぞれの利用者がやりたいことを付けられるようにとの気持ちが込められている。京王ストアやサミットストアが並ぶバス通りから一本通りを入ると、昔ながらの商店街になっており、そのうちの空き店舗をリノベーションした。

 

MIDOLINO_の外観

MIDOLINO_の店内。囲炉裏が置かれている

 

 2016年10月に武蔵野市の創業サポート施設開設支援事業として採択され、ほとんどDIYで解体工事から内装工事まで手掛けたとのこと。3月3日にオープンすると決めていたので、オープン間近には、間に合わないだろうと近くの保育園児や知人たちが駆けつけて、壁塗りなどを手伝ってくれたそうだ。舟木さんは、シェアキッチンというだけでなく、この場所をコミュニティの核にしたいとの想いがある。部屋の真ん中に囲炉裏が置かれており、地域の囲炉裏端を目指したいとしている。

 

MIDOLINO_の平面図

 

 MIDOLINO_の最大の特徴は、「飲食営業」「菓子製造」「惣菜製造」「ソース類製造」「粉末食品製造」の5つの製造許可を取得していることだ。図のように、それぞれブースに分かれている。これにより、たとえば、果実ソースやピューレ、ドレッシング、粉末にしたジュースや味噌汁、ふりかけなども作って販売することができる。

 図の白い部分のコミュニティスペースは、ワークショップなどに活用して欲しいとしている。舟木さんは、自分の想いやこだわり、丁寧な暮らしを大切にしたいという「こころある食の起業家」が第一歩を踏み出し、事業の成長基盤を作るまでのプロセスを応援したいと考えている。

 オープン以降、30~40人の問い合わせがあったが、実際に行動に結びついた人は、その半分くらい、さらに週1回あるいは定期的に店をやる人は当面8店舗ぐらいとみている。料理は得意の人でも、急にお客が増えたりすると対応できなかったり、固定客を確保することも難しい。やってみて、その難しさを始めて感じる人が多い。このため、今後、創業セミナーや講座を実施していく計画だ。私が訪問した日は、スパイス料理を得意とする前野聡子さんが30人分のケータリングを請け負った日で調理をしており、革細工が得意でMIDOLINO_の椅子づくりをしてくれた谷口真佑子さんがお手伝いをしていた。

 

右が前野さん、左が谷口さん

・MIDOLINO_のHP:http://midolino.tokyo/

 

 

3.ものづくりの楽しみを手軽に味わえるシェア工房

 

 料理だけでなく、さまざまなものづくりを手軽に味わえるシェア工房も増えている。3Dプリンターが身近になったこともあり、最初のページのシェアオフィスの表で、八王子の8Beatにも3Dプリンターが用意されているようだ。三鷹のファブスペースは、かなり本格的な多様な機器・工具が用意されている。ファブスペースでは、レンタルボックスの貸し出しもしており、布や革製品、アクセサリーなど可愛らしい手作り品が多い。

 

 ●都立大学駅にある大人の秘密基地「Makers’ Base」

 西東京市からは、ちょっと遠いが東急東横線都立大学駅からほど近いところにある「Makers’ Base」(代表:松田純平) は、地下1階から5階まで、木工、デジタル加工、金属加工、テキスタイル・革加工、陶芸のフロアになっており、簡単な機械からプロ仕様の機械まで揃っている。入会し、専門スタッフのトレーニングを受ける必要があるが、ここにくれば、自分だけのオリジナル・グッズがほぼ何でも作れる。まさに「大人の秘密基地」という感じでワクワクする。2013年開設で、会員数は現在6000名近くとのこと。フロアごとに専門スタッフが居て、分からなければ相談に乗ってくれる。土日には、ワークショップも開催されていて、こちらは会員でなくても参加できる。
・Makers’ Base のHP:http://makers-base.com/

 

Makers’Baseの入口付近

 

 ●ヤギサワバルの2階に「YAGISAWA LAB」誕生

 柳沢駅北口商店街のはずれに最近誕生したヤギサワバル店主の大谷剛志さんは、これまで住処にしていた2階をシェア工房にすべく、現在改装中だ。天井板を外して吹き抜けにペンキを塗り、床を張り替えたところだ。友人の井口康弘さん他と運営する予定だが、ほかにも使いたい人・グループがいれば一緒にシェアしたいと考えている。一緒にやることで共創空間になったら良いなと思っている。

 井口さんは、写真で個展を開くほどで、現像できる場所も用意する予定だ。ピンホールカメラを作って写すワークショップなども開きたいとしている。このほか、レザークラフトや陶芸もたしなんでおり、すでにロクロが置かれていた。大谷さんの奥さんはミシンで手芸をしたいという。大谷さん自身は、自分が普段使うものを買わずに作っていきたいとしている。現在、鹿嶋市との二重生活なので、月火水は一日中、木金土日の昼間ならバルも含めて使える。すでに、お洒落なロゴも作成されている。使いながら、改装も一緒に進めていくらしい。
・井口康弘さんのHP:https://yasuhiroiguchi.jimdo.com/

 

床を張り替え、ロクロが置かれている

 

 

4.なんだか楽しい時代に

 

 今回、シェアオフィス、シェアキッチン、シェア工房を取り上げてみた。いずれも、個人の「夢」を叶えやすくするための仕組みで、西東京市内や近辺にあり、既に西東京市の人も利用しているらしい。今年度、西東京市も、シェアオフィス等起業・創業を支援する施設を開設する事業者に施設整備費及び運営費の一部を補助する制度(創業サポート施設開設支援事業)を実施している。現在、公募の審査をしており、来年には具体化しそうだ。

 これらの施設を第一歩として、バリバリの起業家やプロのアーティストになっても良いし、子育てしながら身の丈に合った「ナリワイ」を手掛けてもよい。会社で築いた知識や人脈を活用し、暮らす地域で事業を始める人もいるだろう。やってみて失敗し、そこから学び始めたって良いのだ。そうしたチャレンジの場所が近くにあるなんて、なんだか嬉しい。しかも、いろいろな職種の人が出会うことで共創も生まれやすくなるにちがいない。

 日本では、労働力人口が減少するため暗い将来像が描かれがちだ。このため、女性と高齢者を働き手にしたいと考えることが多いが、企業で雇われて働くというイメージは、そぐわない気がする。むしろ、女性や高齢者(おそらく若者も)が主体的に楽しみながら能力を活かせる方向が、これからの日本の姿のような気がする。なんだか、楽しい時代になりそうだ。

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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