第13回 多摩六都科学館盛況のヒ・ミ・ツ


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 先日、「多摩六都科学館」の2016年度の年間来館者数が25万人を超え、過去最高に達したことがニュースになっていた(注1)

 

年間来館者25万人!記念セレモニー(同館提供)

 

 多摩六都科学館(以下同館)は、小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市(保谷市と田無市が2001年に合併)の5市が設置している施設で、1994年に開館した。私にとって、同館は、確かに西東京市に立地しているものの、市の境にあるため遠くに感じていた(注2)。また、「理科好き向け」や「子ども向け」のイメージがあり、自分が行くところではないような気がしていた。

 確か5年前にプラネタリウムが更新され、精度が高いとギネス登録されたとは聞いていたが、それだけで人が継続的に出向くものなのだろうか。疑問に思ってその秘密を探りに行ってきた。

(注1)多摩六都科学館の年間来館者 25 万人達成(ひばりタイムス
(注2)多摩六都科学館は、所在地は西東京市だが、5市が運営母体となっていることもあり、小平市、東久留米市との市境付近に立地している。最寄駅は小平市の花小金井駅。2016年4月に、田無駅と花小金井駅を結ぶ「はなバス」第4北ルートが出来て、以前より公共交通が便利になった。

 

1.自主企画によりコンテンツの質が向上

 

 「来館者が継続的に伸びているのは、コンテンツの質が向上したことが大きい」と同館統括マネージャーの廣澤公太郎さん。設立当初は、物珍しさもあって多かった来館者数も、次第に減少した。2000年度に常設展を入れ替えるなどのリニューアルを実施し、いったん来館者が増えたものの、再び伸び悩んでいた。

 

 ●スタッフへの権限移譲と意識の高まり

 しかし、2012年に指定管理者制度が導入され、(株)乃村工藝社が受託してから、やり方が大きく変わったという。多摩六都科学館組合事務局次長の神田正彦さんは、「スタッフが自ら企画し、必要な展示などを制作し、子ども達に説明して体験させるまでを一貫して実施するよう、権限移譲と動機づけを徹底して行った」ことがポイントだったと語る。「教えることは学ぶこと」であり、それまでは限られた範囲で業務にあたっていたスタッフ達が、俄然力をつけてきているそうだ。そのことが同館のコンテンツの質の向上につながっている。

 

同館のデータより筆者作成

 門外漢で知らなかったのだが、地方自治体が設置している科学館では、企画を企画会社等に外注しているところが多いようだ。以前は同館も例外ではなく、企画展やプラネタリウムの番組を外注することがほとんどだったという。

 現在、同館のプラネタリウムでは、約2か月おきに、スタッフが番組の企画・制作をしている。投影では事前に録音したものではなく、45分間ライブで解説を行い、6人のスタッフそれぞれで語り口や音楽などの演出も異なるため、1年に二度三度と足を運ぶ方もいると聞く。

 企画展についても、スタッフが春夏秋と毎年3回自主企画している。企画展で実施し、人気があったり、良くできたりした展示は、その後、常設化されることもあるそうだ。むしろ、企画の段階から常設展示にも耐えうるものを作るように意識づけされているという。多くの科学館では、10年に一回程度大規模な展示リニューアルを行うが、ここでは、少しずつだが、しばしば展示内容が変化するので、飽きが来ない。

 また、今年の4月に従来の友の会制度が再編され、年間フリーパスの販売が新たに始まった(注3)。年間フリーパスでは、運営母体の5市の市民に対する割引も行っている。同館の来館者のうち約55%を占めるリピーターの来場頻度が高まってくるのも頷ける。

 この夏には、パズルの特別企画展が行われていた。さまざまな年齢の来館者が遊べるよう、簡単なものから容易に解けないものまで、多様なパズルがあってとても面白そうだった。

 

2017年夏の特別企画展「パズル島にようこそ」の様子(同館提供)

 

(注3)https://www.tamarokuto.or.jp/freepass/

 

 ●Do! Science!

 同館では「Do!サイエンス」を合言葉に掲げ、体験と対話を重視している。以前にも理科室のような場所で観察・実験・工作を体験できる催しはあったものの、一か所だけで、週末に少人数で実施する程度であった。現在では、これに加え、スタッフやボランティアと子ども達が対話しながら体験できるスペース(同館では「ラボ」と呼称)が、からだの部屋、しくみの部屋、自然の部屋、地球の部屋の各展示室内に設けられており、どのラボも大変な人気だ。

 これまで日本では、博物館等には、貴重な資料の収集、保管、展示、研究などをすることが重視されてきたが、2012年に、一般社団法人日本サイエンスコミュニケーション協会が設立されるなど、最近では、科学を人々により分かりやすく伝えることが重視されつつある。

 同館のスタッフも、こうした協会が実施するコミュニケーター養成講座などに積極的に参加しているようだ。神田さんによれば、スタッフの中には、絵本作家もいれば、昆虫の足音を聞かせるプログラムで海外の賞を取る人がいるなど、それぞれユニークな得意技を持つ人達が育っているという。

 

 ●大学や研究機関、企業などとのコラボ

 同館は、地元の東大生態調和農学機構(旧東大農場)とさまざまな連携を進めている。

 現在、大人を対象に実施されている「農と食の体験塾 大豆編」では、旧東大農場において、生態調和農学や都市農業における栽培技術等について学び、実際の作業も体験できる。20数名が参加しており、農作業のほか、東大の先生による座学、大豆の種類を記した図鑑を作成するワークショップなども行う。

 

農作業の様子(同館提供)

 

 また、シチズン時計㈱やグローブライド㈱(ダイワ精工から社名変更)などの地元企業とも連携をしている。たとえば、シチズン時計の協力のもと、6月10日の時の記念日に合わせて、大人向けに「時計の分解教室」、小中学生向けには「オリジナル腕時計をつくろう!」を実施してきた。

 

2016年6月に実施した「オリジナル腕時計をつくろう!」の様子(同館提供)

 

 さらに、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、宇宙研究開発機構(JAXA)、情報通信研究機構(NICT)など最先端の研究機関とも連携が始まっている。これらの研究機関としても、一般の人達に研究成果を分かりやすく理解してもらうことが求められており、一方、科学館としても、最先端の科学技術をメニューに取り込めるWin-Winの関係となっている。これには、高柳雄一館長のネットワークが活かされているらしい。

 

 ●きめ細やかな対応をしてくれる受付係(アテンダント)

 訪問した日は、夏休みの日曜日ということもあり、子どもとその親たちで満員の盛況だった。聞くところによると、以前は、自動発券機を使っていたそうだが、現在は、アテンダントと呼ばれる受付スタッフが入館券や観覧券を販売している。券を販売するだけでなく、来場の目的を聞いてきめ細やかな対応を行っていた。

 実際、パンフレットを見ても、あれも、これも面白そうだが、自分の興味に合わせた時間割を作るのは結構難しい。自動発券機の方が一見効率的に見えるが、対面販売の方が来場者の満足度が高まるようだ。

 大勢が来場するなか、それぞれの来館者の希望を聞き、適切なアドバイスをするには、アテンダントが館内で実施されている展示やワークショップ、映像の内容やスケジュールなどを良く理解していなければならない。スタッフ同士日頃から自然に情報共有がなされているとのことだ。

 

アテンダントがアドバイスしている様子(同館提供)

 

 ●ボランティアとも対等な関係を構築

 同館で重要な役割を果たしているのがボランティアだ。約15年前からボランティアを受け入れてきたが、当初は、単に一人ひとりが登録するだけであった。しかし、2012年の指定管理者制度の導入と同時に、この関係を見直し、「ボランティア会」として組織化され、館を運営するパートナーとして自立度が高まった。職員と連携しながら、来館者とのコミュニケーション、教室やイベントの企画・運営などの幅広い活動を行っている。

 ウェブサイトによると、大人(18歳~)のボランティアが108人、このほかに、ジュニア(小5から高校生)が36人いる。大人のボランティアのなかには、科学に詳しい人もいるが、必ずしも科学に興味がある人とは限らず、子ども達と触れ合うのが楽しいとか、ここで活動するなかで興味が湧いてきたという方々も多いという。いずれにしても、来館者の笑顔を見たり、「有難う!」と言われたりするのが嬉しく、それが張り合いになっているようだ。

 私が訪問した折には、骨格、内臓、筋肉、血流、神経がプロジェクションマッピングで自分の体に映し出されるコーナー(からだの部屋の展示の1つ)で、女性ボランティアが楽しそうに活動していた。知恵の輪などが置いてあるコーナーは、子ども達に大人気で、複数のボランティアがやや自慢げに相手をしていた。

 自然の部屋のラボでは、魚をテーマにしたプログラムが展開されていたが、私がエラ模型のピースをどこに置いたらよいか悩んでいると、ジュニアボランティアが「ほら、写真を良く見て。ここにもエラがあるでしょ」と教えてくれた。

 

からだの部屋の「知恵の輪・パズルコーナー」で子ども達の相手をしているボランティア達(同館提供)

2. 「地域づくり」を意識

 

 多摩六都科学館は、もともとは、「子ども科学館」というコンセプトでスタートしたが、2004年に策定された第一次基本計画では、5つの基本理念の中に、「文化としての科学を追求する」と「地域コミュニティーの生涯学習拠点とする」という項目が加わった。

 「文化としての科学を追求する」という理念には、「地域を豊かにする生活文化の営みの中に『科学』を位置づける」との付記がある。ややもすると、科学というと、白衣を着てビーカーを持っているような科学者がやることというイメージがあるが、そうではなく、普通の人々の生活文化を豊かにするものであると明文化した。「日常の生活のなかで感じる不思議に思う気持ち」が科学の第一歩であり、多摩六都科学館は、そういう気持ちに応える場所でありたいと考えている。

 科学館は、公民館・図書館と同じように身近な生涯学習拠点であり、日常感じる疑問を解決する手伝いができる場所である。そして、学んだことを地域に還元する仕組みとして、前述のボランティア会の活動が行われている。廣澤統括マネージャーは、リンカーンの有名な言葉「of the people」を良く使う。「市民の」科学館でありたいという想いからだ。市民と共に科学館をつくりあげ、延いては地域づくりに貢献したいと熱く想っている。

 

 ●圏域を意識したイベントや展示

 設立の経緯もあり、もともと運営母体の5市(同館では圏域と呼称)と関わりの多い展示内容にしてきたが、それをより徹底するようになった。
 たとえば、「自然の部屋」では、武蔵野の生き物や自然環境を分かりやすく紹介しており、多摩川の魚など、身近な生き物の展示もある。

「地球の部屋」では、この地域を含む東京近辺の地形模型が展示されている。
青梅街道が作られたのは、江戸の街を作るにあたって、青梅で採れる石灰を運ぶためであったことは、地元の住民なら知っていることだが、青梅で石灰が取れるのは、海の底に堆積してできた石灰質の岩石が、プレートの動きによって地表に表れているからだという説明を聞くと「ブラタモリ」ではないが興味が湧いてくる。多摩川や荒川などで採取した石の展示からも、そうしたことがうかがえる。

 

多摩六都地域を含む東京近辺の地形模型(同館提供)

 

 科学館が協力している2017年度の「多摩北部広域子ども体験塾」(注4)では、水がどこから来てどこに流れていくのか、圏域を流れる川(柳瀬川、落合川、黒目川、石神井川、空堀川等)とこれらの川がつながる荒川、東京湾の自然環境をフィールドワークにより調査・体験し、水の大循環を学ぶものとなっている。この夏に、荒川河口にあたる葛西海浜公園の干潟で生き物の観察などを行ったところだ。秋には、中流域を観察し、その結果をワークショップでまとめ、展示として発表する。

(注4)東京都市長会の多摩・島しょ広域連携活動事業。同館は、圏域の市と連携してこの事業を行っている。

 

荒川河口の干潟で生き物を観察(同館提供)

 

 ●地域の交流拠点を目指す

 多摩六都科学館は、現在パブリックコメント実施中の「第二次基本計画ローリングプラン2016」(注5)では、さらに一歩進めて、「中間支援機能の強化」を目指すと掲げている。

 第1には、これまでも地域資源の発掘に力を入れてきたが、映画、アニメ、アート、スポーツなどさまざまなジャンルの資源(有形、無形を問わない)を発掘し、それらを繋げて新たな価値を創りだして、社会に還元していくことが期待される。

 たとえば、超高齢化社会を迎えるなかで、清瀬市にある明治薬科大学と連携して、「楽しい!嬉しい!健やかカラダづくり」というプロジェクトを始めたのもその一つと言えよう。「からだの部屋」にセルフメディケーション(注6)の展示コーナーを作ったほか、スタッフがモニターとなって、将来の生活習慣病やロコモティブシンドロームの予防を目指して、自分に合った運動や食事に励んでいる。今後、市民向けの新しいイベントを生みだす可能性がある。

 また、今年の5月~7月にかけて、東久留米市出身の女性アーティスト大小島真木さんが描いた全88星座の絵を使った全編生解説プラネタリウム「全天88星座~光が語る天球の地図~」が展開された。

 

 

大小島真木さんの星座絵の一つ「やぎ座」(同館提供)

 

 第2には、地域の課題解決に向けたコミュニティの再生や共生社会づくりを目指して、市民と市民、市民と行政、行政と企業など、多様な主体の間に立ち、協働・連携のつなぎ役となることが期待される。

 同館はこれまで、清瀬市、東久留米市、西東京市などで活動する環境保全系の市民グループと連携してきた。今後は、圏域で活動をしている市民とより広く連携し、必要に応じて行政や企業に橋渡しする場面も出てくるかもしれない。市民グループの多くは、一つの行政区域で活動していることが多いが、科学館がつなぎ役となれば、活動を圏域に広げやすくなり、延いては、圏域のソーシャルキャピタル(社会関係資本)(注7)が高まることにつながる。

 西東京市内で飲食店を経営しながらも、田無神社の境内や古民家の蔵と庭で「やおよろずのさんぽ市」(市内外のアーティストやこだわりの飲食店などによる市)を開催してきた「田無なおきち」を今年度から「六都なおきち」として同館のカフェとして誘致したのも、こうした一環なのだろう。地元野菜やこだわりの食材を使った食事、アットホームな雰囲気の六都なおきちがあることで、同館が「地域の交流拠点」を目指していることを暗に示している。

 

六都なおきち(同館提供)

 

(注5)第2次基本計画2014年~2023年は、3年ごとに見直しすることになっている。
(注6)病気にならないように常日頃から健康維持を目指し、もし病気にかかってしまったら軽度なうちに自分でてあてできるようにしていくこと。
(注7)社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念。

 

 

* * *

 

 以上が私の探った多摩六都科学館盛況の秘密だが、さまざまな努力とスタッフの本気が伝わっただろうか。権限移譲による職員やボランティアの発奮と、科学館として圏域の人たちとより良い関係性を作ろうとの姿勢が、現在の盛況につながっているようだ。地域のハブとして、今後どのような発展を遂げるのか、これからもウォッチしていきたい。

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

 

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