第18回 「自分たちのまちは、自分たちで守る」西東京市消防団


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 私が会長をしている田無スマイル大学は、「自分たちのまちを良くするのは自分たちと考え、実行する人を増やしたい」という目標を掲げている。ところが、ずっと以前から、身体を張って、自分たちのまちを守ってくれている人たちがいた。それが消防団だ。

 東京に住んでいると、あまり気が付かないかもしれない。火事が起きた時に駆けつけてくれるのは、消防署の職員だと思っている人が多いのではないだろうか。確かに、消防署の職員が主になって駆けつけてくれるのだが、消防団員も駆けつけている。

 

1月14日に実施された出初式で整列しているところ。手前は、第一分団の皆さん

 

 消防団とは

 

 消防団員とは、普段は本業の仕事を持ちながら、火災発生時における消火活動、地震や風水害といった大規模災害発生時における救助・救出活動、警戒巡視、避難誘導などを消防署と連携して行う非常勤の地方公務員のこと。つまり、普段は、酒屋、クリーニング店、パソコンの修理、農業などに従事しているまちの人たちが、ひとたび何か発生すると、駆けつけてくれるのだ。

 平常時においても、各種訓練のほか、応急手当の普及指導、広報活動、地域のお祭りなどの警戒にもあたっている。報酬や補償は、出されているものの、ほぼボランティアといえる。西東京市では、10年、15年、20年、25年、30年の節目に永年勤続表彰が行われ、そのほか、優良団員にも表彰がなされている。

 東京都の場合には、消防署の職員と消防団員の比率がほぼ同じくらいなのに対し、地方では、8割から9割が消防団員だ(注1)。東日本大震災の折に、「もっとも親身になって助けてくれたのが消防団の人であった」と、被災者の方から聞いていた。しかし、それが自らも被災されたまちの人たちのことだったのだと、下の表を見て、改めて思った。

 

団員比率 消防団員/(消防職員+消防団員)×100=消防団員比率。大阪府、沖縄県も職員の比率が高い

 

 確かに、火災や風水害が日々起こるわけではない。したがって、常勤の職員をどんどん増やせば良いというものでもなく、非常勤の職員に頼るというのは、理にかなっている。しかし、いざという時に役立つためには、体力維持や日々の訓練は、欠かせない。昔のように、身体を使う仕事が多い時代ならともかく、第三次産業が増えている今日においては、消防団員になるには、覚悟が必要だ。

 全国的にみて、消防団員の数は、年々減っている(注1)。また、かつては、農業者や自営業者が多かったが、被雇用者化が進んでいる、平均年齢が高止まりしているというような問題も抱えている。

 

 

(注1) 資料は、総務省消防庁『消防白書』平成29年度 付属資料より作成。団員比率=団員/(団員+職員)×100

 

 しかしながら、東日本大震災の経験から、地域防災の重要性が見直され、その要である消防団を充実させようという方向が打ち出された。平成25年には、「消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律」が成立し、①公務員の消防団員兼務を特例として認める、②事業者に、従業員の消防団への加入や活動を円滑に行えるよう配慮するよう求め、そうした事業者には優遇措置を講じる、③大学にも同様の協力を求める、④団員の処遇を改善するなどが盛り込まれている(注2)
(注2) http://www.nissho.or.jp/contents/static/img/panf_chiikibousairyoku.pdf

 

 さらに、平成30年1月には、総務省消防庁から「消防団員の確保方策等に関する検討会」報告書(注3)も出されている。これも、日々の火災等だけでなく、大規模災害時における地域防災力強化を念頭において、消防団を充実させるための方策を示している。
(注3)http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h29/danin_kakuho/04/houkokusyo.pdf

 

 なかなか頼もしい西東京市消防団

 

 西東京市消防団(佐藤満雄団長)は、現在、213名。団本部には、正副団長4名と女性団員2名、市内各地域に12分団あり、分団員は207名となっている。「西東京市消防団条例」では、消防団の定員は、244人以内とするとされている(各分団の定員20名に本部4名をイメージ)。

 

分団地図は、西東京市例規集第11類「防災」の「西東京市消防団規則」より筆者作成

 

 表1は、平成29年4月1日現在の分団ごとの団員数だが、定員の20名に達していない分団もある。消防団は、3年ごとに更新されるので、3年ごとの推移をみると(表2)、増減はあるものの、210人から220人代で推移している。ポンプ車は、5人居ないと動かせないので、兼業の人が多いことを考えると、各分団に20人くらい居てくれた方が良いとのことだが、団員を増やすのは、なかなか難しいようだ。

 相対的に、商店などの自営業者の多い地域では、成り手を探しやすいが、都心に勤めるサラリーマンなどが多い地域では探しにくい。先にみた法律ができたとは言え、誰でも良いという訳にもいかず、地区ごとの事情に詳しい分団長に勧誘等は、任せているのが現状だ。

 

表1 分団ごとの消防団員数

表2 西東京市の消防団員数推移

(出所)西東京市危機管理室

 

 知人で消防団員になられている方々に動機をうかがうと、「このまちで店を営んでいる以上、自分たちのまちは、自分たちで守りたい」という意識で入られており、「少しでも、皆さまのお役に立てたら」との想いがあるようだ。商工会や青年会議所などの活動を通して顔見知りがいると、お仲間に誘われて入る機会が多いと思われる。消防団の活動を通して、さらに地域に顔見知りが出来、結束が強まるという面もあるようだ。もちろん、本業の都合で駆けつけられないこともある。

 前述の「消防団員の確保方策等に関する検討会」報告書には、女性や大学生の団員を増やす必要性が書かれており、全国的に女性団員が増えている。西東京市でも、平成26年度から、女性団員が入団した。広報活動、応急手当指導など今までと違ったきめ細やかな視点を生かした活動をしている。しかしながら、各分団の施設には、女性用更衣室やトイレなどの設備が整っておらず、現在は、本部所属となっている。また、大学生については、入団してくれても、就職が遠方に決まり、すぐ退会されてしまうなど、なかなか定着に結びつきにくいとのことだ。

 出初式では、消火のためのホースを次々とつなげて放水する様子が見事に披露されたが、迅速に、遠くに届くようにするだけでも、日頃から訓練し、運動を心掛けていないと、足がもつれてしまうだろうと思った。若い世代が増えてくれると良いと思う。

 

出初式で司会を務めた女性団員の白石明日香さん(右)と利光有紀さん(左)。白石さんのご主人も消防団員

ホースを次々とつなげて放水する場所まで出来るだけ早く到着する実演(消防ポンプ車操法実演)。会場の端から端まで猛ダッシュする

5色の水を放水(一斉放水演技)

 

  西東京市消防団は、定員に満たないエリアがあるとは言え、団員数213人で消防署員数207人より多いし、各分団にポンプ車が配備されており、なかなか頼もしい。

 

西東京消防署 署員数 拠点 配備車両数
207人

消防署
出張所3

ポンプ車 救急車 はしご車 人員輸送車 査察広報車
8台 4台 1台 1台 4台
西東京市消防団 団員数 拠点 配備車両数
213人 詰所12 ポンプ車     本部指揮車 本部広報車
分団12 12台     1台 1台
資料)西東京消防署については、配備車両は、東京消防庁のHPの西東京消防署より。署員数は、電話で問い合わせ。西東京市消防団については、平成30年出初式の資料より作成

 

 帰りしな、恰好よい法被を着ている人を見かけた。聞いてみると、「桜花会」という正副団長及び正副分団長経験者OBの方々の集まりとか。特に大規模災害などの折、経験を活かして消防団に助言を与えるなどの支援をするとのこと。この背中も、実に頼もしい。

 

歴代の正副団長及び正副分団長経験者からなる「桜花会」の法被

 

 将来が楽しみな西東京消防少年団

 

 出初式では、西東京消防少年団(注5)による人命救助や三角巾による包帯法の実演が行われた。西東京消防少年団は、小学3年生から高校3年生までを対象としており、現在45名(小学生25名、中学生12名、高校生8名)からなっている。

 団長、副団長、指導者、一般準指導者の指導のもと、月に1~2回活動がなされている。消防体験や防火防災訓練をはじめ、社会福祉施設訪問、火災予防広報、市民まつりパレード、夏のキャンプなどの活動を行っている。

 HPによれば、「消防少年団は少年少女が防火防災に関する知識・技術を身につけるとともに、団体生活をとおして思いやりと責任感あふれる人間として成長し、社会奉仕していくことを目的としています」とある。

 彼ら彼女らが参加した動機は、知人に誘われたり、兄姉などが入っているのを追って入ったり、消防活動を見て日頃から関心を持っていたりなどいろいろであるようだ。彼ら彼女らのなかから、消防職員や団員になる人も出てきていると聞く。私の知人も、消防少年団から現在は、指導者になっており、さらに、地域防災の要として活躍されている。

 先の「報告書」でも、消防少年団の活動を活発化させることにより、子どもたちに地域防災についての理解を深めてもらえることや彼ら彼女らが大人になって消防職員や団員になってくれることが期待されている。

 私自身は、消防少年団の存在も知らなかったのだが、子どもの頃から、防火防災に関する知識・技術を身に着けた人材が育てられているのは、素晴らしい。西東京の地域防災にとって、将来が楽しみだ。西東京消防少年団は、この3月に発団30周年を迎えるとのこと。4月からの新学年生の募集もしている。地域防災人材として、是非入団者が増えて欲しいものだ。

 

出初式で、日頃の訓練の成果(人命救助や三角巾による包帯法)を披露する西東京消防少年団

(注4) 総務省消防庁では、将来の地域防災の担い手育成を図るため、少年少女を対象とした少年消防クラブの組織化を促しており、東京消防庁では、「消防少年団」という名称になっている。東京消防庁のHPにある西東京市消防少年団の紹介のページは、次の通り。http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-nisitokyo/public/bfc.html

 

 地域防災をより強固なものに

 

 私がこの記事を書きたいと思ったきっかけは、先日我が家(南町5丁目)のすぐ近くで火事があった折、知人である谷戸の酒店Yさんから電話を頂戴したことだ。幸いボヤで消し止められたが、その日は、風の強い日で、大きな火事になる可能性もあった。消防車がサイレンを鳴らして参集していたものの、サッシの家では、音が小さくしか聞こえない。戸を開けてみたものの、赤い火が見えなかったので、自分事とは思わずのんきにテレビを見ていた。電話を頂戴し、初めて我が家のすぐ裏の家であることが分かり、青くなった。

 Yさんは、谷戸地域の消防団員。火事の知らせがあると、団員の家に一斉に知らせが来るため、住所を見て心配し電話してくれたのだという。なんとも有難いことであった。そんなことがあり、そうだ消防団というのは、ずっと前から自分たちのまちを守ってきたのだと思い至り、少し詳しく知りたくなったのだ。

 私が住む「下宿自治会」では、毎月5の日に防災ボランティアの方が、夜回りをしてくれており、拍子木の音が聞こえると、暖かい思いがする。年末3日間は、役員有志が2人ずつ組になって回る。私も大晦日に夜回りをした。月が煌々と照っていて、当初は寒かったが、結構回るエリアが広いので汗ばむほどであった。

 大晦日なので夜でも人通りがあり、「ごくろうさまです」と声掛けしてくれると嬉しい。自治会長経験者から、お酒の差し入れもあった。戻ってから、除夜の鐘(といってもテレビの音だが)を聞きながら、お節料理をつまんで頂戴したが、昔なら、「必殺仕事人」の中村主水のように、番屋で目刺しでも焼きながら、夜回りした人同士で一杯やったことだろう。

 田無スマイル大学では、市内のいろいろなところで大規模災害を想定した「避難所運営ゲーム」を実施しており、小中学校区にある避難所運営協議会のことは知っていた。さらに、自発的に、各校区の避難所運営協議会同士のネットワークも築かれはじめている。また、大規模災害が起きた時、全国から来るボランティアの受け入れ係として「西東京レスキューバード」というボランティア団体が立ち上がっており、日頃は、防災まち歩きや防災に関するさまざまな啓蒙活動を行っている。

 先の「報告書」でも、消防団を核にして、地域のさまざまな自主防災組織や防災ボランティアなどとの連携による地域防災体制の強化ついて書かれている。今回、消防団や消防少年団のことを知るにつれ、それぞれの地区の避難所運営協議会、自治会、消防団や消防少年団、ボランティア団体などが、もっと意識的に連携すれば、地域防災は、より強固なものになるのではないか、と改めて思った。
(写真はすべて筆者提供)

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師(2017年まで)。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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