第29回 ポイントは「お金」か


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

今日も「ポイント」で得をした

 

 この頃、ネットで購入することが増えている。
 当初は、ネットスーパーで5000円以上購入すると送料無料というのに惹かれ、水やお酒、洗剤や漂白剤、だいこんやキャベツなどの重たいものをまとめて購入するのに利用していた。足が悪いこともあり、自転車に乗る暮らしではないため助かっていた。

 ところが最近では、ネットでないとなかなか手に入りにくいものを購入するようになった。たとえば、私は絹のパジャマやシャツが好きなのだが、最近では、スーパーや百貨店の品揃えから見つけにくくなった。友達に薦められ、私もネットで購入するようになった。お尻に合わせると足丈が長すぎるなどサイズに問題があるものの、自宅で使うものだし、適当に裾上げして重宝している。

 隣の家に「どんぐり」という居場所を作るにあたっては、ほとんどネットで購入した。机6脚、椅子30脚、マージャン台1卓、テーブルクロス、壁に飾るパネル、ホワイトボード、プロジェクター・・・。これらの商品は、西東京市では、簡単に揃えられない。あちこち歩きまわっても手に入るかどうかといった状況だ。ところが、ネットでなら、自宅に居ながら、日本全国の専門店などから手に入れることが可能だ。

 

ネットで購入した北欧の布パネル

 

 おまけに、「ポイント」がもらえる。「どんぐり」にお洒落な北欧のアートパネルを購入した折には、税込みで1万1164円のところ、ポイント4118円とクーポン300円利用で、7226円で手に入れることができた。2段の脚立は、税込み8316円のところ全てポイントを使って無料で得られた。「どんぐり」に消火器が必要と言われ、東京ガスのポイントを使って無料で手に入れた。コジマ・ビックカメラでは、パソコンを買い替えたポイントが残っており、電池やメモリースティックなどは、この頃無料で入手している。

 

紙のポイントカードからデジタルカードへ、提携店も拡大

 

 これまでも、それぞれのお店では、紙のポイントカードが発行されていた。たとえば、とんかつ屋さんで購入する度にスタンプを押してくれ、カードのマスをすべて埋めると、その店の商品を1個余計につけてくれたり、割引してくれたりする。人によっては、財布がポイントカードでパンパンになっていた。

 しかし、このごろでは、紙のカードではなく、ポイントが貯められるデジタル式のカードになった。田無駅前のショッピングビルであるアスタが発行するアスタカードでは、ポイントが数倍になる日がある。ポイントが500溜まると、500円券と取り換えられ、アスタに入っているお店で使うことができる。さらに、ビデオレンタルのTSUTAYAが発行しているTカードは、TSUTAYAだけでなく、提携している他のお店でも使える。西東京市では、田無駅前のウェルシア(ドラッグストア)、ファミリーマート(コンビニ)でも使える。各ポイントカード発行会社では、ポイントが得られるさまざまなイベント(アンケートに答えるとポイントがもらえるなど)もやっている。

 

 

 ポイント提供の仕方は、店によっていろいろだ。アスタカードでは、100円の購入・飲食で100ポイントもらえるが、Tポイントでは、魚河岸日本一やファミマの場合200円で1ポイント、田無駅前のウェルシアでは100円で1ポイントといろいろだ。楽天カードも、お店によってポイントの付け方は違う。

 

「ポイント」は、「お金」か

 

 昔の紙のポイントカードの場合は、その店を愛用してくれ、しばしば立ち寄ってもらうためのものだった。しかし、紙のカードからデジタルのポイントに変化し、さらに、提携ネットワークの広がりによって、薬を購入して得られたポイントでコンビニの総菜を購入することが出来るようになった。このようにポイントが限られたお店ではなく、さまざまな用途に使えるようになると、ポイントは、あたかも「お金」のように思えてしまう。

 ところが経済学に詳しい知人に聞くと、「ポイント」は、お金ではないという。一般社団法人全国銀行協会のHPによると、お金には3つの機能がある。

 (1) 価値の保存機能(貯蓄)
 (2) 交換機能(決済機能)
 (3) 価値の尺度機能

 ポイントは、期限が切られていることが多く、(1)の価値の保存機能がない。私があるお店で使ってしまえば、それで終わりであって、そのお店が私のポイントを使って、何かと交換することはできない。お金なら、そのお店は、私が支払ったお金を使って別の商品を仕入れたり、生活費に使ったりして、次々と交換することができる。だから、ポイントは、お金の持つ上記(2)の交換機能も一方通行であって、いわゆる「お金」ではないというわけだ。

 では、「ポイントは、何なのか」と聞くと、「単なる値引きに過ぎない」という。私が「机と椅子」を購入して得たポイントで「脚立」を無料で得たのは、「机+椅子+脚立」の値段が脚立分に当たる金額だけ値引きされたことになる。

 

「アベノミクス」って何かヘン?

 

 昔かじった理論によれば、金融緩和策(通貨供給量の拡大)をすれば、お金の価値が下がるので、企業や家計は貯蓄せず、消費したり、投資したりする。そこで、景気が良くなり、物価も上昇していく(インフレになる)というはずだ。

アベノミクス「3本の矢」(出所)首相官邸

 

 このため、「アベノミクス」では、「デフレから脱却する」ために、大幅な金融緩和策をとってきた。政府は、アベノミクスが成功している証として、「雇用も増えたし、物価も1%ほど上昇している」と公表している。しかし、政府の統計には、ポイントは考慮されていない。私が購入した机も椅子も、価格そのものは下げていないので、物価統計(注)にポイントは、反映されていないのだ! あらまぁ。嘘つきではないが、政府の統計が経済の実態を反映していないなんて、いいのかしらと思ってしまう。

(注)経済の専門家によると、期間を区切ったバーゲンセールなどは反映しづらいため、「物価統計」そのものが、物価を正確に捕捉できないものであるとのことなので、目くじら立てるほどのことではないのかもしれないけれど。

 今回、消費税増税にあたって、キャッシュレスで支払うと、ポイント還元されることになったが、それ以前から、人々は、「貯金の金利は、上がらないし」…とせっせとポイントを貯めて(値引きしてもらって)家計のやりくりをしてきたというわけだ。普通預金の金利が0.01%の時代、たとえば、100円で1ポイントもらえる(還元率1%)ポイントは、家計にとって実に有難い!

 野村総合研究所がクレジットカード会社や家電量販店、携帯電話会社など国内11業界の主要企業が2018年度に発行したポイント総額が、初めて1兆円を超えたとの推計を発表した。期限を区切った高還元ポイントは含まれていないなど補足されていない部分もあり、実際には、2兆円くらいかともいわれる。

 

 

 日本の名目GDPが560兆円、日本における通貨流通量が110兆円といわれるなかで、2兆円は、たいした金額ではないのかもしれない。また、ポイントは、法定通貨の円と紐づけされているので、通貨にとって大きなインパクトを与えるものではないのだろう。

 しかし、A社が発行するポイントを他社のポイントに変えるサービスも提供されているし、ポイントを株式や投資信託で運用できるサービスもある。ポイントは、「お金」的なものになりつつある。

 

デジタル化で変わる「お金」

 

 今回、ポイントについて考えるなかで、デジタル化、キャッシュレス化で「お金」が大きく変貌しつつあることを強く感じた。

 「物々交換」の時代から「お金」が生まれたのは、凄いイノベーションだったし、金などとの交換を前提としていた兌換紙幣から、交換せず国による管理という「信用」で成り立つ「不換紙幣」になったことも、イノベーションだった。どうやら、デジタル化により、また、「お金」の革命が起き始めているように思う。これについては、次回整理してみたい。
(画像はすべて筆者提供)

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師(2017年まで)。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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