第37回 循環型経済に向かって

 

(3)廃棄食材を使ったレストラン「Instock

 

 レストラン「インストック(Instock)」は、まだ食べられるのにも関わらず廃棄されてしまう食品を、オランダの大手スーパーチェーン「アルバートハイン(Albert Heijin)」や生産者から購入し、一流シェフがそれらを調理して提供しているレストランだ。

 インストックの共同創業者である4人は、もともとアルバートハインの従業員だった。スーパーで毎日のように大量に廃棄される食品の多さに愕然とし、これらをどうにかできないかと考えた。彼らは、2014年1月に社内のビジネスコンテストで「廃棄食材を使ったレストラン」を提案し、見事優勝した。

 彼らのアイデアは、アルバートハインからの支援を受け、2014年6月に一時的な店舗(ポップアップストア)としてスタートした。それが大きな反響を呼び、1年後には常設レストランを構え、さらに2019年に完全に独立した。2020年現在、オランダの3か所に店を構え、100人以上の従業員を雇うまでに成長した。

 現在、インストックで使われているメニューの80%が廃棄食材で作られており、オリーブオイルやバター、乳製品などのいくつかの製品のみを新たに購入している。廃棄食材なので、安く仕入れられ、それを一流のシェフたちが工夫を凝らすことで、美味しい料理を手頃な価格帯で提供することが可能であり、人気がある。

 

レストラン「インストック」

図6 店内には、インストックがこれまで救出した食品の量が掲げられている

 

 当初、食材は、インストックの食品レスキュードライバーによって毎朝スーパーから回収されており、お店にどんな食材が届くかを事前に把握することはできなかった。インストックのシェフたちは、日々運ばれてきた食材で何ができるかをイメージし、新しいメニューを生み出していかなければならない。廃棄食材を美味しい料理に変えるためには「創造性」が欠かせないという。

 事業が大きくなるにつれて次第に集まる食材が増え、2017年には独自の物流システムを整え、大型倉庫「食品救急センター」を構えた。さらに、シェフたちはこれまでの廃棄食材のデータを集め、どの食材がいつ運ばれてくる可能性があるかを推測し、食材によって調理可能なメニューのデータベースを作成した。

 それでも、店に運ばれてくる廃棄食材を100%予測することはできない。シェフたちは、相変わらず創造性を発揮してメニューを生み出しているし、ピクルスなどの発酵保存食品を開発し、折角救出した廃棄食材を捨てない工夫も重ねている。

 ホームページでみると、インストックは、自らの廃棄物を出さないノウハウを家庭でも応用できるような本を出版している。また、ビール、グラノーラ、救出した野菜や果物が入った箱などをネット販売し、小学生向けに、食品廃棄物教育も実施している。残念ながら、コロナ下で、しばらく休業を余儀なくされているようだ。

(出典)IDEAS FOR GOOD「【欧州CE特集#7】クリエイティビティで食品ロスを解決。廃棄食材を使ったレストラン『Instock』

 

(4)ご近所同士のシェアリングサービス「Peerby

 

 2012年創業の「ピアビー(Peerby)」は、ご近所から家庭用品を借りられるプラットフォームだ。貸主が無償、もしくは有償で金額を設定して貸したい物を掲載できる他、借り手側が探している物を貸してもらえないかご近所さんに聞くこともできる。貸し借りされる製品は、キッチン用品からDIYのための工具類、スポーツ用品、パーティ用品など多岐にわたる。

 

ピアビーのアプリ

図7 たまに必要なものを借りる―ピアビーのアプリ(DIYのページ)

 

 創業者のダーン・ウェデポールさんは、ある時火事で焼け出され、悪いことは続くもので、彼女とも別れ、さらに失業し、職場から貸与されていた車も失ってしまった。自分は、自立した人間だと思っていたのに、急に人に頼らなければ生きていけなくなった。人の家に泊めてもらったり、ことあるごとに周りの人の助けを求めたり。

 そんななかで、自分は、所有しているものによって形作られているわけではないこと、助けを求めることは、人とより良い強固な関係を築いていくことに気が付いた。ちょうどその頃、レイチェル・ボッツマン氏の『シェアからビジネスを生みだす新戦略』(注1)という本を読み、強く感銘を受けた。

(注1)Rachel Botsman/Roo Rogers ”What’s Mine Is Yours: The Rise of Collaborative Consumption”

 

 世界は有限なのにも関わらず、私たちが現在つくりあげているのは、人々をより孤立した消費者に仕立て上げ、もっともっと消費させる社会である。一方で、同じ製品が何度も使われるようになれば、すでに十分過ぎるくらいものはある。彼は、「人々が怖がらずに、互いに助けを求めることができるローカルコミュニティをつくることができたら、きっとそれは素晴らしいものになる。そう思って、『ピアビー』を立ち上げた」と言う。

 当初は、無料のサービスのみだったが、2015年から「ピアビー・ゴー(Peerby go)」という有料サービスも始めたようだ(注2)

 こちらのサイトでは、貸し手側は事前に「ピアビー・ゴー」に登録し、「ご近所のヒーロー(Neighborhood hero)」という肩書きを獲得する。そこからピアビーと話し合いながら貸し出す品を決め、カタログページにそれらをアップロードし、取引が成立したらコミッションを受け取ることができるという形である。

 借り手は、サイトにアップされている商品のカタログから借りたいものを選んで使用料を支払い、ピアビーがご近所の貸し主とマッチさせ、借りたい人の希望の時間にデリバリーするシステムである。こちらには無料版とは違って保証がつくことも特徴である。

(注2)ピアビー・ゴーについては、「今流行りのシェアリングエコノミーの最終形態!ご近所さんとの貸し借りがアプリを使ってできる『Peerby』がアツい」2018年9月28日 による。
(出典)IDEAS FOR GOOD「ご近所同士のシェアリングサービスPeerbyが目指す、地域循環コミュニティ

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