第37回 循環型経済に向かって

 

循環型経済実現で欧州の競争力を高める

 

 欧州が循環型経済への推進を今後の大きな柱としている要因の一つは、資源効率を高めることにより、地球への環境負荷をへらすこと、もう一つは、循環型経済の先進国となることにより、欧州経済の競争力を高めることであるようだ。

 天然資源は、もともと偏在しているし、産出国の紛争などにより供給が不安定になる可能性もある。大量生産・大量消費が続けば、価格が高騰する可能性もある。一方、リサイクルして資源を再利用すれば、そうしたリスクから免れることができる。これが狙いの一つだ。

 また、循環型経済を実現するためには、様々なイノベーションが必要であり、それによって、欧州経済の競争力を高めたいと考えている。

 たとえば、設計の段階から、修理やリサイクルしやすいデザインを考える必要がある。また、製品が生産され、利用され、廃棄されるまでの資源をトレースし、廃棄物の処理や再利用が適切に行われるよう監視する仕組みも求められる。壊れた部品を交換するために、一品からでも生産できる3Dプリンターも活用されるようになるだろう。また、消費者が購入しても、稼働率の低いものに関しては、購入するのではなくレンタルする、あるいは共有するなどの新しいサービスが開発されるだろう。このように、さまざまな産業の至る所でイノベーションが起こる。そこには、ICTが大いに活用されることになるだろう。

 欧州経済がいち早く循環型経済に移行すれば、これが世界の標準となり、競争力が高まると考えられている。また、循環型経済への移行を促進するために設けられるさまざまな規制は、輸入品にも適用される可能性があり、世界の産業に影響を及ぼすことになる。

 

 

欧州の大手企業も循環型経済に適応

 

 オランダの事例で紹介したような新しい企業が誕生するだけでなく、大手企業も、循環型経済に向けての舵取りを始めている。

 たとえば、フランスの自動車メーカー、ルノーは、2020年11月に、既存の工場を改修し、「Re-FACTORY」を設立、2030年に向けてCO2排出量を減らし、循環型経済に向けた取り組みを進めるとしている(注1)。この工場では、中古車の修理、ガソリン車やディーゼル車をよりCO2排出量の少ない車に転換、3Dプリンターにより修理に必要な希少部品を生産、電池の長寿命化、寿命を迎えた電池の管理、材料の再利用とリサイクルなどを行う。また、それに必要な人材育成を図るという。

(注1)Circular Economy Hub「ルノー、サーキュラーエコノミー工場『Re-FACTORY』を設立。2030年までにカーボンネガティブ実現を目標

 

 オランダのフィリップスは、ヘルスケア機器をサブスクリプション(購入するのではなく、一定期間定額利用する)サービスで提供している。また、主要部品を改修し、最新の水準にグレードアップした中古品を保証付きで提供している。これにより、低価格で高品質な製品を医療機関に提供することが可能になっている。

 

ヘルスケア製品

図9 フィリップスのヘルスケア製品の部品交換
(出典)フィリップスのHP

 

循環型経済が雇用に及ぼす影響

 

 大量生産・大量販売の直線型経済から循環型経済に変わるということは、経済全般に大きな変化をもたらす。メーカーが商品を販売する場合には、意図的に陳腐化を図り、次々に商品が売れるようにしようと考える。しかし、フィリップスのように、メーカーが販売せず(所有権が消費者に移転せず)、商品をサブスクリプション(リース)で提供するようになると(消費者からユーザーになると)、メーカーにとって、商品を長寿命化した方が得策だ。

 直線型経済から循環型経済に変わることにより、雇用には、大きな影響が生じる(注2)。燃料や鉱物などの採掘に関わる雇用、大量生産・大量販売に関わる雇用は、減少する。一方、修理や廃棄物の管理・再生、サブスクリプション、リース、レンタル、共有など新しいサービス業の雇用が増えると予測されている。

(注2)Circular Economy Hub「サーキュラーエコノミーは労働市場をどう変えるか?Circle Economyレポート

 世界中の人たちが地球1つ分の暮らしを実現するには、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄の直線型経済から循環型経済に向かわなければならないことは、確かに明らかだ。しかし、大量生産・大量販売・大量廃棄で多くの雇用が成り立っている日本が循環型経済に移行するのは、かなり大変かもしれない。また、経済のグローバル化が進むなか、大量生産品の多くは、海外工場で作られていることが多い。途上国も含めて循環型経済に移行しながら雇用を確保することができるのかどうか、心配なところだ。

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