第37回 循環型経済に向かって

 

日本は、ついこの間まで循環型経済であった

 

 思い起こせば、ついこの間まで、日本は循環型経済であった。もともと、木、紙、綿など、廃棄しても自然に戻る素材を使って暮らしていた。昔の民家は、柱などの骨格の木材は、代々使うし、傷んでいるところがあれば、上手に継ぎ木して使う。さらに、寺院などでは、次の建て替えに備えて、柱になる木を山に植え育ててきた。家庭でも、着物は、縫い直して普段着に使い、さらに古くなれば、布団皮に使い、さらに古くなれば、雑巾にといった具合だ。糞尿すら、肥料として使っていた。

 

北斎今昔

図10 葛飾北斎「富嶽三十六景 尾州不二見原」
(出典)北斎今昔

 

 この時代には、近くの大工・左官等々の職人が材料や構造などについて知識と技を持っていたし、主婦は、縫物の技を持っていた。余った食品を腐らせないよう、発酵の技術も日常的に存在した。この時代に適したサプライチェーンや物流が構築されていた。それが、ここ150年ほどの間に大きく変わり、職人や主婦たちの技もほとんど消えかかってきた。それでもまだ、「もったいない」の精神は、現在の人々の心に残っている。だから、時計の針を逆方向に戻せば良いだけのことなのかもしれない。

 

経済成長とは異なる豊かな暮らしを示す指標

 

 欧州委員会の循環型経済の報告書では、「経済成長」を遂げつつ環境負荷を減らすとあるが、私は、「経済成長」と「より豊かさを感じられる経済」とは、異なるのではないかと思う。たとえば、安くて粗悪な製品を毎年買い替えれば経済成長するが、少し高くても良い品質の製品を長く使用し、大好きな祖母が愛用していたものを受け継ぎ、修理して使うとなると、経済成長はしないかもしれないが、その方が豊かな生活と言えるかもしれない。

 

アメリカメリーランド州のGDPとGPI

図11 アメリカメリーランド州のGDPとGPIの推移
(出典)メリーランド州の天然資源局のHP

 

 1995年にアメリカのNGO「リディファイニング・プログレス」によって開発された指標にGPI: Genuine Progress Indicator(真の進歩指標)がある(注)。これは、GDPと同じ個人の消費データをベースとしながらも、そこに家事・育児・介護やボランティア活動の価値などの要素を加え、一方、失業・過重労働・犯罪・交通事故・家庭崩壊・通勤時間・環境汚染などにかかわる費用の要素を差し引くことによって、人々が経済的、社会的にどれだけ豊かさを感じられているかを示す指標であるという。この指標は、各国・各自治体などで使われている。人口減少が続く日本では、こうした新しい考え方を取り入れていくことも必要だろう。

(注)幸せ経済社会研究所

 

地域内経済循環を増やす

 

 大量生産・大量消費の経済では、都市は、大消費地であり、生産は、国内外の工場で行われる。先進国の都市の多くは、少子高齢化問題を抱えており、将来のことを考えると、地産地消、域内で経済が回るようにしないと都市の持続性が失われる。循環型経済への転換は、脱炭素化やICTの活用などにより、新しい産業を生み出し、都市の雇用を生み出す可能性がある。

 オランダの事例で紹介した、地元の生ごみを有機性資源として循環させるための「ワームホテル」、廃棄食材を使ったレストラン「インストック」、ご近所から家庭用品を借りられる「ピアビー」いずれも、地域コミュニティを前提に経済が回る仕組みだ。今後、修理して長く使うことが一般化すれば、修理の仕事も地元に生まれるだろう。

 たとえば、各コミュニティにワームホテルが設置され、熟した堆肥を分ける折に、地域の人々が収穫祭を催すのは、井戸端会議に代わるコミュニティの人々が集うきっかけになる。廃棄食材を地域で救出し、循環させる仕組みは、農家、小売り、レストラン、地域の人々を結び付け、子供たちの環境教育にもつながる。ピアビーのような仕組みができれば、それをきっかけに家庭用品のやりとりだけでなく、互助的なネットワーク構築につながるかもしれない。

 循環型経済への転換は、地球環境に良いだけでなく、地域経済や地域コミュニティの活性化にとっても、有益な気がする。

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。退職、母の介護を経て、まちづくりに関わる。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。2019年より、多世代交流・地域の居場所「どんぐり」オーナー。2020年にフェイスブック仲間と「西東京市カルタ」完成。2020年より下宿地区会館管理運営協議会代表。

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