第40回 「おひとりさま」の老後:入院・手術を受ける時

 

4.病院にとってのリスク

 

 一般に、急性期の医療機関(救急車で運ばれてくるような患者が多い)の場合、身元保証がないからといって断ることはほとんどないとのことだ。しかし、病院としては、次のようなリスクがあるため、身元保証人を求めることになるらしい。

①本人同意の不確実さ→年齢的な認知能力の低下、疾患の急性増悪による判断能力の低下等で本人同意が難しいことが起こりうるため
②退院後の療養先(介護施設や療養型医療機関等、主に長期療養となる施設)選定のため→施設から身元保証がないと断られることもあり、退院先がなくなることを防ぐ
③医療費の支払い
④死後の遺体引き取り・事務処理等について

 「本人がしっかりしているのだから、身元保証人がいなくても良いのではないか」というのが私の言い分だ。しかし、医療機関では、脳血管疾患や急性の心疾患・肺疾患等を突然発症し、本人の同意が得られず、対応困難なケースに日々追われるという事情があるらしい。また、介護施設等の長期療養施設においては、入所後に本人の状態が変化した時(判断能力の低下や既往症の悪化等)、医療・ケアに関する本人の意向や同意を確認できず、困惑することが多いのだという。

 私ごとだが、人工股関節手術を10数年前にし、耐用年数20年と言われているため、そろそろ取り替えの時期が迫っている。このため、手術の体験もあることだし、「自身の判断のみ、身元保証人なし」で、手術を受けたいと思っているのだ。だが、確かに、人工股関節手術も全身麻酔だし、前に手術した時より20歳年を取っているのだから、確実に元気で退院できるとは、限らない。入院後も元気であれば、医療費も自分で支払えるが、突然意識が不明瞭になったり、別の疾患をわずらったりした場合には、退院後も自立できるかどうか分からない。支払いも滞ってしまうだろう。

 最もやっかいなのは、死んでしまった場合であろう。身寄りのない人が病院で亡くなった場合は、病院から各地方自治体に連絡が行き、遺体を引き受ける身寄りを確認することになる。もし引き受ける人がいない場合は、「死亡場所の地方自治体」が火葬・埋葬の手続きを行う。自宅で突然死した場合は、警察から地方自治体に連絡が行き、同様の扱いになる。

 入院している場合、死亡場所は、病院のある場所ということになるので、私が住んでいる場所とは限らない。まったく縁もゆかりもない自治体で、複数の身寄りのない人たち合同の無縁塚に埋葬される。まぁ、行き倒れ的な人生の末期も悪くはないが、「母を散骨した近くの海に私も散骨して欲しい」といった希望もないわけではない。

 また、「立つ鳥跡を濁さず」、人に迷惑を掛けずに末期を迎えるには、元気なうちに、自分が死んだら、誰(身元保証人)に連絡し、どのような葬儀の手配をするのか、財産等の処分をどうするかなどを明確にしておく必要がありそうだ。また、延命治療を受けるかどうかなどについても、前もって明確にしておく必要があるだろう。
次のページに続く

【目次】
1.ヨタヨタ・ドタリ期への備え
2.おひとりさまの備え
3.入院するときに求められる身元保証人
4.病院にとってのリスク
5.身元保証等高齢者サポートサービス
6.介護保険制度と成年後見人制度の利用
7.増加が見込まれる「おひとりさま」
8.身じまいの作法の必要性

 

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