第7回 土蔵造りの蔵


絵筆探索_タイトル
大貫伸樹
ブックデザイナー

 


 

水彩画・土蔵造りの蔵©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)

水彩画・土蔵造りの蔵©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)


 

 

 蔵の町といえば、川越、栃木、喜多方、佐倉などが知られているが、西東京市にも案外たくさんの蔵がある。古道と呼ばれる横山道や府中道を散策していると、大きな木がそびえている屋敷を見つけることが出来る。その屋敷にはたいがい蔵がある。古くは江戸時代に作られた稗蔵(ひえくら)と呼ばれる木造の蔵や、明治13、14年の神田の大火以降に建造されたと思われる土蔵造りの蔵、そのほか板蔵、大谷石の蔵などいろいろ見ることができる。

 これまでに20棟ほどの蔵を見て歩いたが、その多くは私邸の塀や生け垣の中にあり、道路から蔵全体を眺めることが出来ない。いちいち断って庭に入るのも迷惑な話だろうとおもい、水彩画を描くにあたり1つだけ選択の基準を設けた。それは道路からよく見えるということだ。市内には特に土蔵造りの蔵が多いが、この基準に合った蔵は少ない。

 今回選んだ蔵は、古道・府中道を散策しているときに出合った土蔵造の蔵で、1車線だけの細い道の割には車の通行量が多い道に面しており、のんびり三脚を立ててスケッチなどやっていられる場所ではなかった。そのため、写真を撮影して描くことにした。カメラを頭上に構え、生け垣越しに覗き見するように撮影したので、生け垣に隠れていた蔵の下の方までしっかりと観察することが出来た。おかげで、白壁がくずれているところから覗いている壁土や木舞の割竹などをしっかり観察することができ、いたく感銘させられ興味をそそられた。さらに南側の壁面に写り込んだ木々の影が、強い日差しからやさしく蔵を覆うような姿に思えて、たまらなく美しく感じた。

 100年、あるいはそれ以上前に、多くの職人さんたちの手によって作り上げられた蔵が、今、その役目を終えようとしている。風雪に耐え、震災や戦災にも耐え抜いた強靭な構造と運を持ち合わせているこの蔵をなんとか起死回生の策で、不死鳥のように甦らせることはできないものだろうか、などとつぶやきながら写真を見ながら描いている。

(筆者作成 クリックで拡大)

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装幀書籍
【筆者略歴】
大貫伸樹(おおぬき・しんじゅ)
 1949年、茨城県生まれ。東京造形大学卒業。ブックデザイナー。主な装丁/『徳田秋声全集43巻』(菊池寛賞受賞)、三省堂三大辞典『俳句大辞典』『短歌大辞典』『現代詩大辞典』など。著書/『装丁探索』(ゲスナー賞受賞、造本装幀コンクール受賞)。日本出版学会会員、明治美術学会会員。1984年、子育て環境と新宿の事務所へのアクセスを考え旧保谷市に移住。

 

 

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