第2回 社会に貢献したい若者が増えている

 

ソーシャル・イノベーション-社会問題をビジネスの手法で解決

 イギリスやアメリカでは、2000年頃から、「ソーシャル・イノベーション」が注目されはじめた。環境問題や貧困などの社会問題を「慈善的に解決」するのではなく、「ビジネスの手法で解決」しようというもので、そうした事業を生み出す人を「社会起業家(Social entrepreneur)」と呼んでいる。

 こうした動きは、以前からあって、1980年にはアメリカで「誰でもが変革者(チェンジメーカー)」を掲げるビル・ドレイトン氏によってアショカ財団が設立されていた。1999年にはeBayの初代社長だったジェフ・スコール氏が5.3億ドルの私財を投じて、社会起業の振興による社会変革を目的にスコール財団を創設、この頃から動きが加速しはじめた。

 大学でも、社会起業家を育成するコースが作られはじめた。ハーバード大学ビジネススクールには、1993年にInitiative on Social Enterpriseが設置され、スタンフォード大学では、2000年にビジネススクールにCenter for Social Innovationが設立された。また、先のスコール財団は、2003年に、英国オックスフォード大学に、Skoll Centre for Social Entrepreneurshipを設立している。

 

TEACH FOR AMERICAのホームページから

TEACH FOR AMERICAのホームページから

[関連リンク]
 ・アショカ財団:https://www.ashoka.org/
 ・スコール財団:http://skoll.org/
 ・HBSの社会起業家コース: http://www.hbs.edu/socialenterprise/Pages/default.aspx
 ・スタンフォード大の社会起業家コース: http://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/centers-initiatives/csi
 ・Teach for America:https://www.teachforamerica.org/
 ・Code for America:https://www.codeforamerica.org/

 

 このような流れのなかで、次々に社会起業家やそこで働く人たちが増えてきた。ウエンディ・コップ氏が立ち上げたTeach for Americaは、その一つだ。貧困地域の子供たちを貧困から救うには、教育環境の改善がポイントであるとして、一流大学の学部卒業生を、教員免許の有無に関わらず大学卒業から2年間、国内各地の教育困難地域にある学校に常勤講師として赴任させるプログラムを実施している。2010年には、全米文系学生・就職先人気ランキングで、GoogleやAppleを抑えて1位となって話題になった。

 また、バングラディッシュの経済学者でグラミン銀行創設者であるムハマド・ユヌス氏が2006年にノーベル平和賞を受賞した。貧しい人たちにお金を貸すのはリスクが大きいと思われるなか、少額資金を無担保で貸し出し、貧しい女性たちが仕事を生み出すのを支援する仕組みを作ったことによる。

 欧米の場合には、途上国の貧困などを対象にしていることも多いが、Teach for Americaは、アメリカ国内の貧困・教育からスタートした(注1)。また、Code for Americaは、地方自治体と組んで、たとえば、雪に埋もれる消火栓の雪かきを近くの市民がやる(消火栓に好きな名前をつけることができる)ようにすることで、行政コストの削減に取り組むといった試みをしている(注1)。このように、ソーシャル・イノベーションの考え方は、日本の国や地域が抱える社会問題解決にも適用することができる。>> 次ページ

(注1) もっとも、最近では、アメリカでのやり方を他の国にも適用しており、Teach for Allと呼んでいる。これは、それぞれの国でそれぞれのやり方で進めており、日本でも2010年にTeach for Japanの準備会がスタート、2013年から教師の派遣を開始している。Code for Japanも2013年に設立されている。

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