浮世絵の魔力 by 飯岡志郎

 手元に1冊の、いや2冊の古ぼけた画集がある。平凡社刊「世界名画全集」の別巻「広重 東海道五十三次」と「広重・英泉 木曾海道六十九次」。昭和35年4月12日と36年3月15日発行とあるから、60年以上前の物だ。言うまでもなく有名な江戸時代の浮世絵風景画集で、今ではそのたぐいの出版物は星の数ほどもある。でも、そのころでは新鮮だった。1冊380円、現在の価格に直すと3000円程度か。決して安くはないが、当時の印刷技術を駆使したカラーでオリジナルの雰囲気をそれなりに伝えており、一般のサラリーマンでも手に入る意欲的な出版事業だったと想像する。