杉山尚次(編集者)

 国木田独歩の『武蔵野』は武蔵野を描いたもっとも有名な書物である、といって異論はでてこないだろう。あまりに典型なので、これまで触れてこなかったのだが、ここらで真打にご登場いただくことにする。  写真は、筆者が所有する1967年改訂版の新潮文庫『武蔵野』。晩秋の雑木林と農家。ここに描かれている風景は「これぞ武蔵野」といえるもので、このイメージは「武蔵野の面影を残した」というフレーズとともに、いまも紋切り型として生きている。