小平霊園・著名人の墓巡り(下)
墓石が映し出す時代と社会
小平霊園の歴史には時代と社会が映し出されている。
東京の人口膨張に伴い多摩霊園、八柱霊園に次いで郊外に位置する第3の公園墓地として戦後に開園した。1961年、墓石を画一化した「芝生墓地」を都立霊園で初開設した理由を「墓地形態においても戦後の民主化に通ずる公平の原則、個人間の格差是正を実現する」などとした(小平霊園管理事務所『開園50周年を迎えて』)。
91年、効率的で安価な「壁墓地」を初めて本格導入して注目を集め、99年には進む核家族化と少子高齢化に伴い「合葬式墓地」の供用を始めた。さらに未婚率増加や自然志向を背景に、2012年に都立霊園初の「樹林墓地」、14年に「樹木墓地」を設けた。
小平霊園案内図に記された「著名人」の顔ぶれを見ると、反体制派の政治家や進歩派文化人が目立つ。革新勢力が強かった多摩地区の土地柄と関係あるかどうかはわからないが、そこにはやはり時世が見て取れる。
戦後の日本共産党を指導した宮本顕治(1908〜2007年)の自宅は多摩市にあった。墓所に行くと、広い敷地に「宮本」とだけ刻んだ墓石がポツンと立っていた。墓誌も墓碑銘もない。妻でプロレタリア文学の第一人者だった宮本百合子(1899〜1951年)の墓所が園内の別の場所にあるのは、百合子の死後、顕治が再婚したことによる。
プロレタリア文学の分野では、壺井栄の夫で詩人の壺井繁治(1897〜1975年)、劇作家の久保栄(1900〜1958年)、文芸評論家の青野季吉(1890〜1961年)。雑誌『近代文学』を創刊し、文学の政治からの自立を論じた文芸評論家、荒正人(1913〜1979年)の墓もある。
『近代文学』に加わったのが、戦後リベラルを代表する知性とも言える評論家の加藤周一(1919〜2008年)だ。その墓は芝生墓地にあり、最晩年にカトリックの洗礼を受けた加藤の墓誌には洗礼名「ルカ」と記されていた。
やはりカトリック教徒の作家、有吉佐和子(1931〜1984年)の墓にも洗礼名「マリア・マグダレナ」が刻まれている。小説『紀ノ川』のほか、ベストセラー『複合汚染』で環境汚染を告発し、『恍惚の人』で認知症と介護問題を世に問うた。
故人の顔のレリーフを据えてひときわ目立つのが、社会運動家、大山郁夫(1880〜1955年)の墓だ。昭和初期に労働農民党委員長として無産政党運動を指導した。同じく社会運動家の佐野学(1892〜1953年)は昭和初期、非合法時代の日本共産党委員長だったが、獄中から転向を宣言したことで耳目を集めた。
保守派もいる。評論家の山本七平(1921〜1991年)は『「空気」の研究』などの著作を通じて日本人の思想と行動を分析した。墓碑銘には「吾等之高櫓也」とある。「時代を眺望し、警鐘を鳴らした」という意味だろうか。
フジサンケイグループ創業者の鹿内信隆(1911〜1990年)の墓所は、さすがに広くて意匠が凝らされている。墓誌には後を継いでグループを牛耳った長男の鹿内春雄(1945〜1988年)、その妻で「女子アナブーム」の先駆けとされた元NHKアナウンサー頼近美津子(1955〜2009年)も本名の「鹿内キャサリン美津子」で記されていた。夫の死後、社内抗争に巻き込まれた彼女は春雄同様、病いによって早世した。
角川書店の創業者で国文学者の角川源義(1917〜1975年)の墓所には、「花あれば西行の日と思ふべし」と刻まれた句碑が立っている。ここには長女で歌人・作家の辺見じゅん(1939〜2011年)も眠る。春樹・歴彦兄弟の対立による90年代の「お家騒動」を創業者は墓の下でどう見ていただろうか。
墓からは故人の生前の姿や遺族の思い、時代背景をうかがい知ることができる。著名人の墓巡りは近現代史の一断面を見る時間でもあった。
心残りが一つある。小平霊園に眠るという俳優でコメディアンの植木等(1926〜2007年)の墓が見つけられなかったことだ。他日を期すことにしよう。
(片岡義博)(写真は筆者撮影) >>【上】子どもに歌や物語を送った文化人(3月7日掲載)
【参考情報】
・小平霊園(都立公園公式サイト・TOKYO霊園さんぽ)
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角川春彦? 春樹?
角川兄弟は春樹・歴彦が正しく、本文を訂正しました。ご指摘ありがとうございます。
植木さんの墓は植木家の墓があるようです
コメント、ありがとうございます。植木家の墓がどのあたりにあるか、ほかに目印になるようなことはありますか。手掛かりがあると探せるかもしれません。(編集部)
14区にあるとのことです
14区にあるようです
https://hakameguri.exblog.jp/26732470/
に写真がありますね
ありがとうございました。筆者に連絡します。貴重な情報、ありがとうございました。