【ひばりインタビュー】

◎ひとりぼっちをつくらない、個性発揮の場をつくる
 西東京市・教育長の木村俊二さん

 西東京市教育委員会の教育長に7月1日付けで木村俊二氏が就任した。前任の前田哲氏がパワハラ疑惑を指摘され辞任。空白が半年続いた後の新教育長誕生だった。この期間をどのように受け止めるか。いじめ・虐待防止、居場所作りなどの教育課題にどう取り組むか。就任直後に起きた中1女子生徒死亡の事態をめぐる対応は-。木村俊二教育長に尋ねた。聞き手は、ひばりタイムス編集長北嶋孝(8月15日インタビュー)。(編集部)

 

木村俊二教育長

1.教育長を引き受けたわけ
2.学校現場と教育行政の違い
3.居場所作りは前向きに
4.中学1年女子生徒の死亡事件
インタビューを終えて】(木村俊二/北嶋孝)

  

 

 

1.教育長を引き受けたわけ

 

 停滞があってはならない

 

-本日は8月15日です。7月1日付けで教育長になってちょうど1ヵ月半経ちました。まず率直な感想から話していただけますか。

 就任当初に悲しい出来事が起きたこともあって(注1)、この間緊張しながら仕事に取り組みました。暗中模索のなかで、やっと役所の仕事の仕組みが分かってきた段階です。

 

昨年末に前田哲教育長がパワハラ疑惑を議会で指摘され、辞任しました(注2)。その後、半年の空白を経ての就任です。どういう思いで教育長の仕事を引き受け、教育行政のトップとしてどんなことに取り組もうと考えましたか。

 私はそのとき教育委員でしたので、前田教育長には1年弱お世話になりました。突然の辞職は本当にショックでしたし、これから一緒に取り組みたいと思っていたのでとても残念でした。その後、職員が頑張ってきましたが、それにしても教育長不在となると、いろんな面で停滞が生じる恐れがあるのではないかと思い、新しい方が教育長になって、教育行政が早く前に進めばいいなあと単純に思っていました。市長から教育長のお話をいただき、正直躊躇する気持ちもありましたが、教育長不在が教育行政に停滞をもたらすとしたら、西東京市の教育や市民にとってもいいことではない。私に出来ることがあればとの思いから決心しました。

 

教育面から見た西東京市の特徴はどんなところにありますか。

 20年ほど前までは台東区に住んでいました。それから西東京市に引っ越し、その後明保中学校の校長になったわけです。

 まず校長に赴任して感じたのは、保護者の皆さんの子どもの教育に対する期待、意識、関心が高いとうことでした。子どもたちも伸び伸び育っている。そう感じた3年間でした。保護者の方々は、子どものために何かしようと本当によく協力してくれました。西東京の良さだなあと強く感じました。他方、台東区などの下町と比べると地域の顔が見えない、地域のコミュニティーに課題があるとも感じました。

昔ながらのコミュニティーが残る下町とベッドタウンの地域特性が出ているのかもしれませんね。

(注1)「市内の公立中学1年の女子生徒が下校途中に大けがを負って入院したが、7月8日に死亡した」(教育委員会での説明)
(注2)2016年12月議会の本会議で当時の前田哲教育長がパワハラ疑惑を指摘され、年末に辞任した。

 

 

 

 

2.学校現場と教育行政の違い

 

東京都の教員として中学校の先生がスタートでしたか。

 中学校の社会科の教員としてスタートしました。当時は、全国の中学校で「校内暴力」の嵐が吹き荒れていました。私の勤務校もまさにそのような状態でしたが、反面、問題行動を起こす生徒と関わりながら、生徒指導の基礎を学んだと思います。その後、東大和市教育委員会や都教育庁指導部に務め、豊島区の中学校長になりました。その後、江戸川区教育委員会事務局の指導室長を経て、平成16年(2004年)4月から3年間、明保中校長になりました。校長としては2校目ですね。その後、台東区の中学校長を6年経験しました。学校教育には41年間、関わらせていただきました。

 

 不易と流行

 

学校現場も知っているし、教育行政にも詳しいわけですね。そこでお尋ねしますが、学校現場と教育行政のそれぞれの特徴、違いはどこにあると考えますか。

 そうですね。世の中の流れ、社会の変化が激しくなって、これまでなかったような教育の課題が要請されています。例えば「オリンピック・パラリンピック教育」とか、「ICT(情報通信技術)教育」など新しい流れを進めなければなりません。しかし現場は、率直に言うと、課題の重要性は分かるけれども、十分に対応できないもどかしさは感じてきました。

 「教育における不易と流行」という言葉があります。子どもをどう育てるか、先生と生徒の信頼関係が教育の基盤である、などの「不易」の部分は大事にしなければなりません。それと「流行」の部分、新しい教育課題に対応していく学校の役割もあります。これからは「不易と流行」を的確にとらえながら、学校も教育委員会も努力していかなければならいないと思います。

 

もう少し具体的に説明してもらえますか。

 ともかく教員は、「目の前にいる子どものために何かしたい」「出来ることをしたい」と思っています。いろんなやり方があるので、さまざまに取り組むわけです。しかし先ほどお話ししたように、学校教育には「不易」と「流行」があり、ときに学校はこう変わらなければならないという課題を突きつけられます。そのとき教育委員会がまず伝える役を担うわけですが、学校の先生方にとっては、「学校現場をもっと分かってくれ」となります。

 例えば今、中学校の部活動をはじめ「勤務時間」の問題があります。先生たちからすると、今でも精一杯やっている、そこにまた新たな仕事が増えるのか、という率直な気持ちもあるでしょう。「教師の長時間勤務」の問題の解決を図りながら、その辺のすり合わせがうまくいくと、いい方向に進むのではないでしょうか。

 

行政としては、新しい課題を現場にお願いする立場だということですか。

 例えばICT教育は、子どもたちがこれからのAIが進む将来に対応して生きていくためには不可欠です。現場としては今すぐやれと言われても厳しいという声があるので、教育委員会としてはよく説明して理解を求め、条件整備をしないといけません。そこをしないでやれやれと言うわけにはいきませんから。

 前教育長もよく口にされていたことですが、教育委員会はあくまで子どもたちにとって楽しい学校、先生たちにとってやりがいのある学校にするための条件整備をする。それが教育委員会の仕事だと、学校を訪問したときに話していました。その言葉を聞いて、この方は学校をよく分かっていらっしゃるなと思いました。その気持ちは私も持ち続けていきたいと思っています。学校現場の子どもたちや先生方に、教育委員会の立場もよく理解してもらって、一緒にやろうという気持ちになれるようにしたいと思います。それにしてもいまはスピードの時代。流れが速い。私も付いていけないぐらいです。

 

 英語、組み体操、合唱…

 

小学校で英語を正式科目にする動きもありますね。

 そうです。教育委員会がそのために条件整備は何が出来るか、考えていかなければならない。折角英語を教えても、子どもが英語嫌いになってはまずいので、英語が好きになる授業をしてもらいたい。いまのところ平成32年(2020年)度から学習指導要領が全面実施になり、そこから小学校(5-6年生)で英語が正式科目になります。来年度から2年間が移行措置期間なので、教育委員会から指導主事を派遣したり校内研修を実施したりして、理解してもらうことになります。中学校は平成33年(2021年)度から全面実施です。

 

運動会の組み体操はどうなってますか。

 現在、西東京市の中学校では、「重大なけがの防止」という東京都の方針を受けて(注3)、全校で原則として「組み体操」は休止となっています。そこで、各校の実情に応じて、組み体操でなくても、子どもたちに感動体験が与えられるようなプログラムを考えて実施しています。

 運動ではありませんが、合唱コンクールは中学校で盛んですが、昔はやっている学校とそうでない学校がありました。合唱コンクールは中学生にとって大きな感動体験になっています。これからもいろいろな行事を各校の実態に合わせ、保護者の声も聞きながら、よりよい方向に持っていく努力が大事ですね。突然中止したり、突然始めるのはいけないと思います。

 

人間の声は最良の楽器と言われます。合唱でハモるのは快感であり感動ですから、忘れられませんね。

 実は私も高校時代、合唱コンクールの全国大会に参加したことがあります。やり終えたという充実感、一体感はなんとも言えませんね。

公民館でコーラス活動に励んでいる高齢女性の方々の話を先日聞きました。上手下手よりも、音楽が好き、合唱を楽しみたいと思う人たちの集まりです。声を揃えて歌うおもしろさを味わっていましたね。

(注3)
・東京都における「組み体操」等への対応方針について(東京都教育委員会
・小学校における英語教育について(外国語専門部会における審議の状況)(文部科学省
・英語、小5から正式教科に 次期指導要領案(日本経済新聞2016.8.1

 

 

 

 

3.居場所作りは前向きに

 

 大学・高校との連携、図書室、特別支援教育

 

西東京市の総合教育会議で、今年度の三つの課題が決まりました。いじめ・虐待防止、切れ目のない支援、子どもの居場所の充実、でした。三つ目の居場所作りは新しい課題です。取り組みは進んでいるでしょうか。

 いじめ、不登校、虐待などは、西東京市においては、これからも大きな課題だと思います。市は2年前、不登校や虐待などの事件を受けて西東京ルールを定め、いじめ防止条例も制定しました。切れ目のない支援に関しては、福祉的要素や子育て支援関係もあって他の部局とも連携を取りながら進めています。子どもの居場所の充実は新たに加わった課題でもあり、ぜひ前向きに取り組んでいきたいと思っています。

 私は、「居場所の充実」とは一言で言うと、「ひとりぼっちの子どもを作らない」ということだと思います。困ったことや悩みなどを抱えた時にはいつも周りに相談できる友達や先生、親がいる、そういう環境を作ることが大事です。また、自分のよさ、つまり、個性や持ち味、能力が発揮できるような学校の教育、家庭や地域の「場」作りも大切だと思います。

 先日早稲田大学との連携事業で、小学生を対象 とした「理科・算数だいすき実験教室」を早稲田高等学院で実施しました(注4)。見学に行ったら、子どもも保護者も本当に生きいきしていた。今の学校ではあそこまで時間をかけて少人数の授業を行うことは難しいけれども、できるところから子どもたちの個性や能力が発揮できて、楽しかったなという体験の場を作ってほしいと思います。子どもたちを「ひとりぼっちにしない」ことも大事。そのうえで、自分の個性を発揮できる場をどうするかということも大事だと思っています。

 学校の図書室などを活用した読書教育も子どもたちの「居場所づくり」につながるのです。明保中学校の校長時代に、図書室を生徒たちの交流の空間にしようと考えて、教室で一人でぽつんとしている子は図書室に行こうと呼び掛けました。図書室では、普段おとなしめの子どもたちが集まって楽しそうにおしゃべりしている。子どもがわくわくするような授業と同時に、図書館、図書室が子どもたちの居場所になるような学校作りをぜひ進めてほしいと思っています。

 西東京市が先進的に行っている特別支援教育もやはり、居場所作りなのです。子どもたちが学校の中で力を発揮できる場をきめ細かにつくる。まだやらなければいけない課題はありますが、子どもたちにも保護者の方々にもおおむね歓迎されていると聞いています。西東京市は教育支援課という独立した課があり、スタッフも揃っています。しかし他の自治体では特別支援教育を学務課が担当している例も少なくない。そいう意味で、特別支援教育も居場所作りであり、もっと充実していきたいと思います。

 

 地域と学校がともに育てる

 

地域には子ども食堂が広がり始めました。中学校にカフェをつくって、地域と学校の交流の場にしようとする動きも出てきました。放課後カフェなら子どもと地域の人たちとのコミュニケーションも図れるのではありませんか。

 子どもの居場所作りという意味では、学校と地域がともに子どもを育てる、一緒に歩むという学校作りを進めたい。全国的にはコミュニティースクールなどがあります。そういうケースの研究も進めて、西東京市の実態に合った取り組みを検討したいと思います。

 今年3月に社会教育法が一部改正され、「地域学校協働活動事業」が全国的に展開されることになりました(注5)。これも地域と学校が協力しながら子どもの学習支援、趣味や特技を伸ばす。それを学校にお任せではなく、教育委員会も関わりを持ちながら、学校に協力したいという多くの保護者のパワーを取り入れながら進めたい。地域の実態や保護者の要請など、それぞれ違いを踏まえながら進めていきたい。それが地域のコミュニティー作りにもつながると思います。すぐには出来ないでしょうから、2年3年かけながら態勢作りを図りたいと思います。

 

夏休み中の子どもたちの居場所づくりとして「サマー子ども教室」や「児童館ランチタイム」、友好都市の山梨県北杜市で「児童館キャンプ」も実施されましたね(注6)

 そうですね。それらは市長部局が実施していますが、場合によっては教育委員会も連携・協力できることがあるか検討したいと思います。

(注4)理科・算数だいすき実験教室を開催します 早稲田大学との連携事業(西東京市Web
(注5)
・「地域学校協働活動の推進に向けたガイドライン」の策定について(文部科学省
・「学校と地域でつくる学びの未来」(文部科学省
(注6)『サマー子ども教室』『児童館ランチタイム』の実施(西東京市Web

 

 

 

 

4.中学1年女子生徒の死亡事件

 

 説明と報道が違う

 

教育長になって早々ぶつかったのがこの事態です。教育委員会の説明は「下校途中に大けがをして入院、治療していたが、亡くなった」というだけでしたが…

 事案の発生を自宅で聞きましたので、早速役所に駆けつけました。どうか命にかかわることがないよう祈っていました。その後亡くなったということを聞いたときは大変残念に思いました。心からお悔やみ申し上げます。
 この事案については、7月の教育委員会において教育指導課長から説明しました(注7)。その後は、ご遺族の意向に沿って対応してきました。

 

生徒がけがしたのは7月6日(木)です。その翌日に定例の保護者会があったのですか。亡くなったのは8日(土)でしたね。

 その通りです。

 

新聞報道(注8)では、警察情報と東京都教育委員会の話をまとめた記事を掲載していますね

 教育委員会や学校からは、あのような報告やコメントは一切出していません。

 

西東京市教育委員会と当該の中学校は事態を明らかにしていませんが、警視庁や都教委に情報が上がっているのではありませんか。

 それらの情報がどのような経緯で伝わったのかは私たちは承知していません。

 

遺族の方がこう伝えてほしいという意向を尊重して対応しているということですか。事実関係を明らかにしない理由は、遺族の意向だけですか。

 私たち公務員には、個人情報の保護のために、守秘義務が課せられていることも理由としてあります。

話せないのは…。

 話せないというよりも、ご遺族の意向を尊重しながら、公表しているということです。

 

どんな事情かは別にして、学校の生徒が亡くなった場合、遺族からこういう事実を伝えてほしい、それ以外は伝えてほしくないと言われたら、遺族の意向にすべて従うのでしょうか。どういう条件が揃うと、学校も教育委員会も遺族の意向を聞くのでしょうか。

 ケースバイケースだと思いますが、先ほど申し上げました通り、私たちには基本的に守秘義務がありますので、そのことを順守しながら対応していきます。特に、今回はお子さんを亡くされたご遺族のお気持ちに寄り添いながら対応してきました。

 

というと、当該の保護者、ご遺族の意向が変わると、学校や市教委の対応も変わってくるのですか。

 そういうことはあり得るかもしれません。

 

意向が変わって、伝えた以外も明らかにして構いませんとなると、学校や教育委員会はきちんと事実の全体像をお話になると理解していいでしょうか。

 現在は、ご遺族の意向を受け止め、尊重していきたいということですから、ご意向が変われば、そのときは、あらためて保護者のお気持ちをしっかりとお聞きしながら対応していきたいと思っています。

 

 検証の必要は

 

私たちが調べた範囲では、生徒が亡くなったのは学校で起きた出来事に契機や原因があったのではないかと推定してます。その生徒や担任の先生、保護者、さらにクラスの生徒も関わっていないとは言えない。今回のケースに、学校で起きたことが何らかの影響を与えているとしたら、学校や教育委員会としてその件をきちんと検証する必要があるのではないでしょうか。

 先日、指導課長が「ひばりタイムス」の取材にお答えした通り(注7)、学校で何があったか、どういう経緯かをみなさんに伝えることは、保護者の方のお気持ちに反することになる、ということで私たちは対応しているわけです。

 

そういう対応が、さまざまな憶測や風評を生んでいるのではないでしょうか。ネットではうわさがうわさを呼んで広がっていますね。起きた事態の骨格が周りに伝えられていないので、風評の拡大が放置されしまいました。事態を伏せてしまったために起きたもうひとつは、生徒への影響です。学校や保護者も含めて大人たちが事態を明らかにしない。公にしない。そういう事実が無言のメッセージとして子どもたちの記憶に刻まれるかもしれませんね。

 例えばですが、学校に通う子どもが亡くなった場合、それを全部公表しなければならないとしたら、亡くなった理由も公表せよということにもなります。一般的な例として、病気や交通事故などでお子さんを亡くした場合に、その保護者の方の意に反する内容を一方的に教育委員会や学校が伝えることは、子どもの教育に関わっている立場からするとやはり難しい。そこを理解してもらいたいですね。

 ご指摘のような生徒の影響についても十分考えながら、教育委員会としては、事案発生後、夏休みが始まる前まで毎日、市や東京都のカウンセラーを派遣して、面談を行い、その影響を少しでも軽減するようにしてきました。また、夏休み中も学校の三者面談に並行しながら、カウンセリングを継続してきました。また、市の教育相談室でも受け付けてきました。

 

学校内、学級内で起きたことを教育として、少なくとも学級内で…

 これまでも説明しましたが、本事案は、下校途中に起きたことであると認識しています。

 

でも学校内で起きたことが影響したり原因だったりするわけでしょう。

 そのことについては、個人情報でもありますので現段階では申し訳ありませんが、お話しできません。

 

これまで明らかにした事実の範囲は、遺族の意向だけで決まったんですか。もっと簡単に言うと、話せないのは保護者の意向だけなんですか。

 その通りです。今後もご遺族の希望に沿って公表していく考えです。

 

先ほどは子どもたちへの影響を懸念しました。さらに付け加えると、学校や教育委員会への影響と課題もあると思います。3年前に親の虐待などから市内の中学生が自殺しました。そのときの反省から、西東京ルールが生まれました。虐待など家庭内の出来事を早期に発見し有効な手だてを講じる現場対応のノーハウでした。しかしもう1つ、教員を含む関係者への研修プログラムが提起されていたことを思い出します。事件から教訓を汲み取って、他の子どもたちが二度と同じような事態に陥らないための情報共有と経験を引き継いでいく役割が研修プログラムに込められていました。現場対応ルールと研修プログラムの両輪が揃っての西東京方式だと思います(注9)
 ところが今回は、現場対応は、遺族の意向を尊重するという形でなされています。しかし事態を明らかにして、他の学校でも起こさない、これから先もこういう事態を引き起こさないという面からみると、事態の検証、情報の共有、経験を引き継いでいくなどは、手付かずになっています。今回のケースをどう検証し、課題をどう共有し、引き継いで再発防止につなげていくのでしょうか。

 今回の事案については、学校の聞き取りを行っていますが、現段階では公表できません。

 

遺族の意向は意向として受け止めたということと、そこで起きたことに対する学校側の対応がどうだったかの検証は別の事柄ではないですか。

 そのことにつきましては、学校に対する聞き取りを行っていますが、今後もご遺族の意向に配慮しながら対応していきたいと考えています。その内容を公表することは、保護者の気持ちからすると一方的、ということになりますので、現段階ではできません。

時間となりました。ここでレコーダーをとめたいと思います。ありがとうございました。
(了)(写真撮影=柿本珠枝)

 

(注7)ひばりタイムス「臨床心理士ら派遣で『心のケア』 教育委員会に『中1女子死亡事案』報告」(2017年7月25日付)
(注8)
・読売新聞「中1女子飛び降り死亡 西東京 クラスで『謝罪』3日後」(2017年7月10日夕刊)
・東京新聞「飛び降り自殺か 中1女子死亡 西東京市のマンション」(2017年7月11日武蔵野版)
・産経新聞「東京の中1女子自殺か マンションから飛び降り」(同11日)
(注9)
・児童死亡事案の検証委員会報告書の公表について(西東京市Web)
・ひばりタイムス「再発防止に『西東京方式』 中2生徒虐待自殺の検証委報告書公表」(2016年6月2日)

 

【略歴】
 木村俊二(きむら・しゅんじ)
 西東京市教育委員会教育長。1949年(昭和24年)、北海道生まれ。東北大学教育学部卒。1972年東京都教員採用、豊島区立豊島中教諭。台東区立福井中、東大和市教委、都教育庁などを経て豊島区立十中校長。江戸川区教委のあと2001年から3年間、西東京市立明保中校長を務める。台東区立駒形中校長を最後に退職。2014年から西東京市人権擁護委員、16年から市教育委員会委員を務めていた。17年7月から現職。

 

木村教育長(右)と北嶋編集長

  

 

【インタビューを終えて】
 教育長として西東京市の教育行政を担う立場になり、今、最も感じていることは、学校教育や社会教育に対する 20万市民の思いの大きさです。そして、求められていることは、 学校や教育委員会事務局に働く教職員が、子どもや市民の目線に立って毎日の仕事を進め ていくことです。
 そのためには、教育委員会と事務局、学校が一つのチームとして力を合わせていかなけ ればなりません。私は、教育長着任後、早速、 「『健康』イクボス・ケアボス宣言」を行いましたが、職員のコミュニケーションを大切にしながら、働き甲斐のある職場づくりを行い、市民の期待に応えられる教育行政を進めるため精いっぱい頑張っていきます。どうぞよろしくお願いします。(木村俊二)

 

 インタビューは事前の思惑と違って、即興で話題が発展したりずれたりする場面が訪れます。「不易と流行」が飛び出した辺りでは、想定していないキーワードにちょっぴり不意を突かれ、心地よく驚きました。居場所作りの課題でも話が弾み、快調なドライブでした。直近の課題では慎重運転でした。まあ、やむを得ないかもしれません。
 今回のインタビューは個人的には、「学校現場」と「教育行政」の絡み合いに関心がありました。「ローカル」の言動が「グローバル」でも受け止められるか。「いま」の対応が「未来」の判断に堪えられるか。その相克を感じてもらえるような場面が設定できたかどうか。読み手のみなさんの判断を待ちたいと思います。(北嶋孝)

 

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