新年特集「2021年の三が日」
2021年はうっとうしい始まりとなった。コロナで暮れ、コロナで明ける。感染者も死者もうなぎ登り。とはいえ、年の初めを禁則だけで過ごせるわけはない。世の人びとはどう過ごしたか、いや私たちはどうだったのか。ひばりタイムス常連執筆者の「自撮り」「他撮り」を写真と文でお届けしたい。
変わったこと、変わらないこと
元旦は小金井公園を散歩して、午後から近所の武蔵野神社(小平市花小金井8丁目)に出かけた。毎年、初詣での列が参道からあふれて青梅街道沿いの歩道に長い列をつくるが、さすがに今年は参道の途中で収まっていた。それもソーシャルディスタンスを保ちながら。
神社を出て歩くこと数十秒、ん? 香ばしい匂いが。歩道沿いの民家で老若男女がバーベキューをしている。そう言えば、去年もやってたな。頭にタオルを巻いて鶏肉をひっくり返しているおじいちゃんに声をかけた。
「いや、もう10年以上やってるよ。こうやって家族が毎年元旦に集まるんだ」
今年82歳。近くに住む3人の息子夫婦と孫7人の家族15人が年に1度、こうして集まるという。炭焼きのサンマ、七輪で似た黒豆、アジの開きの燻製、焼きいも……。
「食べていってよ。飲めるんでしょ。はい、これ」
缶ビールを手渡された。神社から鈴木ばやしの音が聞こえる。例年と異なる初詣で風景に、
「今年っきりにしてほしいね。うちはいつも通り、みんな元気で集まれた。やっぱり健康が一番。天からの授かりもんだ」
気持ちのいい新年の1日目。
(片岡義博)
出来ることを淡々と
我が家の恒例、初詣は武蔵御嶽神社に参拝する。おいぬ様信仰が伝わる御岳山にあるこの神社の狛犬は、よく見られる唐獅子でなく、ニホンオオカミをかたどっている。飼い犬のラブラドールレトリーバーと参拝できる神社とあって、10年ほど前から詣でるようになった。
朝5時前に自宅を車で出発。6時に滝本駅から御嶽神社を目指して山道を上る。真っ暗闇の中、携帯のライトで足元を照らしながら一歩ずつ進む。御岳登山鉄道のケーブルカーを使えば滝本駅から御岳山駅まで6分の道のりだが、徒歩だと小一時間。急坂で息が切れる。月が杉林の合間から光を放っている。東の空がどんどん明るくなる。日の出に間に合うのか……急げ!
コロナ禍中、参拝客は例年よりかなり少なく、いつも満車で行列待ちの駐車場はガラガラ、山道で挨拶を交わす人々もまばらだった。密を避けることがニュー・ノーマル、新しい生活様式となった2021年の始まり。昨日と変わらず今日も、そして明日も陽は昇る。出来ることを淡々とやっていこう。微力でも無力ではないと信じて。
(卯野右子)
地域の神社もひっそりと
1月1日、青梅街道沿いにある武蔵野神社(小平市花小金井8丁目)にはお神楽の音が響いていた。毎年初詣に聞かれる鈴木囃子の音。締め太鼓、鉦、笛が心躍る節を奏でる。乾いた空気に乗り、辺りに「お正月」の気分を運ぶ。
子どもたちの目はお獅子に釘付け。長い間、一心に見入っている。今年は離れて見ているからお獅子が怖くないのかな。この距離ではお獅子の口に「お花」を差し出す人もいない。お獅子の踊りもいつもより、ちょっとおとなし目だけれど、子どもたちの心をぐっとつかんでいた。
午前零時。太鼓の音を合図に初詣が始まる。例年は参道から青梅街道の歩道まで行列ができた。氏子や近隣の住民を中心に、地域の人で賑わった。中学生、高校生もこの日は大手をふって深夜のお出かけ。高揚した声があちこちで聞かれた。今年の人出は十分の一くらいだろうか。暗い参道に、真新しい行列の目印が付けられていた。
社務所やお焚き上げの火は変わりなかったが、ひっそりとお参りして帰る人が多かった。
(渡邉篤子)
人混みを避け子供と近所の公園へ
STAY HOMEを心がけたい2021年のお正月。7歳と1歳半の子供達は体力を持て余し家の中で暴れ回る。片付けてもすぐに家の中でものが散乱してしまう。大人も運動不足にならないよう、感染に注意しながら家族で住吉森林公園へ出かけた。
1月2日の朝9時ごろに家を出発した。人出が少なく、だれともすれ違わずに公園まで行くことができた。公園の入り口は狭く外からみると小さな公園に見える。入ってみると奥行きがあり子供達が走り回るには十分な広さがある。公園内では我が家以外の人の姿は見られず、のどかな光景が広がる。
住吉森林公園はその名の通り、木に囲まれた公園だ。大小さまざまな樹が並ぶ。入ってすぐ右手にはロウバイの木が植えられている。近づいてみると、蕾がふくらみ始めておりほのかによい香りが漂う。子供達はうれしそうに走り回り、おいかけっこを楽しんだ。
(道下良司)
落合川で白鷺を見た
今年の新年は特別だ。半年前娘夫婦と孫3人が引っ越してきた。娘たちは3月末に、歩いて5分の新居に移るのだが、それまで私たち夫婦とあわせて7人が狭い家に同居中だ。
手洗い、うがいは全員の決め事だが、「密」といえば「密」。そこに新年早々、「緊急事態宣言」の要請が出された。「自粛して外に出るな」といわれても、男の子ばかり3人の孫がおとなしく読書にいそしむはずもない。不満も溜まるし喧嘩もする。
正月1日、娘たち一家が車でどこかに出かけた間に、自転車に乗って夫婦で落合川に出かけた。
出かけるとやはり気持ちがいい。青空があって、澄んだ水が水草を揺らしている。白鷺が1羽、ゆったりと水の流れの中にただ立っていた。それだけで、窮屈になっていた気持ちものびやかにひろがっていく気がした。
(川地素睿)
静かな食卓
風呂上がりに、作務衣に着替える。元旦の朝。いつからか、2人の習わしになった。
「明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
食卓に、おせち料理が並ぶ。手を合わせる間も惜しく、紅白の蒲鉾や椎茸、だし巻き卵や昆布巻きにも手が伸びる。雑煮の餅がふっくら。箸で掴まえると、身をよじるようにしなった。香ばしい芹の香りが漂う。テレビ画面に、外界のニュースが流れている。
「実業団駅伝の中継してるんじゃない」。チャンネルを回してもそれらしい場面は出てこない。
「やってるはずだから、待ってれば」。はいはい。CMが終わったら出てきました。選手たちは朝日を浴びながら、上州路を駆け抜けていく-。
子どもたち家族の来訪は取り止め。友人知人を招く例年の集まりもなくなり、神社のお参りもこの日は避けた。
ある日本映画の場面を思い出した。食卓を挟んで、とりとめのない会話が交わされる。穏やかな佇まいがローアングルで映し出されるシーンの向こうに、嵐の予兆が満ちていたのだと、あらためて身に沁みるほど伝わってきた。
(北嶋孝)