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第14回 住吉小学校の英語教育への取り組み-Let’s enjoy English!


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 西東京市立住吉小学校(屋宮茂穂校長)では、1年生から英語に親しむ授業に取り組んでいる。それにあたって、「地域協力者(ボランティアの保護者ら)」が授業に参加し、サブの先生としてお手伝いをしているという。
 英会話に多額の投資をしたものの、未だに苦手意識のある筆者としては、いったいどんなことが行われているのだろうと、授業参観させて頂いた。

 

 いたるところに英単語!

 

 3階の奥にある「英語教室」まで来るようにとのことだった。えっ、小学校に「英語教室」があるの!と思いつつ、学校に入ってまず驚くのは、いたるところに英単語が貼りだされていることだ。階段には、1~10、11~20、30~90、季節などが書かれているし、動物、食べ物、果物……などの絵と英単語が貼られている。

 

階段や壁に英単語の張り紙(筆者撮影)

 

 楽しみながら英語に触れあう

 

 私が参観したのは、1年生。二学期の最初、英語教室での授業は、初めてとのこと。普通の教室とは異なり、机がなく、椅子だけが並んでいる部屋に連れてこられて、これから何が始まるのだろうと、最初は、ちょっと緊張ぎみ。でも、挨拶→歌→ゲームと進んでいくうちに、皆すっかり、楽しそう。

 

英語で先生とじゃんけんで勝ち抜きゲームをしているところ。(グー・チョキ・パー、じゃんけんぽん!ではなく、rock, scissors, paper: one, two, three!)(筆者撮影)

 

 最初は、「先生と児童との挨拶」。”Hello, everyone!”と先生が言ったら、児童は”Hello, Ms. Ohishi ! ” と先生の名前を言って応える。そのやりとりをまずは、先生とサブの先生が演じてみせる。それを真似て、次には、先生と児童が、サブの先生と児童が挨拶しあう。

 挨拶の次には、皆で”Friends”という歌を歌う。あんまり上手に歌うので、お聞きしたところ、二学期に入ってから習った歌とのこと。低学年の児童ほど、すぐに覚えてしまうそうだ。

 この日は、2つのゲームを楽しむ計画だ。最初は、「じゃんけんゲーム」。次が、「自己紹介ゲーム」。どちらも、まずは、先生とサブの先生がやってみせ、先生と児童、サブの先生と児童がやり、次に児童同士でやるという段取りになっている。これによって、児童たちは、何度か繰り返して覚え、自然に会話に入っていける。

 

担任の先生(左)とサブの先生(右)が自己紹介ゲーム(まずは挨拶”Hello”)をしてみせているところ。左端が英語専任の先生。(筆者撮影)

筆者も参加させてもらい、3人の児童に名前を書いてもらった

 

 「自己紹介ゲーム」では、児童同士で最初に挨拶をし、最初のゲームで覚えたじゃんけんをする。勝った方が、「あなたのお名前は、なんですか?(What’s your name?)」と聞き、負けた方は、「私の名前は〇〇です(My name is〇〇.)」と、ボードに挟んである相手の用紙に自分の名前を書く。まだアルファベットで書くことは、教えていないので、名前は日本語で書く。

 

 2015年度から「外国語活動・ICTの日常化」に取り組んだ

 

 このように授業の様子を淡々と書くと、何でもないことのように思うかもしれない。しかし、この授業をしているのは、「英語の先生」ではなく、「1年生のクラス担任」なのだ。学校によって、図工、音楽、体育、理科などに専門の先生を置いている場合もあるが、小学校では、基本的に、担任の先生が、全ての教科を教えることになっている。2011年度から実施されている現行の学習指導要領では、5・6年生になってから、「外国語活動」を行うこととされており、それぞれ35授業時間実施することとなっている。住吉小学校では、それを1年生から実施するというのだから、先生方が当初戸惑ったというのもうなずける。

 「外国語活動」というのは、文部科学省によると「外国語を通じて、言語や文化について体験的に理解を深め、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り、外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら、コミュニケーション能力の素地を養う」とある。つまり、筆者が今回1年生で体験したような挨拶や日常会話を通して外国語(英語)に親しむことを指している。正式教科とは異なり、教科書を使ったり、成績をつけたりはしない(注1)
 
 これまでは、この外国語活動にあたっても、担任の先生は、敬遠しがちで、ALT(Assistant Language Teacher)と呼ばれる外国人講師に任せることが多かった。担任の先生が必ずしも海外生活を経験しているとは限らない。「英語の発音が苦手…」、「英会話は余り好きでない…」、「そのための授業の準備に手が回らない…」というネガティブな反応が一般的だった。

 児童の方も、3年前に「英語を話すことは好きですか?」とアンケート調査をしたところ、47%が好きではないとの回答だった。

 そんななか、住吉小学校では、2015年度に泉小学校と統合するにあたって、特色ある学校にしたいと、グローバル人材育成を行うという観点から、6年間を見据えた英語教育の推進とICTを活用した授業づくりを打ち出した(注2)

 (注1)2017年3月に公示された「新学習指導要領」では、3年生からこの英語に親しむ活動が開始され、5年生からは、英語が正式教科となる(2020年度から実施)。
 (注2)西東京市の研究奨励事業特別研究指定校として、2年間にわたり研究を進めてきた。また、学校統合にあたって、東京都による「新しい学校づくり重点支援事業」指定校として、人的・財政的な支援も得られた。

 

 担任の先生が英語の授業をしやすいよう、授業案と教材を作成

 

(クリックで拡大)

 住吉小では、低学年20時間、中学年35時間、高学年55時間を外国語活動に充てている。このため、それでなくても普段から忙しい担任の先生が、億劫に思わずに英語の授業が行えるよう、英語専任の先生を置き、一年生から六年生までの系統を考えた年間指導計画・全時間分の授業案を作成した。270ページもある分厚い資料だ。

 また、全時間分の教材も用意した。英語教室に、単元ごとに教材をカゴに入れて整理してある。また、壁には、これまで児童が作成した作品やさまざまな掲示がなされている。

 

単元ごとの教材がカゴに入っている(学校提供)

英語教室で大切なこと(アイコンタクト、大きな声で、笑顔で)が書かれている(筆者撮影)

褒め言葉(筆者撮影)

 

 毎回の授業では、先生にも児童にも、目的や流れが分かるよう掲示されている。また、授業の最後には、毎回、振返りシートに記入して、何が出来たのか、出来なかったのかを児童自身が自らの学びをより明確に意識するように促している。

 

今日の授業の目的と流れの掲示(筆者撮影)

振り返りシート(クリックで拡大)

 

 ICTを活用して自らの夢を英語で発表

 

 住吉小には、タブレットPCが40台導入されている(注3)。6年生になると、将来の夢について、タブレットを使って英語で発表する。そのための発表資料をインターネットから画像を取り込んだりしながら、作成する。そして、ペアを組んで互いに発表しあい、それをビデオ撮影して、自らの発表の様子を確認し、より良い発表にするための試行錯誤を繰り返す。最後に、代表者が全員の前で発表する。

 

タブレットで発表資料を作成(学校提供)

発表資料の一例(学校提供)

 

 タブレットを使うことにより、発表資料を簡単に作成することができるし、発表の様子を確認しあうなど、プレゼンテーションの練習を複数回実施することができる。このため、どの児童も、自信を持って発表に臨める。
 (注3)ICTは、英語だけでなく他教科でも積極的に使われている。

 

 地域に開かれた学校を目指す

 

 中央教育審議会は、2015年12月に、「学校と地域の連携・協働の在り方」についての答申(注4)を出している。西東京市でも、それぞれの学校ごとに工夫を凝らし、地域との連携・協働を進めている。住吉小では、以前から地域に開かれた学校運営を積極的に心掛けてきた。

 たとえば、住吉小では、補習の時間として毎月「けやきタイム」というのを設けているが、そこに近くの保谷高校の生徒が教えに来てくれる。また、2年前には、保谷高校の生徒たちが「将来の夢」について、英語でプレゼンテーションする授業が行われた。小学生にとって、先生や親などの大人があれこれ言うよりも、少し年上のお姉さん、お兄さんの活き活きした姿を見る方が大きな影響を与えるものだ。児童たちは、自分もあのように英語で上手に発表できるようになりたいと素直に思い、とても良い刺激になった。
 
 現在の学習指導要領では、外国語教育において、「小・中・高等学校一貫した学びを重視」することが謳われている。これについて、ひばりが丘中学校の英語の先生が中学一年生ではじめてやる授業を実施してくれている。この授業を体験することによって、児童が「あぁ、中学生になる前に、英語が書けるようにならないといけないんだな」と自ら納得する。

 (注4)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1365761.htm    http://manabi-mirai.mext.go.jp/

 

 英語教育を強化するにあたって、地域の保護者等に協力を求めることになったのも、以前から開かれた学校運営を心掛けてきた流れから生まれた。2015年度から保護者等による補助活動を本格化するにあたって、2014年度と2015年度の初めに、全保護者に「英語授業ボランティアの募集に関するアンケート」が配布された。

 「やってみたい!」と答えた保護者が2015年度の一学期に英語教室に集合、どのように参加するかなどが話し合われた。その後、補助活動をする保護者たちは、英語専任の先生やATLの先生方の授業を見学し、二学期から本格的に授業に参加するようになった。先生方の時間を取ることが難しいこともあり、学期ごとに、打ち合わせや確認のための会議が一度行われるものの、日常的な先生方との授業内容の打ち合わせは、メールやそれに添付した書類を確認する方法で行われている。

 私が見学させて頂いた授業では、三好希世乃さんがサブの先生として協力されていた。三好さんのお子さんは、現在中学生だが、5年生の時に、学校が英語教育の強化に取り組み始めた。PTAの役員をしていたこともあり、担任の先生方が英語の発音などに苦手意識があって当惑しているというのを聞き及び、お手伝いしたいと思い至った。三好さんは、若い頃に、イギリスの小学校で2年間、副担任をしていた経験を持つ。まさに、うってつけの人材だったわけだ。

 現在、地域協力者は、6人。英語に関する仕事をしている方、外資系の会社で働いているお母さん、中学年児童の祖母で外国人の方、英語が得意というわけではないが教材準備を手伝いたいという方などなど。「自分のできることでお役にたてれば」、「子どもたちのためになれば」という思いで参加している方たちだ。

 

 他校でも英語教育の強化へ

 

 以上のような工夫を凝らした外国語活動を2年半行ってきた結果、なんと73%の児童が「英語で話すことは好き」と回答。担任の先生たちも、『指導略案集』をベースにしながらも、それぞれさまざまな工夫をこらすようになった。児童が楽しそうに授業を受ける様子を見るにつれ、先生たちも苦手意識が薄れ、より良い授業をしたいと考えるようになったに違いない。

 前述の分厚い『年間指導計画・指導略案集』を作成された英語専任の先生は、住吉小での実績を踏まえ、現在は、兼務で他校で外国語活動の実施に取り組まれている。

 赤ちゃんが言葉を覚えていくように、まずは、楽しみながら英語に親しみ、そこから文字や文法を覚えていくのは、理にかなっていると思われる。英語の歌を低学年ほど早く覚えるように、外国語をマスターするうえでは、小さいうちから親しむことが望ましいといえよう。オリンピックもあって、国や都は、いま外国語習得に力を入れる方向にある。住吉小の研究成果が西東京市の他の学校にも波及し、西東京市の児童たちの英語レベルが高まるのは嬉しい限りだ。

(参考文献)西東京市立住吉小学校 校長屋宮茂穂・教諭山本将司共著「実践2:新しい学習指導要領の実践- 外国語活動・ICTの日常化-」『所報第112号』平成29年度第一号、発行麻布台学校教育研究所

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。