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第20回「新しいつながり」を作ることは可能だろうか


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 前回、「住み慣れたまちで安心して老いていけるか」というテーマを取り上げた。国では、団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、急性期(高度な医療を必要とする段階)を終えた患者は、病院に入院させず、在宅(自宅または介護施設)で療養する方向に大きく舵を切った。しかしながら、「医療と介護の連携体制」や「在宅医療や在宅介護の資源」が不十分ななか、安心して老いていけるのだろうかという不安が残る。

 そうしたなか、「新しいつながり」を作ることにより、この問題は、解決できるという2人の猛者に出会った。ひとりは、早くから在宅医療に取り組み、現在は三鷹市の在宅療養支援診療所「東郷医院」で訪問診療を専門に行っている東郷清児さん(1963年生まれ)、もうひとりは、「おとなりさん。」というデイサービスを東京と福岡で運営している岩崎智之さん(1978年生まれ)だ。

 

1.地域共生社会の実現

 

 東郷清児さんは、訪問診療を30年近く手掛けてきた。現在、多くの人が「いざとなったら病院がなんとかしてくれる」と、これまでの状況が今後も続くだろうと慢心していることに危機感を抱いている。高齢化が進めば病気を持つ人、介護が必要な人は増える一方なのに対し、病院や施設という受け皿は不足しているし、介護職は足りない。単身高齢者や老老介護は、増加の一途をたどっており、家族にケアを任せれば足りるというものでもない。国が病院から在宅療養へと舵を切り、「地域包括ケアシステム」の絵を描いたとはいえ、「誰が」このシステムを担うのかを考えた場合、これまでの延長線上、すなわち医療や介護の専門職、及び家族が担うと考えるには無理があるというのだ。

 

東郷医院院長 東郷清児さん(筆者撮影)

 

 

 これまでの訪問診療の中で、在宅療養するお年寄りが「子ども達に迷惑を掛けて暮らすのは心苦しい、早くお迎えが来ないものか」と言うのをしばしば聴いてきた。東郷さんは、人間は、いつか必ず死ぬのだけれど、生きている間は、「生まれてきてよかった、生きててよかった」と思ってもらいたいと願っている。

 一方、元プロミュージシャンで末期ガンの方がミニコンサートをやりたいと希望した例がある。ミニコンサートをやれる環境を作ったところ、人前に出るのだからと、音楽練習に入る前にまず体力を鍛え、それから音楽を練習し、見事に演奏をやりとげ、とても喜んだという経験もしている。車椅子のお婆さんが、併設されている幼稚園の子ども達の世話をすることによって、表情が生き生きとする様子も目の当たりにしてきた。

 これらの経験から、病気になっても、身体が不自由であっても、「その人らしい」楽しみや生き甲斐を見つけられる社会を実現したいと考えるようになった。こうした想いは、鹿児島大学の医学部で学んでいた大学5年生の夏休みに、障害児の施設で研修を受けた経験から始まった。「障害児」というレッテルを貼られると、それぞれいろいろな能力を持っているにもかかわらず、その後は、自宅、障害者施設、病院という限られた世界でしか暮らせないことに違和感を覚えた。もっと社会のなかで、その人らしい能力を発揮できるようになるべきではないか。いま、超高齢社会にまい進する日本の課題を考えるなかで、この想いは、一層強まっている。

 東郷さんは、「地域包括ケアシステム」という根っこの上に、新しい「地域共生社会」が実現するというヴィジョンを描いている。まずは、三鷹でモデルを作ろうと、図1のような「三鷹ほすびたるけあタウン」構想を打ち出し、その具体化を目指している。東郷さんによれば、「ホスピタリティ」というのは、もともとは、「もてなし」という意味だが、広い意味では、人と人が助け合い、認め合い共存する、それによって社会が豊かになっていくことだという。

 

図1 三鷹ほすぴたるけあタウン
(資料)東郷清児さんの講演資料より

 

 「ほすぴたるけあタウン」では、次の4つを目指している。
 ① 制度・分野ごとの「縦割り」を超える
 ② 「支え手」、「受け手」という関係を超える
 ③ 地域住民や地域の多様な主体が「我が事」として福祉に参画する
 ④ 人と人、人と資源が、世代や分野を超えて、「丸ごと」つながる

 要は、下図のように、元気な高齢者が子育て世代、次世代を担う子ども、弱った高齢者を支援するとともに、弱った高齢者も、「その人なり」に社会に貢献するというイメージだ。それが高齢者にとっての生き甲斐にもなる。

 

(資料)東京大学高齢社会総合研究機構特任教授秋山弘子『長寿社会の課題と可能性』産業構造審議会基本政策部会資料(2011年6月22日)

 

 ●住まい・生活・相互扶助・楽しみ
 「ほすぴたるけあタウン」の住まいは、自宅であったり、シェアハウスであったり、サービス付き高齢者住宅であったりといろいろだ。家族がケアする場合もあるが、ボラアンティア(高齢者、障害者、住民)がケアを手伝う。東郷さんは、こうしたボランティアを「在宅お助け隊」と命名している。近くで農地を借りられれば、皆で農作業も行う。そこになんらかの経済活動が生まれると良いと思っており、けあタウン内で流通する地域通貨も構想中だ。もちろん、交流の場や集いの場も生まれ、コンサート、祭り、スポーツなどさまざまなことを楽しめる。

 

 ●教育・啓発
これを実現するにあたって、一般の人への啓発や専門職、あるいは在宅お助け隊としてケアを支援する人々への教育が必要だ。東郷医院の中にあるサロン(注1)では、月一回「夢らぼ」と称して定期ミニ勉強会を実施しているほか、漫画や本、DVDなど在宅ケアについて分かりやすい説明資料を作成、提供している。
 (注1)みんなのWa:https://www.minna-no-wa.com/

 先日頂戴した漫画は、在宅で看取りをする場合の「常識」がテーマだ。家族が自宅で亡くなった場合、多くの人は、救急車を呼んで病院に行こうと考えがちだ。しかし、病院は、病気を治す場所であって、既に死んでしまった人を受け入れてくれない。救急隊員は、警察に連絡することになる。家族が亡くなり、悲しんでいる折に、警察が来て事情聴取されるので、ショックを受けてしまう。こうした場合、かかりつけ医に連絡すれば、心穏やかに看取りをすることが可能だ。日頃から、どのような最後を迎えたいか、かかりつけ医と良く相談しておく必要がある。……といった内容だ。私たちは、これまで看取りを病院に任せてきたため、この漫画に描かれているような在宅ケアの「常識」を知らない。訪問診療を長年手掛けてきた東郷さんの経験から作られた資料は、とても役に立つ。

 

(資料)『しんぶん まんが版』 ver② 裏表4ページ

 

 「ほすぴたるけあタウン」の考え方を広く皆に知ってもらう目的で、5月18日には、三鷹市公会堂で『誰もが支え合える社会を目指して』と題した講演会(注2)を、同じような想いで取り組んでいる各分野の方々を招いて開催する予定だ。
 (注2)講演会詳細情報:https://www.minna-no-wa.com/%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/

 

2.皆が「おとなりさん。」に

 

 岩崎智之さんは、現在、東京多摩地区に3ケ所(西東京市、国分寺市、小金井市)、福岡市に3ケ所(早良区、城南区、西区)デイサービスを運営している。

 

㈱ナチュラルスタンス代表取締役 岩崎智之さん
(出所)同社HPより http://otonari30.com/

 

 デイサービスは、「おとなりさん。」という名称だ。その頭に「~お散歩&日常デイ~」と付いている。「お隣さんち」に行く感覚で通ってもらいたいとの想いからだ。散歩や体操を通して自然に身体機能を訓練し、日常生活(趣味、食事、風呂など)を通して、触れあい、思いやり、生き甲斐などの心の機能を快復する。

 デイに来られた方同士が友達になるのはもちろん、元気な方には、配膳などを手伝ってもらう。たとえば趣味を楽しむ時間で、モノづくりが上手な人は、苦手な人に教えてあげる。ここに来ると、利用者は、それぞれの社会的役割を感じることができる。時には、近くの幼稚園児の来訪もあり、共に楽しい時を過ごす。岩崎さんは、自らを介護の会社ではない、「地域力再生業」であるとしており、デイサービスを通して触れあい、思いやり、助け合いといった地域の力を取り戻したいという。

 

岩崎さんの大好きな写真(出所)同社HPより

 

 

 ●地域の力を取り戻す
 岩崎さんは、日本の今日の閉塞感は、近代化を進めることにより、行き過ぎが生じたことによるのではないか、失われたものを取り戻す時期に来ているのではないかと考えている。

 私たちは、これまで、ムラ、イエ、カイシャなどの集団を嫌い、「個」を重視する社会を構築してきた。このため、税金を払い、行政が高齢者介護、医療、障害者支援、学童保育などなど縦割りに個々の問題に税金を投入して対応してきた。しかし、それが行き過ぎて、財政負担が大きくなり、ニッチもサッチも行かなくなっている。これは子ども世代に借金を残すことだ。そうではなく、たとえば、隣のおばあさんが共稼ぎのお母さんが帰ってくるまで子どもを見ていてくれれば、お金がかからない。隣のおじいさんが転んで買い物に行けないなら、近所の人が惣菜を少し多めに作って分けてあげれば、施設に入居させなくても済む。もう一度、集団(ご近所)の生活、助け合う暮らしを見直せば、無駄に税金を使わずに済むのではないか。

 

 ●農福連携
 また、農産物もそうだ。現在では、世界中から旅してきた綺麗な姿に整えられた食材がスーパーなどで売られている。岩崎さんは、「マクロビオティック」に大きな影響を受け、「身土不二」(土地柄と季節にあった食べ物を食べる)、「一物全体」(一つのものを丸ごとたべる)であるべきと考えている。現在東京都では、農地を借りられないため、協力してくれる農家を手伝うという形で、デイサービスの全事業所で農作業を取り入れている。農作業は、利用者さんたちに評判が良い。自分たちで作ったものを皆で食べるのも楽しい。

 

「みんなの畑」でスイカの収穫。その後皆で野菜カレーを作って食べました。
(出所)同社HPより

 岩崎さんは、西東京農地保全協議会(ノウマチ)の会長でもあり、農家の協力を得て「みんなの畑」(注3)を主催している。ここには、デイの利用者だけでなく、幅広い人たちが集まる。大人も子どもも、高齢者も障害者も、ごちゃまぜになって農業体験をする。畑というこれまでの日常とは異なる場所を通して、皆が交じり合い、助け合うコミュニティづくりに繋げたい。近い将来、東京都でも、畑を借りることが可能になれば、こうした取り組みを本格化したいと考えている。

 さらに、自分たちの作った食材を使った飲食店経営にも乗り出したいと計画中だ。一般に、農福連携というと、障害者や高齢者が農業に携わることとして使われるが、岩崎さんは、この「福」には、地域全部のことが入っていると捉えている。
(注3)HP:http://www.minhata.com/

 

 ●フランチャイズ方式で地域力再生を広げたい
 岩崎さんは、もともと、飲食関係のフランチャイズ・チェーンのコンサルタントをしていた。このため、福祉の分野でも、最適なビジネス手法を見つけ、それを各地域に展開する意向だ。既に見てきたように、彼は、「地域力再生事業」をしているのであり、その入口がデイサービスというわけだ。しかし、地域力再生を想いだけで実現するのは難しい。それぞれの事業できちんと利益を上げ、地域力再生事業を回していきたいとしている。

 岩崎さんの考え方と既に始めていることは、東郷さんの「ほすぴたるけあタウン」のイメージと重なる部分がある。どちらも、老いも若きも、元気な人も弱った人も、丸ごとつながって、自分なりに社会参加し、互いに補い合う社会を実現しようとしている。お二人のヴィジョンについて、頭では納得するものの、地域共生社会を「新たに」作ると言うので、今ひとつ実感がわかない。岩崎さんは、多くの人は、お尻に火がつかないと、今の仕組みを大きく変えなくてはならない状況に置かれていることに気づかないだろうと言う。一方、既存の自治会を互助の精神で復活させた事例がある。これを見ると、地域共生社会のイメージがわきやすい。

 

3.氷川台自治会の試み

 

 東久留米市にある氷川台自治会(注4)は、西武鉄道が開発分譲した住宅が中心になってできた自治会だ。開発から60年余り経ち、高齢化が進み、自治体活動も形骸化していた。現会長の殿田俊三さんが定年を迎えて自治会長に就き、自治会改革に乗り出した。本格的な活動に向けて平成23年度に掲げたスローガンは「安心・安全で暮らしやすいまち『氷川台』」-元気で明るい自治会をみんなでつくろう!!であった。
 (注4)HP:http://kuru-chan.com/0484hikawajichi/

 

課題解決への取り組み
(出所)殿田俊三「地域で楽しく暮らし続けるために」~氷川台自治会の取り組み~
西東京市南部地域協力ネットワーク・西東京市共催「暮らしに役立つ講演会-地域でつながろう!-」資料より

 

 上記6つの課題を抽出し、それぞれに取り組んでいった。現在の自治会活動としては、資源ごみ集団回収、青空野菜市、焼き菓子販売会、サンドウイッチ販売会、ふれあいサロン、子育てサロン、認知症カフェ、マージャン教室、パソコン教室、うどん打ち教室、ラジオ体操の会、健康体操教室、ハイキング会、バス旅行、ゴルフ同好会、囲碁同好会、氷川台農園農夫の会、ジャガイモ掘り大会、サツマイモ掘り大会、餅つき大会、夕涼み会、春の防災訓練と秋の要援護者支援避難訓練など、年間を通して実施している。

 これらの活動は、年度役員会とは別に設けられた各種委員会が中心になって企画し、参加者の「支え合い・助け合い」で自主的に運営実施されている。こうした課題解決のための委員会やさまざまなイベントを通して、会員同士が顔見知りとなり、温かいふれあいのあるコミュニティになってきている

 氷川台自治会では、高齢になっても住み慣れた地域で安心・安全に暮らし続けるため、「地域包括ケアシステム」の構築に向けて取り組んできた。平成24年から、高齢者対策として、「見守り」を開始した(見守り希望者30名、見守り支援隊員24名)。単なる見守りでなく、困っていること(庭の草むしりなど)にも対応してくれる。また、平成25年から、近くのクリニックの医師からアドバイスを受けて認知症に関する勉強会を開始、認知症サポーター養成講座の実施、認知症患者を地域で見守る体制づくりのため電話番号掲載の促進(平成26年)、認知症カフェの開設(平成29年)をしてきた。

 さらに、平成29年には、高齢者移動お助け隊事業を始めた。氷川台自治会は、高台に位置し、駅との間には急な坂があり、公共交通機関もないため、買い物や医者へ行くのにタクシーを呼ぶ人が多い。東久留米市でもコミュニティバス運行を計画しているものの、実施までのスケジュールが見えない。

 そこで、自治会として独自に対策をせざるをえないと考え、障害者施設「社会福祉法人龍鳳 ライフパートナーこぶし」と協議を重ねた。結果、法人が事業主となり、法人の福祉車両を使用し、自治会会員が運転ボランティア登録することにより成り立つ「氷川台高齢者お助け隊」事業を立ち上げ、コミュニティバス「お助け号」を運行することになった。

 

「お助け号」でイオンに到着した皆さん
(出所)HPのブログ2017年12月31日より

 

        *

 いかがだろうか。
 その土地、土地によってやり方は異なるだろうが、どうやら、急速に進む超高齢社会を乗り切るには、やはり「新しいつながり」を構築し、自立・共助で乗り切るしかないようだ。自分のまちを誰かが良くしてくれると待ってはいられない。自分のまちを住みやすくするには、関わる全ての人が超高齢社会の到来を自分事として認識し、「当事者意識」を持って取り組むしかない。
(写真・画像はすべて筆者提供)

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師(2017年まで)。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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