第21回 外国人にも住みやすいまちに


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 なにげなく街をあるいていると、すれ違った人達の話している言語が日本語ではないのに気づくことが増えた。私の通っている耳鼻科でも、時折、外国人の患者がいる。意識して観察すると、予想以上に外国の人を見かける。西東京市は、観光の街ではないから、この人達は、この街に住んでいる人なのだろう。

 

Gさん(フィリピン男性)とMさん(日本女性)の例

 

 なんとか、このまちに住む外国人にお話しを伺いたいと思い、いろいろな伝手でお願いしたところ、市内でボランティア日本語学校を運営している方の知人であるGさんとMさんを紹介していただけた。

 Mさんは、英語が堪能、日本のホテルで働いており、パラオにある系列のホテルに2年間出向し、コンシェルジュとして働いていた。その折に知り合ったのが、同じホテルでベルボーイとして働いていたGさんだった。2年間一緒に働くなか、2人は、結婚する意志を固めたものの、Mさんが転勤で日本に戻ることになり、Gさんは、勤めを辞めて来日することになった。

 

GさんとMさん(筆者撮影)

 Gさんは、日本語が分からないので、当初は、有料の日本語学校に通うことも考えていた。しかし、Mさんのお母さんの知人がボランティアで日本語学校を運営しているとの情報を得て、いろいろ調べたところ、西東京市には、ボランティアの日本語学校が多いことを知り、実家のある小平市から西東京市に移って新居を構えることにした。

 今、Gさんは、90日の観光ビザで来ており、この間に日本語を猛勉強したいと、月・火・水・木・金と別々のボランティア日本語学校に通っている。Mさんが仕事に出かけていて日本語学校の無い時間帯には、自転車で小金井公園に行き、バスケットボールを楽しんでいる。そこで、2人のフィリピン人の友達ができたという。

 新生活のために、仕事を探しており、日本語が不自由な場合、建設関係やハウスキーピングの仕事の募集が多いという。9年間ベルボーイとして働いてきたので、ホテル関係の仕事だと嬉しいものの、働けるなら、まずは、そこで働きながら、日本語のレベルを上げて、より良い仕事を目指したいとのことだ。

 西東京市に住んでみての印象を伺うと、「店や公園が近くにあって便利」、「自分は小金井公園で同じ国の友達が出来た。もっといろいろな人たちと交流できれば、互いに助け合えるのに」と言っていた。私には、手続きについて詳しいことは分からないけれど、長期間滞在できるビザが下り、良い仕事を得て、生活基盤が安定することを祈るばかりだ。

 

急増している外国人住民

 

 西東京市の統計を見てみると、平成16(2004)年の2,646人から平成30(2018)年の4,283人と、ここ14年の間に、1,637人も増えている。図にみるように、2008年~2011年にかけて一度増えたのだが、その後一旦減少し、ここ5年くらいの間に再び1,300人も急増している。総人口に占める比率は、2.13%となっている。

 

西東京市の外国人住民とその世帯数の推移(出所)西東京市HPより(各年4月1日現在)

西東京市の外国人住民の動向(出所)西東京市HP 住民基本台帳

 

 西東京市在住の外国人住民を国別にみると、中国、韓国、フィリピンで外国人住民の約7割を占めている。平成25年から平成30年にかけて、増加が目立つのは、ベトナム、ネパール、インドネシア、ミャンマーである。在留目的については、国の統計しかないので、留学で来ているのか、仕事で来ているのか分からない。ただ、年齢別の構成をみると、19歳以下も多く、家族で暮らしている人達もそれなりに多いことが伺える。

 

年齢別にみた外国人住民(H30年3月末)(出所)西東京市HP 住民基本台帳

 

 こんなに急激に外国人住民が住むようになったのは、どうしてだろう。また、この方たちは、周りの人たちと上手くやれているのだろうか。そんなことが心配になって、少し調べてみた。

 

住民登録する時に渡されるもの

 

 外国人が西東京市に住民登録する時に、どのような書類を渡されるのか窓口で聞いてみた。

1. 「西東京市に転入された方へ」というパンフレット。これは、各種手続きについて書かれており、日本語のほか、英語、韓国語、中国語で書かれている。

2. 「ゴミの出し方」についてのパンフレット。ゴミの出し方は、生活するうえで、しばしばトラブルになりやすいもので、英語版、韓国語版、中国語版が用意されている。

 

西東京市のゴミの出し方について市が配布しているパンフレット(筆者撮影)

 

3. 「西東京市のHPの多言語翻訳ページのお知らせ」。西東京市のHPを英語、中国語(簡体字、繁体字)、韓国語で見ることができると説明されている。実際にHPを見てみると、右上に多言語を選択する箇所があり、そこをクリックすると、「ホームページを民間の自動翻訳サービスを利用し、英語・中国語・韓国語に翻訳します。自動翻訳システムによる機械翻訳のため、必ずしも正確な翻訳であるとは限りません。(後略)」と書かれているものの、ある程度のことは理解できるようになっている。(http://www.city.nishitokyo.lg.jp/multilingual/index.html

4. 『西東京市くらしの情報』(最新号)。これは、『広報西東京』から主要な情報を抜出し、西東京市多文化共生センター(NIMIC:Nishitokyo Multicultural Center)が翻訳したもので、日本語ルビ付き、英語、中国語、韓国語で作成されている。市のHPからバックナンバーを読むこともできる。

5. 「西東京市多文化共生センター」のパンフレットと「西東京市内で実施されている日本語教室の案内」。西東京市では、毎日市内で、ボランティアの日本語教室が開催されている。場所や時間帯も片寄らないように心掛けられおり、12の教室がある。うち柳沢公民館では、保育付きの「子育て中の外国人女性のための日本語講座」を開催している。

 

西東京市日本語(ボランティア)教室案内のパンフレット

 

6. 「外国人のためのリレー専門家相談会(無料)」のお知らせ。これは、東京都国際交流委員会が事務局になって実施しているもの。日本語ルビ付き、英語、中国語、韓国語のほかに、タガログ語(フィリピン言語の一つ)でも書かれている。

7. なお、日本語でもよければと、『西東京市暮らしの便利帳』ほか、日本人が住民登録する際に配布される資料を入手できる。『暮らしの便利帳』についても、主要な情報については、HPで日本語ルビ付き、英語、中国語、韓国語で見ることができる。
http://www.city.nishitokyo.lg.jp/english/guidebook.files/Nishitokyo_City_Living_Guidebook.pdf

 このように、まず、外国人が西東京市に来て、最初に向かう住民登録の窓口では、それなりに丁寧な対応がなされている。

 

西東京市多文化共生センター(NIMIC)

 

 NPO法人西東京市多文化共生センター(代表:山辺真理子)は、異なる文化的背景を持つ人々が、宗教や信条、生活習慣の違いを互いに理解し尊重し合い、偏見や差別意識を持つことなく、共に地域で暮らす「多文化共生社会」を築くことで、世界平和に寄与することを目指してさまざまな活動を行っている(注1)。もともとは、市主催の「国際交流組織設立検討懇談会」をきっかけに2006年に出来た団体で、2008年にNPO法人格を取得した。イングビルにある市の外国人住民相談施設「西東京市多文化共生センター」の運営を委託されている。
(注1)http://www.nimic.jp/

 NIMICの事業は、多岐にわたる。詳しくは、HPをみていただくとして、
1. 多文化理解促進のための事業:留学生ホームビジット、留学生と在住外国人との交流忘年会などの身近なふれあいの場づくりや英語で遊ぼうなど子どもの年齢に応じた外国人とのワークショップ、日本語スピーチコンテスト、二胡や馬頭琴の演奏会や体験講座など。
2. 地域に在住する外国人の支援事業:相談窓口(月~金の10時~16時)を設けているほか、通訳や翻訳などの多言語サポート、子ども日本語教室を実施していている。子ども日本語教室では、単に日本語を教えるというのではなく、一緒に教科書を読むなどのサポートもしており、小学生向けに3教室、中学生向けに1教室やっている。また、保護者への進学情報提供、教育相談にも通訳ボランティアの協力を得て対応している。HPをみると、小学校入学案内についての詳しい案内も英語、中国語、タガログ語で用意されている。
3. 多文化共生に向けての活動を活性化するための事業:市と共催で、日本語ボランティア入門講座を実施しているほか、多文化共生を進めるボランティアや団体のネットワーク化を進めている。

 NIMICは、西東京市の外国人住民相談施設を受託していることもあり、西東京市で暮らす外国人にとっての駆け込み寺のような役割を担っている。日本語の不自由な外国人から、「病院に付き添って欲しい」、「子供の小学校入学にあたって配布された資料が良く分からない」等々、さまざまな相談や依頼が舞い込む。それらに、通訳や翻訳をしてくれるボランティアを探すなどして対応している。

 NIMICは、2016年に、設立10周年を記念して、アンケートを実施した(注2)。外国人住民の調査対象者は、日本語教室の受講生やNIMICで翻訳や通訳に携わっている外国人とその友人・知人に限られているということもあるが(有効回答数124)、半数近くの人が「暮らしていて困っていることは特にない」と答えている。

 (注2)NPO法人西東京市多文化共生センター『西東京市の多文化共生この10年と今後に向けて』のなかの、「多文化共生アンケート調査結果~外国人市民実態調査・日本人市民意識調査~」。外国人住民の調査対象者は、日本語教室やNIMICに関わっている外国人とその友人・知人に限られている。

 一方、「困っている」と答えた人の第一は、病院、日常生活、学校での言葉の問題を挙げている。第二は、病院では、所在地情報、日常生活では、ゴミの出し方が挙げられている。困った時の相談先としては、同じ国の友人が最も多い。しかし、日本人の知人や日本語教室のスタッフ、市役所や多文化共生センターも、それなりの比率で挙げられている。

 

(出所)NIMICのアンケート調査より

 

 私が「統計を見て、外国人住民が増えており、どんな様子か伺いに来た」と訪ねたところ、やはり、相談件数が増えて、対応に追われているとのことであった。対応して下さった方は、「NIMICや日本語教室につながってさえくれれば、困りごとについて、なんとか手助けできるけれども、そこにつながっていない方たちが心配だ」と言われていた。

 

子ども家庭支援センター「のどか」

 

 日本語教室につながる以前に、どのようなことに困っていたのか、どうやって日本語教室につながることができたのかを知りたくて、柳沢公民館の「子育て中の外国人女性のための日本語講座」に通っている方にお話しを聞けないものかと問い合わせたところ、受講生は、子育て中で時間を取りにくいとのことであった。ただ、担当の方から、「ここに来る方は、保健師さんや子ども家庭支援センターなどからの紹介が多いので、そちらに聞いてはどうか」とアドバイスを頂いた。

 住吉会館内にある子ども家庭支援センター「のどか」の職員によると、大きく2つのルートがあるようだ。一つは、市内にある子育てひろば(0歳~3歳)や児童館(0歳~18歳)などに親子で来て、親同士も知り合いになって情報を得るほか、職員にはいつでも相談ができる。相談内容により心理相談や日本語教室の存在を知る。

 もう一つは、助産師や保健師が出産した全ての家庭を訪問する「こんにちは赤ちゃん訪問」の折に、相談されたり、家庭状況を見たりして、必要な解決策を講じる(その一つとして日本語教室を紹介することも)。これらは、外国人に限らない住民サービスであるが、知人の少ない外国人のお母さんにとっては、心強いサービスと思われる。

 西東京市内には、コール田無内に「ピッコロ広場」(市外の方でも利用可)、住吉会館内に「のどか広場」がある。「のどか広場」を例にすると、年間2万8000人の利用で、一日当り80人を超える。土日には、お父さんも一緒にやってくるという。外国人の場合でも、子ども同士が最初に友達になり、親も知り合いになったりする。また、職員は、利用者たちに一緒に遊べるゲームをさせるなど、知らない人同士が知り合える工夫もしている。中国の方などは、結構、仲間で集っているとのこと。

 

「のどか広場」の様子(出所)市のHPより

 

 「こんにちは赤ちゃん訪問」や「3~4ヶ月健診」の際に、不安や問題を抱えている家族の場合には、保健師などが継続して様子を見たり、相談にのったりする。外国人の場合には、言葉が通じないことも多く、またビザの切り替え等の手続きや宗教上食べてはいけないものなど難しい問題もある。子どもが外国人だからといじめを受け、不登校になることもある。そうしたやや込み入った話の場合には、子ども家庭支援センター「のどか」がケースごとに、関係のある多様な関係部署・機関等に声掛けし対応するようにしている(図参照、注3)
 (注3)要保護児童対策地域協議会(要対協)は、外国人に限らず、児童福祉法に基づいて設置された子ども守る地域ネットワークのこと。

 

(出所)『子ども虐待防止のための発見・対応マニュアル』より

 

 子ども家庭支援センターとしては、妊娠・出産から子どもが大きくなるまで、切れ目のない見守りと支援を目指している。しかし、これから外国人住民が増えることを考えると、言葉の問題もあり、ケースごとに課題は多様・多岐にわたるので、支援するのはとても大変だろう。

 

人手不足が拍車をかけている

 

 西東京市に限らず、全国的にも外国人住民は増えており、人手不足が大きく影響しているようだ。丁度この問題を調べ始めた途端に、政府の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」の原案が発表され、外国人労働者の流入拡大を認める方針が示された。報道によれば(注4)、2025年頃までに、50万人超の受け入れ増を見込むとしている。
 (注4)ロイター通信:https://jp.reuters.com/article/japan-foreign-workers-idJPKCN1J20OL

 日本では、これまで、外国人に対し、単純労働分野の門戸を閉ざしてきた。しかし、実質的には、研修・技能実習制度や留学生の目的外活動を通して、人手不足に悩む産業での単純労働を外国人によって賄ってきたのは、良く知られたことである。ようやく、少子高齢化で深刻な人手不足に当面し、政府として、本格的に外国人労働者の流入拡大を打ち出すこととなった。

 研修・技能実習の名の下に、低賃金など厳しい労働環境下に置かれていたケースも多く、こうしたことを取り締まるための法改正は、幾度もなされてきた。また、平成18(2006)年には、外国人労働者問題関係省庁連会議「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」が打ち出され、社会の一員として日本人と同様の公共サービスを享受し生活できるよう環境整備が必要とされた。具体的には、①暮らしやすい地域社会作り(日本語教育の充実、行政・生活情報の多言語化など)、②子供の教育、③労働環境の改善、社会保険の加入促進、④在留管理制度の見直し等が挙げられ、予算措置もなされている(注5)
 (注5)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gaikokujin/index.html

 

(出所)法務省『出入国管理』平成29年版に外国人向け法改正等を筆者加筆
(注1)本数値は、各年12月末現在の統計である。(注2)昭和60年末までは、外国人登録者数、平成2年末から23年末までは、外国人登録者数のうち中長期在留者に該当し得る在留資格をもって在留する者及び特別永住者の数、24年末以降は、中長期在留者に特別永住者を加えた在留外国人の数である。(注3)「我が国の総人口に占める割合」は、総務省統計局「国勢調査」による各年10月1日現在の人口を基に算出した。(クリックで拡大)

 

外国人が心地よく暮らせるように

 

 西東京市で夜間のボランティア日本語学校を運営されている方によると、現在の受講生は、技能実習生が多いという。西東京市や近隣市の企業から、毎年、受講の依頼がある。受講生は、昼間は、受け入れ先企業で実習し(働き)、夜間に日本語を勉強しにくる。日本語能力試験を受けて、資格を得ると、入国や就職に有利になるとのことで、皆一生懸命勉強しているという(注6)
 (注6)日本語能力試験は、1984年年に、国際交流基金と日本国際教育支援協会(当時:日本国際教育協会)の2団体が共催で開始。

 冒頭のGさんのところでみたように、ボランティアの日本語学校は、西東京市には11あるのに対し、「多摩六都日本語教室案内」によると、清瀬市と東村山市には1、東久留米市に5、小平市に6となっており、確かに、西東京市は、盛んと言える(注7)
 (注7)多摩六都日本語教室案内(PDF)には、西東京市の柳沢公民館の「子育て中の外国人女性のための日本語講座」は、掲載されていないので、他市にも、ほかにあるかもしれない。

 先にみたように、国としても、外国人の定住化増加に伴って、「『生活者としての外国人』に関する総合的対応策」を打ち出すなど、外国人が日本人社会に溶け込んで暮らせる必要性を感じている。外国人が日本人社会になじむだけでなく、日本人も多様な文化を理解し、共に心安らかに暮らせるようおおらかな気持ちを持つ必要があるだろう。NIMICや各日本語教室では、日本語を教えるだけでなく、さまざまなイベントや交流会なども実施している。

 外国人住民が増えると聞くと、欧米での昨今の激しい摩擦を思い浮かべ、不安を感じる論調も多い。しかし、考えてみれば、ついこの間である「戦後の高度成長期」には、日本中からそれぞれのお国訛りを持つ多様な人々が東京などの大都市に集まってきた。日本は、シルクロードの昔から、多様な文化の終着点であり、さまざまな文化を混合させて素晴らしい日本文化を生み出してきた。今後さらに強まるであろう文化の混沌は、新しい時代を生み出すチャンスかもしれない。
(写真・画像は筆者提供)

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師(2017年まで)。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

 

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