第5回 遊休不動産のリノベーションとまちの再生


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 最近では、寂れた商店街や古い建物が多い地域で、遊休不動産の内装を変え、新しい使い方をすること(リノベーション)によってその建物だけではなく、産業振興、雇用創出、コミュニティ再生、エリア価値の向上など、地域全体を再生する試みが盛んになってきている。今回は、面白い事例を2つ紹介したい。

 

 1. 北九州家守舎-小倉駅前魚町商店街の再生

 

 「家守」とは

 その一つが北九州市小倉駅の商店街をリノベーションし、都市型ビジネスの集積を進めている北九州家守舎やもりしゃだ。
北九州市は、小倉駅近くの魚町(うおまち)商店街をデザインやコンサルタントなどの都市型ビジネスを集積して活性化を図ろうと、リノベーションの専門家を招聘し、「小倉家守構想」(2011年3月)を策定した。

 この実働部隊として、2012年4月には、㈱北九州家守舎が設立された。代表は、東京豊島区に㈱らいおん建築事務所を構える嶋田洋平さん。彼は、小倉の隣り八幡の出身である。

 「家守やもり」というのは、江戸時代における長屋の大家の呼称であり、単なる借家管理や家賃徴収のみならず、借家人の生活面の面倒や地区マネジャーのような雑事に至るまで全般的な仕事をこなしていたという。(注1)

 (注1) 家守の機能に注目し、現代に活かそうと考えたのは、前回の紫波町にも登場した㈱アフタヌーンソサエティの清水義次さん(建築・都市・地域再生プロデューサー)。表参道や東神田でリノベーションによるまちの再生に取り組み、その実績を買われて北九州市からお声がかかった。

・北九州市リノベーションまちづくりの推進:http://www.city.kitakyushu.lg.jp/san-kei/27200001.html
・㈱らいおん建築事務所:http://www.lion-kenchiku.co.jp/
・㈱北九州家守舎:http://www.yamorisha.com/

 

 リノベーションによるまちづくり

 嶋田さんによると、小倉は、もともと重化学工業のまちで、それなりの人口規模なのだが(注2)、新幹線や高速道路網が出来て、福岡に出やすくなってしまった。にもかかわらず、それまで一等地であったため、不動産価格が高く、大手企業のチェーン店しか入れない。大手はシビアなので、人通りが少なくなればすぐに引き上げる。こうして、空き店舗が増えてしまう。しかし、一方で、何かやりたいと思っている人はいる。こういう人たちが使いやすいように小分けにすれば、需要が生まれるのだという。

(注2) 小倉駅のある小倉北区の人口は、昭和48年には約37万人であったが、平成26年には約18万人と半減している。

 リノベーションによるまちづくりを分かりやすく説明すると、次のような仕組みである。20年くらい借り手のない施設を仮に月5万円で賃貸し、それをブースで小分けにして5人の起業家にそれぞれ7万円で貸し出せば35万円となる。改装にかかる費用は、家守舎が負担する。35万円から5万円を差し引いた増加分30万円のうち、オーナーにも10万円バックし、改装にかかった費用10万円、残り10万円を次のリノベーションのために使う。オーナーにも、起業家にも、家守舎にも、三方にメリットが生まれる仕掛けだ。大概は共用スペースを設け、そこでテナント同士の交流が図れるようにしている。

 ここで問題なのは、遊休不動産のオーナーが再生に対しその気になってくれることだ。北九州市では、「小倉家守構想」を実行するために、地元の産官学連携任意団体「北九州市まちづくり推進協議会」が発足した。協議会の会長でもある中屋ビルのオーナー梯輝元さんがこの構想に賛同し、いちはやく自社ビルをリノベーションで再生させ、手本を見せてくれたことは大きいと思われる。2011年6月には、「メルカート三番街」、7月には「フォルム三番街」が誕生した。

 北九州市のHPによれば、「平成28年4月までに19件の物件が再生され、445人の雇用が創出」されたという(注3)

 

(出所)北九州市HPより作成

 

 

 リノベーションスクール

 北九州市のリノベーションによるまちづくりの核になっているのが「リノベーションスクール@北九州」である。

 2011年8月から年2回、4日間のカリキュラムで、全国からリノベーションやまちづくりに関心のある若者が集まる。4日間の間に、10名前後のユニットとなって、遊休不動産を活用した新しい事業計画を策定し、オーナーに提案。「良し」となれば事業化に進む。これまでに11回開催してきた。

 前述のように、不動産オーナーが再生にその気になってくれることが重要であるため、最近では、リノベーションスクール開催にあたって、前もってオーナー向け講座を開催し、スクールで検討する物件(遊休不動産)を確保しているという。

 北九州のリノベーションスクールの受講生がそれぞれの地元に戻って、スクールを開講したり、家守舎をつくるなど、この動きは、今日では全国に広がっている。前回取り上げた紫波町でも、旧市街地である日詰地区を対象にリノベーションスクールが開催された。

(注3) テナントは、口コミなどで見つけるらしい。地元ならではの情報ネットワークが有効とのこと。

・全国のリノベーションネットワークHP:http://re-re-re-renovation.jp/

 

リノベーションスクールに集まった人たち(前列のピンクのTシャツが清水さん、隣の黄色のTシャツが嶋田さん)
(出所)北九州家守舎の募集案内より

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