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第2回 「オレンジカフェ保谷駅前」始まる


 三輪隆子(みわ内科クリニック)


 

「認知症カフェ」の歩み

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 今回は、「オレンジカフェ保谷駅前」についてご紹介させていただきます。
 皆様「認知症カフェ」をご存知ですか? 認知症の方やその御家族、認知症の医療や介護の専門家、さらには地域の方々が、気軽に集まって交流する居心地のいい場所、それが「認知症カフェ」です。1997年にオランダで「アルツハイマー・カフェ」として始まり、イギリスやアメリカなどで広がってきました。日本でも2012年頃から開催されるようになり、国の認知症施策である新オレンジプランで取り上げられて以来、全国で数が増えています。

 私も昨年6月から、「オレンジカフェ保谷駅前」という認知症カフェを仲間と一緒に始めました。毎月第3木曜日に、西武池袋線保谷駅前のステアビル5階の保谷駅前公民館で、午後2時から午後4時まで開催しています。最近ようやくカフェのスタイルが出来上がり、毎月の開催を楽しみにして下さる常連の方もできました。

 

オレンジカフェのスタッフたち(前列でポスターを掲げる筆者)

オレンジカフェの会場

 

 私はこの10年、多くの認知症の患者さんや御家族と関わってきました。認知症の治療では、人と交流し体を動かしできるだけ知的活動を続けていくことが、薬を飲むこと以上に大切です。

 「今までやってきた趣味の活動を続けてくださいね。」「散歩や体操をしてください。」「どこにも出かけるところがないなら、デイサービスに行ってはどうですか。」などと勧めています。それでも、認知症のために気力が落ちてしまい、日課にしていた散歩をしなくなった。今まで通りにできなくなって周りに迷惑をかけるからと、長年続けたお稽古事を辞めてしまった。だからといって、自分はまだ一人で何でもできるからデイサービスには行くほどではないのだと多くの方が口にされます。

 熱心なご家族ほど一生懸命にいろいろするように働きかけ、頑張れば頑張るほど本人の気持ちとすれ違い衝突することが多くなります。本人の気持ちは十分にわかるけれども、なんで言うこと聞いてくれないのだろうと家族のイライラが溜まってきます。診察室でそんな話を聞きながら、できる範囲でアドバイスをしてきましたが、やはり診察時間の中では十分な対応はできません。より良い認知症治療をするためには、認知症の方や御家族両方の思いを受け止めることができ、認知症について学べる場所が必要だとの思いを強く抱くようになりました。

 私に何ができるだろうと自問自答する毎日。まずは、クリニックで家族の勉強会でも開こうかな…と思っていた頃“その時”が訪れたのです。

 

「居場所作り」の仲間たち

 平成27年冬、栄町地域包括支援センターの皆様が当院を訪ねてこられました。年初めのケアマネージャーと顔合わせの会で話をしてくれないかとの事でした。神妙な顔でお話を聞きながら、「やった!これは降ってわいたようなチャンスだぞ。」と心の声が聞こえました。講演はお受けしますが、交換条件として、認知症の方や御家族のための居場所づくりを一緒にしてくださいねとお願すると、嬉しいことに自分たちもやりたいと思っていたのだと二つ返事で引き受けてくれました。これで、一歩前に進んだと喜んだのですが、その時の私は、「認知症カフェ」の知識はほとんどなく、どのような形で居場所づくりをするのか、全く形は見えていませんでした。

 そんな曖昧な私の思いを形にして実現してくれたのが、今一緒に活動している仲間の皆様です。栄町地域包括支援センターと認知症カフェ開催経験のある富士町地域包括支援センターがタッグを組み、保谷駅前公民館は場所を貸してくださるだけでなく運営にも参加してくれることになりました。地域の居場所づくりを進めている西東京市社会福祉協議会からの助言や協力も受けられることになりました。カフェの運営には市民ボランティアの力を借りることになり、平成28年6月に第1回のカフェ開催をすることが決定しました。形式はどうであれとにかく継続が大切と、毎月1回開催することをだけは最初に決めました。

 

オレンジカフェを始めた人たち。左から三輪隆子さん、前山倫さん(富士町地域包括支援センター)、北波恵子さん(栄町地域包括支援センター)、新堀彰子さん(保谷駅前公民館)(みわ内科クリニック)。括弧内は2016年6月当時の所属職場

 

キーワードは「笑顔」

 カフェを始めるにあたって、ボランテイアの方も含めて関係者で意見交換をしました。その中で皆の意見が一致したのは、とにかく認知症の方やご家族がほっとできるくつろげる場所にしたいということです。そのための居場所を作ろうということになりました。キーワードは「笑顔」です。つらい毎日の中でも、ひと時でも笑顔になって帰っていただけるような場を作っていこうということになりました。その役割の中心になるが市民ボランティアの皆様です。

 もう一つは、認知症の関連する医療や介護の相談を気軽に受けることです。認知症診療をしている医師である私と、認知症の介護福祉の専門家である地域包括支援センターの職員がいつもおりますので、様々な相談をお受けすることができます。認知症の方も、認知症ではないが将来の事が心配な方も、様々な疑問やどこに相談していいかわからないことなど気軽に相談できる場所でありたいと考えました。

 さて、平成28年6月16日に第1回のオレンジカフェ保谷駅前を開催しました。たくさんの方が来られましたが、ほとんどが関係者。認知症の方や御家族の参加はひとりもなし。覚悟はしていたもののちょっぴり落ち込んだ私です。しかしケアラーズカフェを開いているボランテイアの方の、「僕のところも初めの数回は誰も来ませんでした。地道に続けていると必要としている人がだんだん来てくれます」という言葉に勇気づけられました。皆様のニーズにこたえられるよう、良い場所を作り、多くの人に知っていただくように広報に力を入れようと皆の気持ちが一つになりました。

 今年の5月で12回目を迎えます。今は、毎回十数人の方が参加して下さるようになりました。認知症の方や御家族の参加も毎回あり、常連の方になった方もいます。楽しいイベントも企画しました。次回はオレンジカフェの活動の様子を説明したいと思います。
(三輪隆子)

©ks_skylark

 

【筆者略歴】
 三輪隆子(みわ・たかこ)
 認定内科医、神経内科専門医、身体障害指定医(肢体不自由、音声言語、平衡機能障害)。西東京市医師会理事。
 静岡県清水市(現静岡市清水区)出身。信州大学卒業後、信州大学第3内科入局。佐久総合病院で地域医療を研修後、東京都立神経病院、狭山神経内科病院で神経疾患、難病の診療に従事。1995年(平成7年)国立身体障害者リハビリテーション病院神経内科医長。リハビリテーションのほか社会復帰、療養・介護など福祉的な問題にも取り組む。2007年(平成19年)1月「みわ内科クリニック」院長。2013年(平成25年)6月医療法人社団エキップ理事長兼務。2017年(平成29年)4月から理事長。