第5回 遊休不動産のリノベーションとまちの再生

 

 2.MAD City-松戸駅から半径500mにクリエイティブな自治区をつくる

 

 まちを遊びつくして不動産の価値を高める

 千葉県松戸市でも、面白い試みがなされている。松戸駅から半径500mのエリアを「MAD City」と名付け、遊休不動産の再生により、まちを活性化している。これを展開しているのは、㈱まちづクリエイティブ代表の寺井元一さんだ。

 寺井さんは、松戸に住んでいるわけではないが、イチからまちをつくることを事業化しようと起業した。2010年から松戸で仕事を始め、今では、本社を松戸市に移している。借り手のない不動産をまちづクリエイティブが賃貸し、それをさらにクリエーターらに貸し出す。

 MAD Cityを始めるにあたって、次のようなビジョンを掲げた。

・クリエイティブな自治区をつくろう。
・刺激的でいかした隣人をもとう。
・地元をリスペクトし、コラボを楽しもう。
・変化を生み出そう。新しいルールを発明しよう。
・仕事場も住居も、DIY精神で自由に創造しよう。
・河辺でも通りでも駅前でも、街を遊びつくそう。

 ・MAD City:https://madcity.jp/
 ・㈱まちづクリエイティブ:http://www.machizu-creative.com/

 

MAD Cityは半径500mの円を主な範囲としており、ロゴは地図を模している。
(出所)MAD CityのHPより

 

 特徴的なことは、借り手が自分で内装を変えても良いとしたことだ。一般に賃貸の場合には、借りた時の状態に戻すことが条件になっていることが多いが、ここではもとに戻さなくて良い。クリエーターたちなので、どんどん内装を変更する。そうすると、前より個性的な部屋ができる。その後、借り手が人生の節目などで引っ越しする際、次に借りる人は改装前より高くても借りたいと言う。部屋の価値が上がったのだ。

 そうして不動産の相場が高くなったら、オーナーにも還元し、改装した人にもキャッシュバックする。もともとは、アーティストなど、DIY(Do it yourself)でどんどん直してしまう人の入居が多かったが、DIYをしたことが無い人には、リノベーション・チームも紹介するし、最近では、DIYの講習会も始めている。

 MAD Cityに入居すると交流ルームを利用したり、飲食店ビルの最上階をリノベーションした交流スペース「FUNCLUB」を割引で利用したり、各種のイベントに参加したりできる。

 

 アーティスト・イン・レジデンス

 物件には、築年数を経たマンションや旧街道沿いの古民家のほか、駅前にある元ラブホテルまである。ここの1階から3階はパチンコ店「楽園」が利用しているが、そこから上が空いていた。部屋の防音が良いため、音楽や演劇の練習などにはもってこいだ。そこで、借り上げた部屋を「PARADISE AIR」と命名し、物件として扱っている。

 この物件では、まちづクリエイティブ元社員が起業したアート系の社団法人PAIR、さらに松戸市の協力により、外国のアーティストを滞在させる「アーティスト・イン・レジデンス」も実施している(注4)。中核となる長期滞在のプログラムでは、2016年に66の国と地域から296人の応募があった。また、短期で滞在するアーティストも受け入れており、現在は2人が居住している。

(注4) 松戸は、かつて宿場町だった。宿場町では、お金のない文人が掛け軸などを置いていったという話がある。外国のアーティストを只で住まわせるが、何か作品を置いて行ってもらう一宿一芸という現代版宿場町をコンセプトにしている。

 

PARADISE AIRの外観(上)と入居者用のお洒落な入口(著者撮影)

 

 つづく世界をつくる

 寺井さんは、入居者が自律的にいろいろなことを始めて、チームをつくることで不動産やまちのソフト価値が高まっていくことを志向しており、これを「アソシエーション・デザイン」と呼んでいる。たとえば、住民同士でイベントをしたり、庭でクラフトマーケットを開いたり、屋上でビアガーデンをしたり … MAD Cityではこのような取り組みが実際に生まれている。

 また、地元の文化(祭りや歴史)を大事にしたいと思っており、地元の祭りにも参加しているし、逆にMAD Cityがイベントを開催し、そこに地元の人たちにも参加してもらっている。寺井さんはこの事業を進めるにあたって、町会長や行政と一緒に勉強会を重ねたほか、祭りの時には警備の手伝いをするなど、他の場所から来たからこそ丁寧な対応をしてきた。これが地元からの信頼を得ることにつながっている。

 寺井さんは、「つづく世界をつくる」とも言っている。日本ではこれまで新築が一番価値が高いとされていたが、そうではないのではないか。建物自体が壊れ、いつかは再投資することになるとしても、ソフト価値を高めることでより長く価値を維持できるのではないかと考えている。つづく世界をつくるという意味には、単にスクラップ&ビルドを繰り返すのではなく、リノベーションによって持続可能性な社会にするということや、まちづくりにおける財源自立化などが込められている。結果、図のような良いスパイラルが生まれていることも伺える。実際、6年経ってみて、最初に掲げたビジョンがほぼ実現しつつあるという。

 

図は、寺井さんの話を筆者が整理した

 

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