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第8回 静岡にみた協働の底力-「いっしょに、未来の地域づくり。」


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 静岡県では、とても自然な感じで国・県・自治体・企業・NPO・市民・学生・生徒の間で当たり前のように「協働」が行われている。それも窓口となっているのは、県の交通基盤部建設技術監理センターなのだ。交通基盤部というのは、いわば、インフラを整備・管理する部署である。

 

 インフラの整備・管理を協働で !?

 西東京市では、1941年に計画されていたまま手つかずであった都立の公園整備が急に行われ、1967年に計画された道路「西東京3・4・9号保谷東村山線」がいよいよ着工されて東大農場を分断するなど、東京都による「鳥の目」的な開発が行われ、市民は、蚊帳の外に置かれている。

 確かに、出来てしまえば、少し前に出来た「保谷調布線」(234号 伏見通り)は、自動車道・自転車道・歩道が分かれていて使いやすいし、都立東伏見公園も遊具が楽しいと言っている親子も多い。だから、都にしてみれば、俺たちに任せておけばきちんとやるのだから、近隣住民の多様な意見をいちいち聞く必要はないと思っているのかもしれない。

 

伏見通り

都立東伏見公園の滑り台

 

 お隣の小平市では、都道「小平3・2・8号府中所沢線」の計画変更を求めて住民投票まで実施したが、急遽、市長が「投票率が50%に満たない場合は成立しないものとする」として、投票結果の開票すら行われなかった。都からの圧力があったのではないかと勘ぐってしまう。こうした情報を聞いているものだから、インフラ整備において、行政が計画づくりから市民等と協働するという静岡県の話を聞いた時には、耳を疑った。

 

 「協働の底力。『虎の巻』」

 頂戴した資料によれば、「静岡県では、道路、河川、港湾、公園、農地、森林などの分野において、計画づくりから維持管理までの各段階を対象に、地域住民やNPO、企業などの多様な組織との協働による公共事業を進めています。この取り組みは、公共事業に対する県民の理解の促進と、各事業の効果的・効率的な執行を目的としています。」と書かれている。

 担当の方に、「これは、ある時期の知事が協働に熱心な方だったので始まったことなのでしょうか」と聞いても、「いやそうではなく、事業を進めるにあたって、協働することが最も効率が良いことが分かっているからで……誰が始めたというより、自然にそうなったのです。財政が厳しいから、自然にそういう知恵が働いたのかもしれません。」という答えが返ってきた。以下の表にみるように、協働事業の数は、年々増加している。

 年度別協働による取組箇所数

(出所)静岡県交通基盤部建設技術監理センター資料

 静岡県HPの交通基盤部には、「協働のひろば」というページがあり、そこに『協働の底力。虎の巻~いっしょに、未来の地域づくり。~』という資料がアップされている。これは、市民が協働に取り組むにあたって活用できるよう、協働に関する基礎知識に加え、具体的な取り組み事例、これまでの活動や事例の蓄積から学んだ協働の“コツ”や“ノウハウ”が紹介されている。「協働の底力組」と名付けられた協働実行委員会(NPO等で活躍している県民と交通基盤部を中心とした県職員)が作成したものだ。

(出所)静岡県のHPより

 『虎の巻』は、大部なのだが、その中に、「協働のイメージをつかもう」として、平成21年第6回の協働事例発表会で披露された寸劇が載っている。

 中山間地域で地域の子どもが通学中に交通事故に遭う。原因は、飲酒運転だったが、学校へ行く道には歩道がなく、両親は飲酒運転だけが原因ではないと感じていた。幸い骨折だけで済んだものの、両親には、不安が残る。自治会長との話のなかで、大きな事故が起こってからでは遅い、道路の拡張ができないものだろうか、では行政と話し合う会合をもってみようということになった。
「バーンと図面を見せられてこうなりますでは…」、「誰のための道路なのか…」、「花壇もつくりたいと思ったけど、管理するお金がないと言われて…」、「事故が起こる前になんとか…」という住民たちの声。それを聞いて、行政職員が「計画を白紙に戻して地域の皆さんと考えたいと思っています。でも、地域の意見をまとめて欲しいのです」という。
地域の人たちは、「えっ、そんなことができるんですか?」、「協働というらしいよ…」と半信半疑ながら、子ども達のことだからと何回か会合を開き、現地視察や計画づくりを始めた。こうして足かけ3年かけて、新しい道路が作られた。道路が広がって歩道がつくられ、カーブのスペースには花壇がつくられ、花壇の管理は、地元婦人からなる花の会が行うことになった。……

というような内容だ。

 実際には、さらに続いて、休耕田に菜の花やひまわりを植えて、それが地域のお祭りになり、観光にもつながり、子どもや学生も参加するようになり、企業のスポンサーもつき、特産品も生まれたというような話になっている。これは、フィクションだが、基本的なスタンスは、この通りとのことだ。ただ、最近では、道路を作るといったインフラ整備での協働よりも、インフラの維持管理やその活用に重点が移ってきている。

 交通基盤部では、協働の推進に向けた取り組みとしてさまざまなことを実施している。

① よりあい会:行政内部からの意識改革が必要であるとして、県・市町村等行政職員の協働に関する情報の共有化と連携強化、意識啓発、スキルアップを図るための研修会。
② くるまざ会:西部、中部、東部に分けて実施。協働事例の紹介、県民・NPOと行政が多様な立場から取り組みの工夫や課題などについて話し合い、情報共有と信頼関係の構築を図るための意見交換会、および取り組み現場の訪問。
③ 地域づくり発表会:年1回開催される。参加団体は、自らの活動を広報するとともに、協働する人を見つける、あるいは、他の活動からヒントを得るのが目的。
 

 地域づくり発表会 in 静岡

会場である「グランシップ」からみえた富士山(著者撮影)

 

 実態がどんな感じなのだろうと、年1回開催されている「協働の底力。地域づくり発表会in静岡」に出かけてみた。出展団体は18、県内各地域で協働による地域活動に関わっている市民活動団体やNPO、大学生、高校生、企業、行政職員など約90名が参加した。

 司会は、静岡大学と静岡県立大学の学生さん2人。寸劇「地域の見守り@協働」が行われた後、各団体が1分ずつ説明、流域に特化したクラウドファンディングを行っている一般社団法人Clear Water Project「カワサポ」の講演。そのあと設営を変更して、4団体ずつ、より詳しい説明をする時間が持たれ、お見合いタイムのような感じで、興味を持ったり、一緒になにかやったりしたい団体と質疑応答するという流れだった。

 

 

 1.企業の参加が多い

(クリックで拡大)

 静岡県の協働で注目される第一は、企業の参加が多いことだ。
 これは、交通基盤部農地局が「一社一村しずおか運動」(注1)という農山村と企業のパートナーシップによる地域活性化を目指す運動をしていることも関係しているようだ。過疎化や高齢化で集落機能が低下し、農地や農業用水など資源の保全が困難になっている農村と企業の社会貢献活動(CSR:corporate social responsibility)を結び付けたいとの想いから始まった取り組みである。企業は、行政に言われて嫌々やっているのかと思ったが、「社員にとっての福利厚生に役立っている」、「自社の技術で国土保全をしたい」など、前向きに取り組んでいたのに驚いた。
(注1)一社一村しずおか運動

 たとえば、不二総合コンサルタント㈱(注2)は、土木建設関係のコンサルをしており、「環境CRS」活動に力を入れている。自社の業務上でも環境に配慮するのはもちろんのこと、「一社一村」では、本社が浜松市にあることもあり、浜松の北にある、日本の棚田百選に選ばれた久留女木の棚田で、「久留女木竜宮小僧の会」(注3)と田植えや草刈りを行うなどの交流をしている。また、「しずおか未来の森サポーター」にも参加し、NPO法人「プレンティア」(プレジャーとボランティア、 楽しみと奉仕と融合させた造語)に協賛し、一緒に里山再生活動をしている。このほか、掛川市にある支店や営業所が掛川市の「希望の森づくり」のパートナー協定企業ともなっている。主に、防潮堤に静岡らしい景観を作ろうと植林を行っている。
(注2)不二総合コンサルタント㈱
(注3)久留女木竜宮小僧の会

 

不二総合コンサルタント㈱による協働事例発表

静甲㈱による協働事例発表

 

 静甲㈱(注4)は、包装機械をつくるメーカーだが、社員にとっての福利厚生の意味も含めて、農山村に関わりたいと思い、企業の方から、どこかよいところはないかと農地局に紹介してもらったという。今では、藁科(わらしな)川の上流にある清沢(きよさわ)地区で活動しているNPO法人「フロンティア清沢」(注5)を支援し、社員が稲刈りや餅つきなど、この地域との交流を重ねている。
(注4)静甲㈱
(注5)NPO法人フロンティア清沢

 

 大鐘測量設計㈱(注6)は、事業継続マネジメント(BCM:Business continuity management)というリスクマネジメントに取り組んでいるが、災害時に、今まで測量会社として培ったドローンを使った撮影技術を活用し、大雨が降った後に山林に土砂崩れや地すべりが起きていないかなど、高齢化等で山林の保全が不十分な地域に対していちはやく災害情報を提供できないかと検討している。自社だけでなく、同じような業務をしている複数の会社と連携して実現したいとのことであった。
(注6)大鐘測量設計㈱

 

 2.若い人の参加が多い

 第二に、若い人の参加が多いことだ。
 司会も大学生が担ったほか、大学や高校のサークルなどが参加していた。
 たとえば、1月に実施された東部のくるまざ会では、沼津高専が開発したロボットで古くなった橋の点検が行われた。残念ながら当日は、学会発表と重なりパネル展示のみであったが、地元自治会の人や親子連れ、行政職員など34名が参加した様子が紹介されていた。これから、インフラが老朽化していくなか、こうした協働の展開が期待されている。

 

 また、静岡県立大学の環境サークルCO-CO(注7)は、「人と自然が共生している社会」を目指して活動しており、2011年から清水の北にある大内地区の里山を保全・維持する「大内竹林再生プロジェクト」に参加し始めた。県の「しずおか未来の森サポーター」に登録し、大内地区で里山を再生しようと活動している地元の方々と一緒に竹林整備をしている。
 (注7)環境サークルCO-CO

 

 3.国の出先機関も参加

 第三に、国の出先機関も、県の協働の動きと一緒に活動していることだ。
今回は、浜松河川国道事務所(国土交通省)が「ミズベリング遠江」(注8)で参加していた。「ミズベリング」というのは、水辺の新しい活用方法を生み出そうというもので、各地で行われているらしい(注9、注10)。浜松では、天竜川の親水施設、河輪地区水辺の楽校「天竜川いきいき探検隊」が開校してから今年で5周年を迎えることから、8月に「宵祭り」を開催した。市民団体・自治会の連携により、クラウドファンディングで資金を調達し、「手作り灯籠天馬船プロジェクト」を実施することができたという。これからも、浜名湖・天竜川流域で魅力的な水辺づくりを考えていきたいとしている。
 (注8)ミズベリング遠江
 (注9)Mizubering(ミズベリング
 (注10)大阪・中之島の川辺にビルから突き出した心地よいテラスが作られたり、隅田川の水辺でランニングするイベントが開かれたり等々している。

 

 協働のベース:人と人の出会い

 最近では、インフラ整備は減っているが、それでも、地震・津波対策を進めている。それにあたっては、①地域の文化・歴史・風土、及び暮らしに根差したものでなければならない、②自然との共生及び環境との調和の両立を目指さなければならない、③地域の意見を取り入れながら、県と国、市町が協働に推進しなければならないとした「静岡方式」を推進している。このため、たとえば、伊豆半島では、50地区に分けて、地域住民と一緒にオーダーメイドの津波防災対策を考えているという。先に触れた掛川市についても、コンクリートの防潮堤ではなく、景観にも配慮した森の防潮堤にしようと、県・市・企業・NPO・市民が協力しあって植樹を行っている。

 今回の発表会の事例の多くは、インフラの保守・活用や過疎化・高齢化で疲弊しつつある里山再生の手助けが多かった。どの事例も企業や大学のサークルなどが里山再生に力を入れているNPOや地元自治会などと協働で活動しており、県や国の出先機関がそれを後押ししていた。

 私が最も驚いたのは、参加者が同じ目線であったことだ。自分たちの国土を守るために、行政・企業・県民の区別なく、それぞれが自分の出来ることをやろうという点で一致していた。確かに、静岡のように、横に広く、海も山も抱えた地域で、隅々まで目が行き届いた暮らしを実現するには、行政だけでは賄いきれず、「協働」に頼らざるをえないに違いない。

 それにしても、垣根なくフランクな関係性を構築できているのは、よりあい会、くるまざ会、発表会などを通して、お互いの顔を知り、忌憚ない意見交換を繰り返してきた積み重ねのたまものなのだろうと思う。

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。