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第6回 支える家族


 三輪隆子(みわ内科クリニック)


 

 前回までご紹介したように、認知症とともに生きる方々を多くの人々が支えています。中でも、最も身近で支えているのが御家族です。今回は認知症の方を支えるご家族とのかかわりについて述べたいと思います。

 

 初診時の会話

 

 認知症の方は、御本人が一人で受診されることはあまりありません。ご家族が物忘れなどに気づいて、おかしいなと思って受診を勧めて下さることがほとんどです。この受診に至るのに、苦労されているご家族が多いのです。私のところに来て下さる方は、受診するという第一の関門をとりあえずクリアした方ですが、それでも受診を納得されていない方も多くいます。

 医師『今日はどのようなことで受診されましたか?』 
 本人『別にどこも悪い所はありません。家族に言われたので来ました』
 医師『昔より忘れっぽくなったと感じますか? 毎日の生活で困ることはありますか?』
 本人『忘れっぽいことはありますよ。もう年ですからね。でも、特に困ることはないです。何でも自分でできるし、今までと同じようにやっています』『私は受診しなく てもいいと思ったのですが、家族がそんなに言うんなら、一度みてもらってもい いかなと思ってきました』
 家族『同じことを何度も言うんです』『約束を忘れたり、さっき言ったばかりの事を忘れたりするのに、それを指摘するとそんなことはないって認めないんです。前から受診するように何回も勧めたのに、必要ないって否定してばかり、やっと連れてきたんです』

 初診の時にはだいたい同じような会話が交わされます。

 

本人も気にしている

 

 認知症で物忘れが目立つのにそれを認めない方は多くいます。物忘れが強くて、自分が忘れてしまっていることを忘れてしまうので、周りが思うほど気にならないという場合もあります。しかし、忘れっぽくなったことを本人が否定するからといって、そのことを全く気にしていないわけではありません。

 先ほどの会話の様に、『忘れっぽくなったとは思う』『前と比べて何となく違っているような感じがする』とご自分の変化に気づいていることはよくあります。症状が軽いほどその傾向は強くなります。そのような場合には、ご本人ももしかしたら認知症かもしれない、そうだったらどうしようという不安をかかえています。その不安から防衛的になり、そんなことはないと自分の物忘れを否定することになりがちです。そのような気持ちでいるときに、忘れっぽいことを繰り返し指摘されると、感情的になったりかかわりを否定したりしてしまいます。多くの方が、『認知症』というレッテルを張られてしまうことを危惧しているのです。

 本人自身が不安を感じているということを理解したうえで、忘れっぽくなった状態を受け止めて、それでも家族が支えるから大丈夫という姿勢を示すことが必要です。受診を勧めるときにも、物忘れがあってもそれほどひどくないけど、もっと年を取ったらどうなるかわからないから今のうちに大丈夫かどうか相談してみたらどうかと勧めてみてください。

 

家族の負担を軽く

 

 認知症と診断して、外来に通い始めてからも、受診時には、かならずご本人に『何か困ること心配なことありますか?』とお聞きします。『忘れっぽくなってしまった』『なんか頭がぼうと靄がかかったようで』と漠然とした不安を訴える方もいますが、多くの方は『困った事ありません』と答えます。それでは本当に何も困っていないのでしょうか。

 『何も困らないが、女房がうるさい事だけだね』と毎回笑って答える方がいます。『検査の結果も良くなっているのは、奥さんがうるさく言ってくれるからですね』とお返事すると、『そうだね』と笑っています。診察室では、ご本人中心に診療を勧めていかなければなりません。その中でも、御家族の努力はわかっているということを何とか伝えることができればと言葉を選んでいるつもりです。

 実は私の母も認知症で、知り合いの先生に診ていただいておりました。診療に付き添っていったとき、やはり先生に困っていることはと聞かれて、一瞬躊躇したのちに『娘に起こられることです』と答えていました。先生は、笑って『娘さんも、患者さんの御家族には怒ってはいけないと言っているんですけどね~』と笑って返事をされていました」

 誰でもそうですが、自分の気持ちを受け止めてもらえないことの不満は大きいものです。
診察室で患者さんが話し始めると、御家族が横から口を出して次々と否定していくことがあります。あまり目立つと、『今は●●さんとお話ししているので、少し待っていただけますか?』と制止します。ご家族としては、正しい情報を伝えなければと思ってのことですが、まずは、患者さんご本人がどう感じてどう認識しているかをお聞きすること、あなたが治療の中心ですよということをわかっていただくことが大切なのです。

 良くお話を聞いたうえで、『それではご家族の話を聞いてもいいですか』とお聞きします。患者さんのいないところでお話ししたいようであれば、検査をしている時などを利用してご家族とだけお話しする時間を作ります。

 認知症とともに生きるご本人を支えながら、介護する御家族の負担が少しでも少なくなるように、気持ちに寄りそっていけるよう、これからも努力しなければと思っています。

 

©ks_skylark

 

 
【筆者略歴】
 三輪隆子(みわ・たかこ)
 認定内科医、神経内科専門医、身体障害指定医(肢体不自由、音声言語、平衡機能障害)。西東京市医師会理事。
 静岡県清水市(現静岡市清水区)出身。信州大学卒業後、信州大学第3内科入局。佐久総合病院で地域医療を研修後、東京都立神経病院、狭山神経内科病院で神経疾患、難病の診療に従事。1995年(平成7年)国立身体障害者リハビリテーション病院神経内科医長。リハビリテーションのほか社会復帰、療養・介護など福祉的な問題にも取り組む。2007年(平成19年)1月「みわ内科クリニック」院長。2013年(平成25年)6月医療法人社団エキップ理事長兼務。2017年(平成29年)4月から理事長。

 

 

 

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