第34回 なにやら楽しげな「おやじの会」


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 皆さんは、小学校区に「おやじの会」というのがあるのをご存じだろうか。自主的な組織というか集合体なので、全ての小学校区域にあるわけではない。文字通り、我が子が通う小学校のお父さんたちの集まりだが、子どもが小学校を卒業してしまっても、OBとして引き続き参加しているお父さんも多い。

 今回「おやじの会」を取り上げたのは、前回の「どんど焼き」取材の際、保谷第二小学校(保二小)では、当初の担い手たちが高齢化でイベントを続けられなくなった折、おやじの会が引き継いだという話を聞いたのがきっかけだ。そこで、ホニホニおやじの会のフェイスブックを見てみると、実に様々な活動をしており、地域ぐるみの活動も多い。しかも楽しそうだ。

 他の学校はどんなだろうとネット検索してみると、碧山小学校おやじの会が実施している「逃走中ごっこ」の写真が目を引いた。こんなことやってくれたら、子どもはさぞワクワクするのではないだろうか。では、自分が暮らしている地域の向台小学校(向台小)は、どんな様子なのだろう…といった興味から、今回は、ホニホニおやじの会(2012年~)、碧山小学校おやじの会(2015年~)、向小オヤジの会(1995年~)にお話しを伺った(注1)

 

「逃走中ごっこ」のハンターたち(2018年)(碧山小学校おやじの会提供)

 

 PTAは、本来ボランティア団体のはずだが、一般的には、やや義務化している。また、各小学校区にある青少年育成会は、行政からの支援がある。これに対し、おやじの会は、まったくしがらみのない集まりだ。「やれるヒトが、やれるトキに、やれるコトをする」のがモットーだ。ただ、それぞれの地域ごとに、性格や活動内容が異なる(注2)

(注1)市内には、このほかにも、中原小学校上向台小学校におやじの会があり、活発に活動しているようだ。
(注2)保二小では、会費も会則もないが、常にLINEで情報交換が行われており、各自できる範囲で機動的に活動している。一方、碧山小と向台小は、PTAのなかのサークルという位置づけ。碧山小は、おやじの会独自の会則があり、現役とOBメンバー合わせて10名程度が活動している。向台小は、PTAの会則に則っているものの、おやじの会独自の会則はなく、やはりLINEでつながっており、各自できる範囲で活動している。。

 

1.学校生活を安全安心で心地良く

 

 おやじの会は、小学校の日常生活を安全安心で心地良くするためにさまざまな活動をしている。学校の登下校の見守り(保二小)、通学路の清掃(中原小)、生き物飼育の手伝い(保二小)、花壇の手入れ(保二小)など。また、多くの学校で、運動会のテント張りなど準備の手伝いや当日の駐輪場の整理をしている。最近では、電動自転車も多く重いので、相対的に力のあるおやじたちが駐輪場を担当してくれるのは、喜ばれている。

 保二小で恒例行事になっているのが、新一年生のために、椅子の足につけていたテニスボールを取り換える作業だ。授業中に音がすると子供たちの気が散るというので、保二小では、椅子の足にテニスボールを付け音が立たないようにしている。毎年、新一年生のために、おやじの会がボールの付け替え作業する。

 

新一年生のために椅子にテニスボールを取り付ける(ホニホニおやじの会提供)

 

 碧山小では、校長から頼まれ、先生方に混じって、校庭にタイヤを埋める作業を手伝った(子供たちがタイヤ飛びをして遊ぶ)。

 

2.学校のイベントをさらに豊かに

 

 保二小では、隔年で、展覧会と学芸会が行われている。ホニホニおやじの会は、学芸会の大道具や展覧会の大きな飾りつけの手伝いをしている。たとえば、2018年のホニホニ美術館の折には、おやじの会は、5年生の共同制作「星の世界へ、さあ行こう! -夜の銀河鉄道と星座たち-」の骨組み制作を手伝った。おやじの会がアーチ部分を作り、そこに、子供達が描いた星座を先生方が1枚1枚丁寧に貼り、素敵な銀河のトンネルに仕上った。こんな素敵な展示物が出来たら、子どもたちには、良い思い出になるに違いない。

 

ホニホニ美術館でおやじたちが骨組みを作った銀河のトンネル(ホニホニおやじの会提供)

 

 向台小では、展覧会の折に、子どもたちが展示品を制作する様子をビデオに撮影し、夜8時の閉館まで映像を流した。普段、子どもの学校での様子を見ることが出来ない保護者たちに大変喜ばれたという。碧山小では、入学式での家族写真撮影のサポートをしている。一般にこうした行事で家族写真を撮る場合、お父さんが撮影するため、写っていないことが多い。そこで、おやじの会が家族全員の写真を撮ってあげるというものだ。

 

入学式での家族写真撮影サポート(碧山小学校おやじの会提供)

 

 おやじの会は、このほかにも、学校や育成会主催のさまざまなイベントに参加したり手伝ったりしている。向台小では、育成会他主催のもちつき大会の手伝い、保二小では、学校の「ホニホニ共和国」(総合学習)で絵本の読み聞かせをしている。

 

3.おやじだって遊びたい

 

(1)水鉄砲合戦
 保二小では、2学期に向けて身体を慣らすため、学校が始まる前の一週間、朝ラジオ体操を実施、その最後の日に、水鉄砲や水風船を手に、子供も大人も入り乱れ、水を浴びせ合う。首から「命」と呼ばれる金魚すくいの「ポイ」をぶら下げ、それが破れたら負けというルールだ。2019年には、保二小副校長チームと柳中副校長チームの2組に分かれて壮絶なバトルを繰り広げた。おやじたちも、ずぶ濡れになって、なんだか嬉しそうだ。同じような水鉄砲合戦は、碧山小でも行われている。

 

ラジオ体操最終日の水遊び(ホニホニおやじの会提供)

 

(2)逃走中ごっこ
 前述したように、碧山小では、テレビでおなじみの「逃走中ごっこ」をしている。おやじの会メンバーのほか、保護者のお父さんやお母さんがハンターになる。ハンター投入の演出も、キャンプ用テントから登場する、あるいは倉庫のシャッターを開けて登場するなど毎年工夫を凝らしている。子供たちが逃げ回り、10分間、ハンターにつかまらなかったら勝ち、捕まると牢獄に入れられる。

 捕まっても復活戦があり、毎年やり方が異なるが、じゃんけんで勝つ、水の入ったペットボトルを10本倒したらなど、復活方法も毎年工夫している。勝つとシールがもらえ、何回戦か実施して、もらえたシールの数に応じて賞品を得る。中学生になった生徒が自分もハンターをやりたいというので、ハンターらしく黒いサングラスだけはつけてもらったそうだ。

 

(3)学校でのお泊まり体験
 学校でのお泊まり体験は、前回のどんど焼きで記したように、けやき小では、育成会が実施したことがある。碧山小と向台小では、おやじの会が毎年主催している。

 碧山小には、ランチルーム(大きな板の間のスペース)があり、夏休み、ここで宿泊体験をする。1日目の夕食は、家庭科教室で、炊飯器ではなくお鍋でお米を炊いてカレーライスを作る。3年生以上の子供たちが料理をする。低学年でも、保護者と一緒なら手伝える。本当は、飯盒で焚きたいところだが、それでも鍋で火加減をしながら炊くのは、子どもたちには物珍しく感じるようだ。

 

子どもたちが料理(碧山小学校おやじの会提供)

 

 そのあと、大きな風船を使ったバレーボール大会を数班に分かれ対抗戦で行う。キャンプと言えば「キャンプファイヤー」だが、室内なので、おやじたちが工夫して、小型扇風機で赤い紙をゆらゆらさせたランタンを作成、その周りでフォークダンスをした。

 

工夫したランタンのキャンプファイヤーを囲んで(碧山小学校おやじの会提供)

 

 夜9時ぐらいになると、非常灯を隠して真っ暗にし、少人数に分かれて肝試し。ルートを決め、ルートのあちこちに用意されている札を回収してくる。要所におやじが隠れていて脅かす。段ボールの壁が動く、水鉄砲で水をかける、ホラー映画『リング』に出てくる貞子のイメージに似せて髪の毛がふさふさ出てくるなどなど。泣いてしまう子もいる。11時になると、いよいよお泊まりタイム。床に段ボールやバスタオルを敷くなど思い思いの方法で寝る。2日目には、豚汁と非常食のα米で食事。2019年には、このちょっとした非日常体験に42名の子どもが参加した。

 向小オヤジの会がつくられたきっかけは、阪神淡路大震災を経て、当時の校長先生が、地域の人の顔が分からないのは、何かの折に不安だ、PTAは、お母さんが主体だが、おやじの顔も見えるようにしたいという思いだったという。だが、「防災キャンプ」と称して、体育館にお泊りする体験を始めたのは、ようやく2019年からであった。2019年には、大人29人、小学生23人、未就学児2名が参加した。未就学児も保護者が一緒なら参加できる。

 

 キャンプの折には、碧山小と同様、肝試しやキャンプファイヤーを実施。碧山小は、校庭が芝生なのでできないが、向台小は、土のグラウンドなので、消防署に許可を取り、本物のキャンプファイヤーをすることが可能だ。こちらでも、子どもたちが家庭科教室で作ったカレーを火の周りで食べる。

 

体育館でのお泊まり体験の様子(向小オヤジの会提供)

 寝る方法は、各々が考え、簡易テントの人もいれば、体育館のマットを活用する人などいろいろだ。2020年度の代表である足立啓介さんは、未就学児童も含め親子3人で参加したが、実際に体育館で寝てみると、いびきや咳払いなどが予想外に響くのに驚いたという。これが本当の避難で大勢の知らない人同士が寝るとなったら、とても気を遣うだろうなぁと思ったという。

 

(4)公園や渓谷でバーベキューやゲームを楽しむ
 向台小では、毎年5月に小金井公園で親子レクリエーションを実施する。親子で楽しめるミニゲームやカレーランチ。ご飯やスプーン、コップは持参。大人一人500円、小学生一人300円、未就学児無料で行う。2019年には、54家族、107名が参加した。このイベントを楽しいと思い、おやじの会に参加してくれることを期待している。また、秋には、秋川渓谷で川遊びとバーベキュー、ゲームなどを楽しむ。

 

親子でレクリエーションin小金井公園(向小オヤジの会提供)

 

4.地域ぐるみの祭りを主導

 

 おやじの会のなかには、学校内に留まらず、地域のお祭りに出店したり、手伝いをしたりしているところもある。たとえば、中原小では、ひばりが丘児童センターの「流しそうめん」イベントのお手伝いをしているし、一般社団法人まちにわひばりが丘主催の「るるるバザール」に出店している。なかでも、地域との係わりがダントツなのが保二小だ。どんど焼きの実施もこれにあたるが、もう一つの大きなイベントが「むくのき祭り」だ。

 保谷柳沢児童館に隣接した「むくのき公園」で、毎年10月頃に実施される。「この地域には、お祭りがない。だったら自分たちで始めよう」と、児童館と相談し、自費を投じて先輩おやじたちが始めた。2019年で第22回目となる。今では、1500~1700人くらいが集まる大きな祭りとなった。

 

むくのきまつりの様子(ホニホニおやじの会提供)

 

 この祭りで面白いのは、小学校3~6年生(保二小、東伏見小)で構成される子ども実行委員会と、保二小・東伏見小・柳中のPTA、育成会、ふれあいのまちづくり住民懇談会ほにほに、ホニホニおやじの会などの地域の関係団体で構成される大人実行委員会とがあることだ。

 子ども実行委員会は、独自に自分たちで企画したお店を開催する。2019年には、「ソースせんべい」、「ストラックアウト(1~9の看板にボールを投げ、いくつ抜けるかを競う)」、「打って打ってうちまくれ(射的)」、「そろえてポン(図柄を合わせる)」の4つのコーナーを開いた。このほかにも、地域住民がけん玉・ベーゴマ・お手玉などの昔遊びを教えてくれるコーナー、学童クラブの父母会が主催する輪投げやスーパーボウルのお店も出る。

 

 さらに、大人実行委員会がフランクフルト、焼きそば、ヨーヨー釣りなどのお店を出す。子供たちは、事前に200円の「おまつり券」を購入。この券で、いくつものお店のなかから、5つを選んで回ることができる。もっと多く回れるようにしてはどうかという意見もあるが、子供たちに余りお金を使わせたくないことや、店を出している子供たちも遊びたいだろうとの考えから、当初からこのやり方をしている。

 会場には、ステージが設けられ、キッズダンス、太鼓、ジャグリング、三味線、民謡などのほか、保二小と東伏見小の先生方のバンドがそれぞれ出演する。毎年近くの武蔵野高校吹奏楽部がオープニングを務めてくれる。音響は、おやじの会が機器持参で自主的に担っている。ともかく盛りだくさんのお祭りだ。

 

子どもたちの店のひとつ(ホニホニおやじの会提供)

 

 ホニホニおやじの会は、地域の団地の夏祭りや児童館の行事(親子で手作り製作)などにも気軽に参加・手伝いをしている。地域の団地では、毎年夏まつりをしていたが、高齢化で続けられないというので、手伝うことにした。団地の公園がリニューアルした際にも、オープニングイベントを買って出た。このように「子どもは地域で育てる」というのを厭わず実践している。

 各小中学校は、いざという時、避難所に指定されている。ホニホニおやじの会では、後藤紀行さん(保二小)と北澤敏さん(柳中)がそれぞれの避難所運営協議会の代表になっている。日ごろから地域で大人とも子どもとも親しくなっている人がいざという時の責任者になってくれているというのは、頼もしい限りだ。

 

5.楽しいから続く

 

 以上見てきたように、おやじの会があると、子どもたちの学校生活が豊かになる。逃走中や水鉄砲合戦、学校でのお泊まり体験、川遊びなどは、おやじの会あってのものだろう。お腹の底から皆ではしゃげるなんて、うらやましい限りだ。碧山小学校おやじの会を立ち上げた吉田聡さんは、子どもたちに、集団で楽しむ遊びや学校に泊まるという非日常を体験させたかったと言っている。近年は、育メンも増え、休日は、家族で楽しむケースも多くなっているが、家族単位だけでなく、多くの人たちと楽しむチャンスは、なかなか得られないのではないだろうか。

 おやじの会のコア・メンバーの人たちは、一様に、「楽しいから続いている」という。働き盛りのお父さんたちだが、地域には、会社とは異なったいろいろな人たちがいるので、その人たちと一緒になにかをやり遂げるのも面白いという。保二小では、うまい具合に大工さんがいてくれるので、どんど焼きの土台づくりや展覧会の大きな展示物作成にあたって大いに助けられている。碧山小では、お泊まり体験の折のランタンづくりに力を発揮する人、肝試しのアイデアを出すのが好きな人がいる。向台小でも、仲間やその知り合いに特技を持っている人がいて、革細工のイベントや鷹匠のイベントを実施、子どもたちに珍しい体験をさせられたという。

 

鷹匠の技を体験する(向小オヤジの会提供)

 

 もちろん、おやじの会では、イベント後の反省会と称する飲み会が欠かせない。保二小では、下戸でも、ちゃんと参加するという。飲み会のなかから、次のイベントのアイデアが生まれることも多いからだ。碧山小では、おやじだけが楽しむのではなく、メンバーの家族を含めていこいの森公園でバーベキューをして楽しむこともやっている。

 おやじの会は、全国的に存在し、毎年、全国おやじの会サミットも開催されている。お互いに交流し、面白そうなイベントを教えあっている。「できるヒトが、できるトキに、できるコトをする」のがモットーのおやじの会は、強制的ではなく、こうした「ゆるさ」ゆえに、本人たちも楽しむことができる。しかも、お父さんたちの地域デビューの場でもある。一般に、会社を退職したお父さんたちが地域社会に馴染まないことが課題になっている。しかし、若いころに、おやじの会に参加していたお父さんなら、退職後も、地域で楽しく暮らせる技を身に着けられるのではないだろうか。

 

***

 

 このようにとても有意義なおやじの会だが、現在、コロナ禍で、子どもたちを交えたイベントができずにいる。子供たちにとっても、おやじたちにとっても、残念だ。

 

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師(2017年まで)。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。

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