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第1回 住宅の内と外


東由美子(建築家)


 

  「バリアフリー」は1980年代後半から注目され、その後の法律や条例の制定により、公共建築や街づくりではかなり進んできました。個人の住宅でも介護保険制度が成立して以降、段差をなくす、手すりをつけるなどのバリアフリー化が進んできています。
 しかし2016年の今も、住まいやまちのバリアフリー化は達成されたとは言えない状況です。公共の建物にもバリアフリーの基本の考え方がわかっていないのではと思える例が見られます。オリンピック、パラリンピックの開催を控えて、増え続ける外国人や観光客への配慮も必要になってきました。これから何回かにわたって、西東京市のバリアフリーを一緒に考えていきます。

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 住宅内部のバリアフリー化については一般にもかなり認識されてきたようですが、私が仕事や相談をとおしてまだまだここに課題があると感じるのは、玄関から道路までのバリアフリー化です。

 日本の木造住宅は、土台を湿気とシロアリ被害や水害から守るため、1階床を地盤面から45cm以上上げると建築基準法で決めています。また、2008年に施行された「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(通称 瑕疵担保責任法)により、新築住宅の基礎の高さは30cm以上にするよう定められました。これを守ると1階床の高さは地盤面から45cmより上がる場合が多いです。地盤面は道路から10cm程度上げることが一般的ですから、全体では道路から1階床まで最低でも55cmは段差ができてしまいます。傾斜地や道路からの高低差が大きい場所ではもっと段差ができます。

 

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スロープがうまくデザインされている玄関アプローチ

 

 車いす生活や、足が不自由にならない限りその段差は玄関の上がり框と外部階段で解消することになりますが、一旦車いす生活になったらもう外に出ることがむずかしくなってしまいます。車いすで外出することを特別のことと考えている方もいるかと思いますが、高齢になれば家の中では歩けても外では車いすを使うことは多いですし、車いすでなくても買い物用シルバーカーやキャスター付きのキャリーバッグを使用することはよくあることです。また、乳児をかかえる保護者はベビーカーで外出することも増えています。

 先日相談を受けた例でも、玄関からの段差が問題になりました。70代の夫婦でそれまで2人とも歩行に何の問題もなかったのが、夫が外出先で転倒して硬膜化血腫を起こし歩行が出来なくなりました。妻は車いすでも自宅に帰って生活させたいと考えていましたが、玄関の土間から道路まで約40cmの段差があり、長さ2mのスロープ板を使っても妻の力で引き上げることはむずかしく自宅に帰るのを断念せざるを得ませんでした。このご夫婦の家はコンクリートのマンションの1階でしたが、マンションやアパートの少なくとも1 階はスロープなどで段差なく通行できるようにしておくべきでしょう。

 1戸建住宅でも、玄関までのポーチはできるだけスペースに余裕をもっておくと、いざという時役にたちます。また、玄関ではなくても、部屋から直接外に出て道路まで通じる経路を確保しておくことは、スロープを設ける場合にも、長物の搬入にも、火災などの非常時の避難にも役立ちます。

 家から外にスムーズに出ても道路は段差だらけだ、という話もよくききます。私も母を車いすで散歩に連れ出すと、歩道にもこんなにでこぼこや傾斜があるのだと普段歩いていると気づかなかったことに気づかされます。車が車道から敷地内に入るために、歩道にスロープがついているのはよく見かけることですが、そこを通る度に車いすが傾いて乗っている人は不快な思いをします。これを解決するため歩道と車道の段差を小さめにして、歩道内の傾斜はつけない方法も最近では見られるようになっています。

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いくつものスロープで分断されている住宅街の歩道

 

 西東京市内はまだ歩道が整備されていない場所が多いのですが、歩道がない場合も道路の端には水はけのため傾斜がついています。歩行が困難で杖をついている人などはこの傾斜のついている部分を歩くのが大変なので、真ん中に近いところを歩きがちでとても危険です。水はけは他の方法でとることもできるので、人や車いすの通る部分は平らにして欲しいと思います。

 障害を持ったり、足腰が弱っても家に閉じこもらず外にでて社会とつながることは大切です。健康で歩行に問題のない人の視点だけでない家づくり、まちづくりをさらに考えたいものです。

 

【筆者略歴】
 東由美子(ひがし・ゆみこ)
 1948年生まれ。建築家。東設計工房主宰。住宅、障害者、高齢者のグループホームの設計などに携わる。女性建築技術者の会会員(1986-1990年代表)。趣味は国際交流、太極拳。著書『もっと頭のいい収納―「かたづけ上手」のスッキリ生活術』のほか、共著『すまいのカルテット―春夏秋冬』、『いきいきさわやかーダイニング&キッチン』(女性建築技術者の会)『アルバムの家 』(同会など。