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第11回 いま、柳沢が熱い!


  富沢このみ(田無スマイル大学実行委員会代表)


 

 革新は辺境から始まるというが、これまでひっそりとしていた西武柳沢駅周辺で新しい動きが始まっている。『ひばりタイムス』でも、一つひとつの動きは取り上げてきたが、今回、少しまとめておきたいと思う。

 

 2100人以上の来場者で盛り上がった第2回「やぎさわマーケット」

 

中村晋也さんデザインのチラシ

 2017年4月16日(日)、柳沢駅北口の団地裏にある「柳沢せせらぎ公園」で開催された第2回「やぎさわマーケット」は、暑い日差しのなか、人ごみでむせ返るほどだった。2100人以上の来場者だったという。

 ビール、焼きそば、から揚げ、クレープ、イタ飯などの飲食のほか、宮城県女川町のさんまの佃煮、ファーム柳沢のミニトマト、このほかに子供服、雑貨、布小物、アンティークなどのフリマ的なブースが出店。南口から石釜パン工房ウーノ、北口から倉喜屋、マイスターメガネ、菜のや、手創りかばん工房クラフク、アジュールなども出店していた。第1回目より会場が広くなったこともあり、50近い出店となった。また、ステージでは、落語家瀧川鯉んさんの司会でプロ、アマ入り混じって音楽やダンスなどが披露された。

 このイベントの主催団体は、「柳沢駅前お買い物便利度向上実行委員会(以下実行委員会)」というお堅い名前だ。平成25年度から3年がかりで西東京商工会が実施した「多摩地域商業便利度向上事業 西東京市編」調査の柳沢地区を取りまとめた中小企業診断士の板橋昭寿さんが、地域の報告会に参加した意欲のある市民の方々や駅近辺の店主に声をかけて作った団体だ。板橋さんは、自身も長年住み慣れた柳沢駅周辺の商業が衰退しつつある現状を憂いつつも、やりようによっては可能性を秘めていると考え、この団体を発足させた。

 

 

 実行委員会のメンバー18人は、それぞれの得意分野で人脈を駆使して出店者・出演者を探し出し、ミニコミ誌に掲載を呼び掛けるなど積極的に動いた。板橋さんは、市役所、警察、消防、保健所などに足繁く通い、公園利用の許可や飲食販売の許可を得、全体を取りまとめた。彼のような実務能力に長けた方が居てくれるというのは、柳沢地区にとって心強い限りだ。「『やぎさわマーケット』に大勢の人が来場し、その日のイベントが成功したからといってそれで良いというわけではない。これをきっかけに来場者に柳沢の良さを知ってもらい、また、既存の店を回遊してもらうのが目的」と言う

 

マーケットの仕掛け人板橋昭寿さん

 第1回は、2016年10月30日(日)、南口の「ほうやちょう保育園園庭」と「保谷第三児童遊園」で実施された。寒い日だったこともあり、500人もくればよいかと思っていたら、1200人ほどが来てくれたそうだ。これに勢いを得て今回の第2回の開催となった。既に、第3回を本年秋に実施する予定で、開催場所をはじめ様々な企画を練り始めている。

やぎさわマーケットのHP: http://yagisawa-mkt.weebly.com/
やぎさわマーケットのFB:https://www.facebook.com/yagisawa.mkt/

 

 

 

 乗降客数が少ないうえに、購買が他地域に流出

 

 西武新宿線の西武柳沢駅は、西東京市にある5つの駅の1つだが、急行が止まらないこともあり、一日平均の乗降客数が一番低い。

 

図表1 駅ごとの乗降客数

順位(92駅中) 駅名 一日平均乗降客数(2016年度、人)

12位

ひばりヶ丘駅 70,247
14位 保谷駅 60,672
11位 田無駅 75,240
57位 西武柳沢駅 16,415
44位 東伏見駅 24,705

(出所)西武鉄道HP:https://www.seiburailway.jp/company/business/railway-business/data/

 

 他の駅前にはいわゆる大型スーパーがあるものの、西武柳沢駅には無いこともあって、最寄り品でも地元での利用度が低い。図表2は、西東京商工会『平成27年度多摩地域商業便利度向上事業 西東京市調査報告書』平成28年3月によるが、各駅近辺居住者が地元駅周辺店舗を利用する割合を品目別に示したもので、西武柳沢駅近辺居住者は、雑貨、生鮮食品、米・酒などの最寄り品であっても、地元での利用が25~30%程度にとどまっている。

 

(出所)西東京商工会『平成27年度多摩地域商業便利度向上事業 西東京市調査報告書』平成28年3月

(出所)西東京商工会『平成27年度多摩地域商業便利度向上事業』平成28年3月の表を分かりやすく加工した。

 

 図表3の生鮮食品の購入地域を見ると、田無駅周辺の店舗、駅周辺以外の店舗、中央線沿線の店舗、その他の比率が高い。

 北口には、富士街道に面して昔ながらの商店街(柳盛会柳沢北口商店街、以下柳盛会)が立ち並んでおり、奮闘している店があるものの、空き店舗が少なくない。南口は、団地群が立ち並び、一角に西東京市柳沢公民館・図書館がある。駅前は、ロータリーになっており、三鷹・吉祥寺へのバスの便は、とても良い。中央線に出やすいという利便性がある一方、これが他地域への購買流出を招くことにもなっている。一見南口には、商店が無いように見受けられるが、駅を挟んで80の事業所があるという。

 

 「やぎさわ まちゼミ」

 

「やぎさわ まちゼミ」のポスター

 こうした状況を打開しようと、柳盛会では、2014年秋から「やぎさわ まちゼミ」を始めている。「まちゼミ」は、2003年に愛知県岡崎市で始まり、現在では、全国に広がっている。「やぎさわマーケット」が来街者の増加を狙っているのに対して、「まちゼミ」は直接的に来店者の増加を狙ったものだ。

「まちゼミ」は、各商店の店内で実施され、その道の専門家である店の人から専門知識や実技を教えてもらえる。その日は、商品を売ってはいけないことになっていて、消費者と店主とが出会い、顔見知りになり、信頼関係を築くことによって、その後付き合いが始まることを意図している。店内で実施するので、人数が数人に限られ、予約が必要だ。

 私は、第1回の折、保谷園でお茶の美味しい入れ方を他の2人の方と一緒に教えて頂いた。また、別の日に、マルヨシで包丁研ぎを教えているところを覗かせてもらった。また、第3回の折には、マイスターメガネで、店主が趣味のジャズについて解説と演奏が聴ける回を受講させてもらった。ジャズは、その店で扱っているものではないが、店主の稲垣俊幸さんの人柄を知るきっかけとなり、そのご縁で、その後、同店でPC用のメガネを誂えることになった。

 

保谷園でお茶の美味しい入れ方を学ぶ

マルヨシで包丁研ぎを学ぶ皆さん

マイスターメガネでジャズを学ぶ

 

 

 

「やぎさわ まちゼミ」は、第5回まで終了し、第6回をこの10~11月に開催する予定だ。柳盛会加盟店は、現在71店舗あるが、「まちゼミ」参加店は、毎回20店前後だ。店ごとの定員が1~5名と少ないものの、回を重ねたため、受講生は延で800人ほどになっている。受講生の評判は良いが事務負担は、結構大変らしい。でも、私がメガネを誂えたように、店にファンを作るきっかけになっている。

 柳盛会では、「まちゼミ」はじめ、各種売り出しの景品として、お店の自慢の一品を多数提供する方法を続けている。売り出しにあたって、福引抽選券を配布し、抽選会で当選券が当たる。消費者は、その当選券を持って、その店に行き景品を手に入れるという仕組みだ。ここでも、消費者と個店とをつなげる工夫を凝らしている。良い商品が当たるので、毎回の抽選会には1時間も前から列が出来る状況とのことだ。

柳盛会のHP:http://nishitokyo.shop-info.com/ryu1/
やぎさわまちゼミのHP:http://yagisawa-enjoy.weebly.com/
やぎさわまちゼミのFB:https://www.facebook.com/yagisawa.enjoy/

 

 新世代の店舗の誕生

 

 このところ、柳沢地域の空き店舗に、若い世代によるいくつかの新しい店舗が開店している。2011年1月に百豆(自家焙煎珈琲ももず、2017年7月末に閉店・移転予定)、2013年8月にビスケッタ(Biscuitta)が店を開いた。2016年4月には駄菓子屋ヤギサワベースが、2016年12月にはヤギサワバルがオープンした。そして、2017年4月には、ベーグルの店M’s ovenが開店した。これらの店は、これまでの商店とは、少し毛色が違っているように感じる。一つは、毎日営業しているとは限らないことだ。

 

ビスケッタさんの店内

 

 たとえば、百豆は、FBの情報によると(注1)、店は、土曜日のみ 12:00~17:00しか空いていない。ネット通販をしており、木曜日までに注文すると土曜日に発送するとある。通販のページには、「ただいま育児中なので…」とスムーズな対応が出来ない旨の謝罪文が掲載されている。

 ビスケッタは、2008年春から吉祥寺の西公園前で自転車による販売をしていた2人の女性(ときわともみさん、つねおかひろこさん)が設けたお店で、営業日は、火水木金の4日のみであり、やはり「ツキイチおやつバコ」をネット通販している。HPに出産した年が書かれており、彼女たちも子育て中のようだ。

 最近オープンしたM’s ovenは、FBによると(注1)、火水金の12:00~18:00と土曜日の11:00~14:00のみの営業だ。

 駄菓子屋ヤギサワベース店主の中村晋也さんは、本業がデザイナー。先輩と2人で会社を立ち上げており、デザインの仕事が忙しいと店を開けられなかった。子ども達からは、いつも閉まっていると文句を言われていた。そこで、この4月からは、奥様が仕事を辞め、駄菓子屋に本格的にかかわることになった。それでも、火水木金の14:00~17:30の開店だ。これも、家族との時間を大切にしたいとの思いからだという。子供向けだけでなく、ここを「ベース」に、親子で楽しめるイベントなども実施している。

 

ヤギサワベースの窓から見えるたくさんのフィギャー

 

 中村さんは、たとえば、デザインの仕事でも、顔の見えないビジネスライクな仕事よりも、地域のお店の人と話し合いながら、ロゴを考えたり、チラシをつくったりといった顔の見える関係性のなかで仕事がしたいと言う。西東京商工会の『一店逸品物語』の表紙や、前述の「やぎさわマーケット」のチラシなども手掛けている。彼は、実行委員会のメンバーでもある。

 ヤギサワバル店主の大谷剛志さんは、大学生の頃から縁あって、保谷本町サッカークラブで子ども達にサッカーを教えており、下宿していた階下のラーメン店が閉店するというので、そこにバルを開いた。大谷さんは、茨城県鹿嶋市で無肥料無農薬・自然栽培の仕事にも係っており、その合間を見てバルを開いている。チラシには、木金土日の19:00~22:00が開店と書かれているが、不定休とも記されている。主に、鹿嶋市の野菜や地ビールを扱っている。

 

ヤギサワバルの看板

奥のギャラリースペース(展示は、明治時代の藍染の布)(写真は上下とも大谷氏提供)

 バルでは、単に営業するだけでなく、テーマを決めてゲストをお呼びし、「バルとお話の日」を催したり、ギャラリーも設けたりなど特徴ある運営をしている。大谷さんは、現在2階を改装中で、シェア工房(ものづくりや作業、ワークショップをするスペース)「YAGISAWA LAB」にする予定だ。

 中村さんと大谷さんは、子どものサッカーを通じて知り合いということもあり、このほど、『まちライブラリー』も始めた。本に、寄贈した人の想いや、読んだ人の感想を書けるようにしてある。駄菓子屋ヤギサワベースでもまちライブラリーが始まっていて、返却はどちらのお店に返してもよい仕組みだ。今後、賛同してくれるお店を増やし、本を通して、いろいろな人やお店がつながると良いなぁと思っている。

 このように、新しい世代の店は、子育て、家族との時間、農業とそれぞれ異なるものの、自分らしい生き方と自分らしい仕事とのバランスを取りながら店を運営しているように思われる。また、ネット通販が当たり前のようになされている。
昔からの商店の感覚からみると、毎日店を開けないなんて・・・と怪訝に思われるかもしれない。しかし、これらは、新しい時代の商いの仕方なのではないだろうか。

百豆のHP:http://momozucoffee.com/
ビスケッタのHP:http://biscuitta.com/
M’s ovenのFB:https://www.facebook.com/bagelsmsoven/
ヤギサワベースのFB:https://www.facebook.com/yagisawabase/
ヤギサワバルのFB:https://www.facebook.com/yagisawabar/
まちライブラリーのHP:http://machi-library.org/
(注1)百豆とM’s ovenは、公開情報による。

 

 一周遅れのトップランナーに

 私個人は、田無駅周辺に住んでおり、駅前に大型商業施設があり、駅にも路面にもたくさんの店が集積していて便利ではあるが、全国チェーンの店が多く、個性的な店が少なくなっている。青梅街道沿いの商店街は、昔ながらの店がわずかに奮闘している状態だ。町の魅力は、気に入った店があったり、路地裏を歩いていると新しい独創的な店が次々と生まれることだったりすると思う。町に新しい発見があると、ワクワクして、また行ってみようと思う。残念ながら、今はそうした面白みに欠けているような気がする。

 一方、柳沢駅周辺は、大型商業施設が無いという意味では不便かもしれないが、かろうじて北口には商店街が残っており、評判の高い店には、他地域から買いに来る客もついている。また前述のように、空き店舗に新しい世代が店を構えるという動きもある。駅北口の一等地にあった永年の空き店舗3軒について現在取り壊し工事が進んでいる。早ければ年内に新店舗が3店できることになり、一気に商店街に明るさが戻ることになる。最近の柳沢地区の活発な動きに拍車がかかりそうだ。

 南口には、80の事業所があり、商工会の一店逸品に参加している意欲的な店が4つもあるとのことだ。田無駅周辺には見られなくなったゆったりくつろげる喫茶店もある。実行委員会の板橋さんは、南口にも商店街を組織化したい、そして、「まちゼミ」も、ゆくゆくは南口にも広げていきたいと抱負を語ってくれた。

 柳沢駅周辺に魅力的な個店が集積し、いつも変化があるのでワクワクし、また行ってみたくなるようなエリアになってもらいたい。今の勢いなら、その可能性は、十分あるのではないかと思える。

 

 

05FBこのみ【著者略歴】
 富沢このみ(とみさわ・このみ)
 1947年東京都北多摩郡田無町に生まれる。本名は「木實」。大手銀行で産業調査を手掛ける。1987年から2年間、通信自由化後の郵政省電気通信局(現総務省)で課長補佐。パソコン通信の普及に努める。2001年~2010年には、電気通信事業紛争処理委員会委員として通信事業の競争環境整備に携わる。
 2001年から道都大学経営学部教授(北海道)。文科省の知的クラスター創成事業「札幌ITカロッツエリア」に参画。5年で25億円が雲散霧消するのを目の当たりにする。
 2006年、母の介護で東京に戻り、法政大学地域研究センター客員教授に就任。大学院政策創造研究科で「地域イノベーション論」の兼任講師、現在に至る。2012年より田無スマイル大学実行委員会代表。2016年より下宿自治会広報担当。
 主な著書は、『「新・職人」の時代』』(NTT出版)、『新しい時代の儲け方』(NTT出版)。『マルチメディア都市の戦略』(共著、東洋経済新報社)、『モノづくりと日本産業の未来』(共編、新評論)、『モバイルビジネス白書2002年』(編著、モバイルコンテンツフォーラム監修、翔泳社)など。