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第11回 踏切番小屋はデジャブーの香り


絵筆探索_タイトル
大貫伸樹
ブックデザイナー

 


 

水彩画・踏切番小屋はデジャブーの香り ©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)

水彩画・踏切番小屋 ©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)

 


 

 西武柳沢駅の東側にある東伏見4号踏切の脇に小さな番小屋がある。ずっと踏切番小屋だと思っていたが、実はバスを誘導する誘導員のための小屋だという。ともあれ、この番小屋の脇で踏切が開くのを待っていると、幼い頃にもここでこうして電車が通りすぎるのを待っていたことがあるような懐かしい気持ちにさせられた。

 今から50数年前、中学生になったばかりのころのことだが、部活を終えるとすぐに自転車で30分ほどのところにある塾に通っていた。塾のすぐ手前に踏切があり、なぜかいつもこの開かずの踏切に止められて、遅刻させられることが多かった。踏切番のおじさんが大きなハンドルを回しながら遮断機を降しながら、「くぐり抜けてはだめだよ」といわんばかりに、私を牽制するよかのうに笑い見つめた。

 そんなことを思いながら、誘導員のおじさんに「昔は遮断機を降ろす大きなハンドルがありましたよね。」と話しかけてみた。「ああ、今は全自動になってしまい、西武新宿線には手動式の遮断機は無くなってしまったよ。所沢には手動式遮断機はないが、その名残の踏切番小屋があるよ」と、昔、踏切にいたおじさんと同じような笑顔で話してくれた。

 「この踏切も、東伏見公園が拡張されるのと同時になくなってしまうようだ……」と、バスを誘導する合間合間に色々な話をしてくれた。私は、塾をさぼった少年のような気持ちになり、踏切が開いても渡らずに、誘導員のおじさんの話をずっと聞いた。今日はこの番小屋が、塾であるかのように。

 

(筆者作成 クリックで拡大)

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装幀書籍
【筆者略歴】
大貫伸樹(おおぬき・しんじゅ)
 1949年、茨城県生まれ。東京造形大学卒業。ブックデザイナー。主な装丁/『徳田秋声全集43巻』(菊池寛賞受賞)、三省堂三大辞典『俳句大辞典』『短歌大辞典』『現代詩大辞典』など。著書/『装丁探索』(ゲスナー賞受賞、造本装幀コンクール受賞)。日本出版学会会員、明治美術学会会員。1984年、子育て環境と新宿の事務所へのアクセスを考え旧保谷市に移住。

 

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