Print This Page Print This Page

第12回 健康寿命を延ばす


 三輪隆子(みわ内科クリニック)


 

 日本は世界でもトップクラスの長寿国になりました。平均寿命は女性で87歳、男性も80歳を超えています。一方で、『健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間』を健康寿命と言いますが、日本ではこの健康寿命は女性は13年、男性は9年間ほど平均寿命より短くなります。すなわち、男女とも約10年ほど健康ではない期間を過ごしていることになります。これは本人にとっても、若い世代に医療や介護の負担が増えるという意味でも問題です。健康寿命を延ばすこと、つまり健康で生き生きとした自分らしい生活を送ることができる期間を延ばすことが国を挙げての課題となっています。

 

病気にならない

 もちろん、健康を損なう最大の理由は病気にかかることです。特に脳卒中は、介護が必要になる原因の第一位です。脳卒中にならないこと、もしなったとしてもできるだけ早期に適切な治療やリハビリテーションを受けて生活の不自由を減らす事が重要です。当院は、開院時から『脳卒中から脳を守る』をスローガンとして掲げています。これからも、いろいろな機会を通じて、このことを皆様に伝え続けて行きたいと思っています。

 それでは、病気にならなければ健康な生活が送れるのでしょうか?
 答えはノーです。『年を取ること』が健康を損ない日常生活の制限につながっていくことがあります。この状態を、昔は『老衰』と言っていました。最近は『フレイル』という言葉が広く使われるようになりました。

 老衰というと、年取って弱っていくのだから仕方ない…というイメージになってしまいがちです。フレイルは、そのままにしておいたら介護が必要な状態になってしまうかもしれないが、きちんと対応すればまた健康な状態に戻ることができる状態のことを言います。健康寿命を延ばすためには、フレイルにならないように日頃から努力すること、フレイルになったら早めに対策を立てまた健康な状態になるように努力することが必要なのです。

 

フレイル予防

 ではフレイルってどんな状態でしょうか?
 毎年健康診断を受けている80代前半の女性です。今年も一人で健康診断にきました。
 昨年と比べて何となく元気がありません。健診結果はどこも問題ないけれど、体重が昨年より減っています。生活の様子を伺うと

 「1年前まで病気の夫を介護していた。忙しかったけれど張合いもあった。夫がなくなって一人になったら気が抜けたようになって、一人分食事を作るのも面倒だし、あまりお腹もすかないし、今まで3食食べていたのが1回で済ませることもある。買い物にも行かなくてもいいし、病院についていくこともないからあまり歩かなくなった。たまに出かけてもなんか足腰も弱ってきたみたいで前より歩くのが遅くなった。歩くのも怖いから余計に出かけなくなってしまう」

 元気がなくなり家に閉じこもりがちになっていること。食事量が減って体重が減っていること、運動が少なくなって歩行スピードが減っていることなどからフレイルの状態に入っていると疑われます。健診結果では異常なしですが、80代と高齢ですのでこのままにしておくとフレイルが進んで介護状態になる危険があります。そうならないように対策を講じなくてはなりません。

 ではフレイルの対策としては何をしたらいいのでしょうか?
 まずはご本人に現在の状態(フレイル)の問題点を説明して今後しなければならないことをお話しします。

 

良く食べ良く動き、地域社会とつながる

 私が話していることは
①弱った足腰を回復するために筋肉をつけましょう
 どんなに高齢になってもきちんと運動すれば筋肉はつきます。歩くことも大切ですが、筋トレが必要です。マシンで筋トレをすることもいいですし、家で片足立ちをするだけでも筋トレになります。
②栄養のあるものをバランスよく食べましょう
 まずは3食きちんととること。必要な栄養素をバランスよくとることが必要です。特に高齢になるとたんぱく質の摂取量が減ってきます。たんぱく質を取らないとどんなに運動しても筋肉がつきません。歯が悪いと食べるものが制限されます。まずは歯医者さんで口の中の状態を診てもらいましょう。
③少しでも社会とのつながりを持つことが必要です
 社会から孤立することで、うつや認知機能低下が進んでしまいがちになります。一人で食べる食事は美味しくない、運動も一人では長続きしにくいものです。気の合った友人と食事を共にすることもいいでしょうし、ラジオ体操の集まりに参加することもいいでしょう。自分で見つけることが大変な場合には市報などで自分ができそうなことを探してみましょう。

 ここに述べたようにフレイル対策は医療機関でできる事ではありません。むしろ家庭や地域で取り組まなければならないことです。私たちかかりつけ医の役割は、フレイルの方を見つけ、フレイル対策ができるよう本人や家族そして地域に働きかけていくことだと思います。そしてその意味合いは今後ますます重要になってくると思います。

 今後高齢者になっていく一人として、自分自身が率先してフレイル対策をすることも忘れてはいけないと思っています。『良く食べ良く動き、地域社会とつながっていく。』これからもこれをモットーに地域のかかりつけ医として働いていきたいと思っています。

 私の連載は今回が最後になります。1年間ご愛読ありがとうございました。この連載をさせていただいたことで、かかりつけ医として地域に関わっていくことの大切さを改めて実感することができました。このような貴重な機会をいただきましたこと感謝いたします。

 

 

©ks_skylark

 

 

【筆者略歴】
 三輪隆子(みわ・たかこ)
 認定内科医、神経内科専門医、身体障害指定医(肢体不自由、音声言語、平衡機能障害)。西東京市医師会理事。
 静岡県清水市(現静岡市清水区)出身。信州大学卒業後、信州大学第3内科入局。佐久総合病院で地域医療を研修後、東京都立神経病院、狭山神経内科病院で神経疾患、難病の診療に従事。1995年(平成7年)国立身体障害者リハビリテーション病院神経内科医長。リハビリテーションのほか社会復帰、療養・介護など福祉的な問題にも取り組む。2007年(平成19年)1月「みわ内科クリニック」院長。2013年(平成25年)6月医療法人社団エキップ理事長兼務。2017年(平成29年)4月から理事長。

 

 

 

(Visited 73 times, 1 visits today)