第1回「新川空堀跡」


絵筆探索_タイトル
大貫伸樹
ブックデザイナー

 


 

スケッチブック背景+空堀画-960

水彩画・新川空堀跡 ©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)

 


 

 町名に泉や谷戸とあるのは、水に関係の深い土地柄であることを意味している。谷戸町と泉町には、雨が降った時に水を集め川のように流れる新川空堀跡が横断している。地元ではこれを「シマッポ」と呼んでいる。

 この空堀一帯の地下には、上宿地下水堆という地中の巨大な水たまりがある。浅いところでは2m程で地下水面にたどり着くことができ、容易に呑水を手に入れることが出来る。数百年前に、この水を頼りに人が住むようになったのがこの地の集落の始まりだ。水を湛える土地には、生き物たちを呼び寄せ生命を育む力が秘められている証でもある。

 私にとってもこの空堀跡は、30数年前に転居して来てまもなく、二人の息子を連れて剣道に通った懐かしい出発の道でもある。今でも、夏は緑と涼しさを提供してくれる秘密のリゾートであり、秋には紅葉を楽しませてくれる散歩道である。仕事に疲れた時に散策すると気分が癒される私だけのパワースポットなのである。

 世界四大文明が、大河のほとりから誕生したように、西東京市の文明もこの新川空堀から始まったのだと思うと、フタ暗渠となってしまったこの細道へ寄せる思いはさらに深まってくる。

 

新川マップ2

(筆者作成 クリックで拡大)


 

 

装幀書籍
【筆者略歴】
大貫伸樹(おおぬき・しんじゅ)
 1949年、茨城県生まれ。東京造形大学卒業。ブックデザイナー。主な装丁/『徳田秋声全集43巻』(菊池寛賞受賞)、三省堂三大辞典『俳句大辞典』『短歌大辞典』『現代詩大辞典』など。著書/『装丁探索』(ゲスナー賞受賞、造本装幀コンクール受賞)。日本出版学会会員、明治美術学会会員。1984年、子育て環境と新宿の事務所へのアクセスを考え旧保谷市に移住。

 

 

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