第4回 田無1丁目ガード下


絵筆探索_タイトル
大貫伸樹
ブックデザイナー

 


 

水彩画・田無1丁目ガード下 ©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)

水彩画・田無1丁目ガード下 ©大貫伸樹 (禁無断転載 クリックで拡大)


 

 多忙だった昭和60年代のバブル期には、よく終電に乗り遅れ、新宿の事務所近くからタクシーに乗り青梅街道を走って帰宅した。タクシーの運転手には「青梅街道と西武新宿線が交差するガード下をくぐって二つ目の信号を右折してください。」と行く先を告げるのが口ぐせのようになっていた。

 西東京市を東西に横断する青梅街道と西武新宿線は、共に事務所近くの新宿大ガードを起点として出発し、自宅近くの田無一丁目のガード(立体交差点)で再び出合う。あまり目立つ場所ではないが、この偶然に気がついたとき有頂天にさせられ、私にとっては愛しいランドマークとしての役割を果たしてくれた。

 1603年、江戸城築城のために青梅の成木村で採れる石灰を運搬する道路として青梅街道が整備された。1927年に西武新宿線がそれを跨いで、現在と同じ高田馬場〜川越間の直通運転を開始したときに生まれたのがガード下の小さな空間だ。

 見た限りでは特に魅力がある場所には思えないのだが、このガード下をモチーフとして描いてみたいと思った理由は、江戸の昔へと時空間の旅に出かけることが出来るタイムマシンでもあるからだ。

 青梅街道が石神井川を見下ろすように跨いだ時から324年間、そして、青梅街道が西武新宿線に見下ろされるようになってしまった時から約90年間。そんな歴史の旅へと案内してくれる出入口なのだ。このガード下を通り抜ける時は、いつも不思議の国のアリスにでて来る時計ウサギが洞穴に飛び込んだ時のように、江戸の昔にタイムスリップする入口に飛び込むような楽しい幻覚を見ることが出来る場所なのである。

 市の東西の真ん中に位置するこのガード下を中心にX字形に広がる4本の線が、両翼を広げ飛び立つ鳥の翼のような形を描いているのを思いながら佇むと、電車が通過するするときの轟音とともに天空に向かって飛翔する夢心地になれるパワースポットでもあるのだ。

 

(筆者作成 クリックで拡大)

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装幀書籍
【筆者略歴】
大貫伸樹(おおぬき・しんじゅ)
 1949年、茨城県生まれ。東京造形大学卒業。ブックデザイナー。主な装丁/『徳田秋声全集43巻』(菊池寛賞受賞)、三省堂三大辞典『俳句大辞典』『短歌大辞典』『現代詩大辞典』など。著書/『装丁探索』(ゲスナー賞受賞、造本装幀コンクール受賞)。日本出版学会会員、明治美術学会会員。1984年、子育て環境と新宿の事務所へのアクセスを考え旧保谷市に移住。

 

 

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